特化型ではないエンジニアだからこそ描けるキャリア
では、こうした苦境を抜け出すためにはどうすれば良いのか。川崎氏が強調するのは、「戦略的なキャリア思考の転換」だ。その具体例として、まずポジションは「作るもの」だと考えることを提案する。
組織には常に、解決すべき課題が存在する。しかもその大多数が、現状の組織や役割では解決できない課題であることも珍しくない。
「こうした場面では、広く浅い知識を持つジェネラリストが活躍できる。存在感を発揮できる瞬間は必ず来るので、そのタイミングをしっかり掴んで、キャリアを迷わず進んでいくことが重要だ」(川崎氏)。
また、一点特化という強みを持つスペシャリストと、引き出しの多さが武器のジェネラリストが相互補完し合うことで、エンジニア組織が機能する点も忘れてはならない。自身のキャリアに向き合うマインドセットとして、「これまでの経験は決して無駄にならない」と前向きな認識を持ち続けることも大切だ。
さらに川崎氏は、エンジニアリングマネージャーとしての可能性にも言及する。たとえばSRE領域においては、バックエンドやインフラレイヤーの知識は当然必要なものの、それに加えて広く浅い知識を備えているエンジニアのほうが、異なる領域間のリレーションやシナジーを考えやすくなる利点があるという。
「こうした利点は、”組織成果の最大化”を役割とするエンジニアリングマネージャーで活かしやすい」と語る川崎氏。「ジェネラリスト的なエンジニアは、チームでの課題解決やプロジェクト推進において、ハブ役としての機能を果たすことも可能だ。求められる機会は必ず来る」と、エンジニアリングマネージャーという役割にとってジェネラリストは「適任」であると示した。
社内でさまざまな職務を任される川崎氏だが、ときには自分の市場価値について思い悩むこともあった。しかし、たとえ一点突破型のキャリアでも、その領域でさらに優れた人材が現れれば”行き詰まる”可能性があることに気づいて認識が変化。「キャリアパスは青写真に過ぎず、完璧な形はない。なおかつ、自分がやりたいことと、現実的に目指せるキャリアパスは必ずしも一致しない」という考えに至ったという。
多少なりとも理解できる技術領域が増えれば増えるほど価値が高まるジェネラリスト型エンジニア。複数領域へのキャッチアップは決して容易ではないが、課題解決の手段として使えるものはないか、イベント参加などを通じて技術動向やノウハウなどのアンテナを常に張り続けることが、キャリアパスへのリスクヘッジにもなるというのが、川崎氏の持論だ。
さらに川崎氏は、「100分の1でも、3乗すれば100万分の1になる」という例えを用い、複数の領域を組み合わせることで生まれる希少性がエンジニアの価値を高めると力説する。たとえひとつの技術力が突出していなくとも、掛け算によって希少性を高めることで、エンジニア市場で存在感を発揮することも可能なのだ。
「バックエンド開発やインフラ構築、クラウドなどの経験はエンジニアとしての幅を広げるだけではなく、SREや社内情報システム、セキュリティのエンジニアリングマネージャーというポジションへの資質にも寄与する」と振り返る川崎氏。スペシャリストになることだけが、自らの希少性を高めるわけではないと強調した。
