読書と経験を無駄にせず、学びにつなげるために
このように推論の精度を上げるには、幅広く学び深く定着させることが重要であることがわかる。しかし、多忙な中でそのための時間を割くことはなかなか難しい。大河原氏はここから、どのようにすれば限られた時間で幅広く深く学べるかに話題を展開していく。
まず、効率よく学習するための3つの要素が提示された。意味的処理が深いほど良い学習になるという「能動的関与」、予想と違った方が学習効率が上がるという「誤りフィードバック」、睡眠を挟んで繰り返し学ぶという「定着」だ。
この3要素を活かした学び方の例として、大河原氏は自身の取り組みとして2つの学習法を紹介した。書籍から学ぶ際の方法と日々の仕事から学ぶ際の方法だ。
書籍から学ぶうえでは、これまでの話を踏まえると幅広い書籍を精読するのが良い。しかし精読には時間がかかるため、限られた時間の中では幅を広げにくい。
このジレンマは、読書を2段階に分けることで解消されるという。まずは、本の概要と構造を把握するための「点検読書」を行う。これは「本のテーマはどう説明されているか、各章に導入やまとめがあってそこだけ読めば大まかに理解できるようになっているかなど、そういったことを確認する」ものだ。その後全体を流し読んで大まかな内容を把握し、精読に進むかどうかを判断する。
次に精読を行う場合は、本の構造に応じてその方法を変える。たとえば複数の独立した話題がある本の場合は、章や節ごとに要約する「要約法」が適しているという。序盤に論じた内容が中盤~終盤に関わるという本の場合は、マインドマップを作成して情報の結びつきを理解することをすすめた。他にもストーリーがある本では通読をおこなうことでしっかりと内容を理解し、多様な意見を聞きたい本の場合は読書会を行うといった形での精読がよいとのことだ。
日々の仕事からの学び方について、大河原氏は前提として「日々の仕事から学ぶにあたっての悩みは、一過性の記憶として終わりがちなこと」だとした。
この問題に対する対策として、大河原氏は効率の良い学び方の3要素と関連付けながら、「思ったことをすぐにメモして定期的に振り返る」という方法を提案した。
メモに書き起こすことで「意味的処理」を再度実行でき、メモが目に入るたびに自分の行動を客観的に見られるため「誤りフィードバック」を行うことができる。そして間隔を空けて振り返ることは自然に繰り返し学ぶことになるため「定着」させられるのだ。
書籍・メモはあくまで一例ではあるものの、明日から実行しやすそうだ。大河原氏は、どんな学び方をしても大事なことがあると前置きしたうえで「幅広く学ぶには量をこなす必要がある。学んだことを深く定着させるには間隔を空けた反復学習を行う必要があるため、継続なくして達成はない」と語る。「継続は力なり、がEMの学びだ」とまとめた。
講演の終わりに、大河原氏は「心身の健康がEMの学びを支える」と健康の重要さを示した。「疲れていると学びを楽しめなくなる。楽しめないと継続できなくなり元も子もない。ときには心や体を休めて健康を維持し、楽しめる状態を保つのが重要」 と述べ、継続するためにはモチベーションも重要であることを強調した。
とくに睡眠は記憶の「定着」に効果があるため、よく寝ることもEMとしての学びの一環だ。「学びとは生活である。心身の健康に向き合いつつ、学び続ける生活を続けてほしい」と参加者に提言を残し、セッションは終了した。