3つのヒントから導く、推論の精度を上げる学び
非定型問題の解決には推論が重要であるため、EMはその精度を上げるために学ぶことが大事である。しかし、どうすれば推論の精度が上がるのか? そのための学び方についての学び方について、大河原氏は認知科学の知見より3つのヒントを得たという。
1つ目は知識の一般性を高めることだ。さまざまな事例に触れることで、知識が文脈情報に引きずられにくくなるため、規則と情報の関係が薄そうでも結びつけやすくなる。これにより、演繹的推論と帰納的推論の幅が広がることが大きなメリットだ。
2つ目としては思考の多様性を高めることが挙げられる。これはひらめきを得ることが目的だ。思考の多様性とひらめきの関係を示す例として、大河原氏はひらめきの必要なパズルを解かせる実験を紹介した。この実験において、課題を解決できる人は初期からさまざまなパターンの試行を行っており、途中でヒントを与えるとさらにパターンが増えたとのことだ。
3つ目は学習による「脳資源の解放」で、これは「特定の処理が定着すると、同じ処理でも脳の負荷が落ちる」ことだという。大河原氏は「ある特定の概念をプログラミング中に利用すればするほど、認知的負荷が小さくなる」と文献を引用して紹介した。
これらのヒントから、大河原氏は「幅広く学んで深く定着した人ほど推論の幅が広い」という仮説を導き出す。さらに「推論の幅が広ければより良い手を思いつく可能性が高くなり、それらしい推論を選び取る精度も高くなる」という。これはいわゆる「達人の勘」と呼ばれるもので、「将棋のトップ棋士は頭の中で膨大なパターンを処理し、悪手を除外するというプロセスを無意識のうちに行っているため、最善手が光って見えるそうだ」と具体例を付け加えた。