「これはアトラシアンにとって看過できない」
2002年にシドニーで創業したアトラシアンは、「System of Work」をフィロソフィーに掲げ、「Jira」や「Confluence」など、テクノロジー主導の組織がチームでインパクトを出すためのプロダクトを数々提供している。

すべての部門が利用するチームワークの基盤としてのJiraやConfluence以外にも、プロダクト&開発部門が利用する「Jira Product Discovery」「Bitbucket」「Compass」、IT運用&サポート部門が利用する「Jira Service Management」、経営企画部門が利用する「Jira Align」がある。
とはいえ、当然のことながらアトラシアンのプロダクトだけですべての業務が完結するわけではない。日常的なコミュニケーションはSlackやMicrosoft Teamsで行い、資料はとりあえずGoogle Driveに保存するなど、さまざまなオンラインツールを使い分けているはずだ。そこでアトラシアンでは、外部連携にも力を入れているのが特徴だ。

次に、古川氏はStripe社の調査結果を取り上げ、ソフトウェア開発の非効率がもたらすコストとして、以下の3つの数字を示した。
- 目標未達による損失…1億900万ドル
- 非効率な開発による世界のGDP損失の推定…3兆ドル
- 情報へのアクセスが困難なために犯したミスの割合…21%
「加えて、アトラシアンの独自調査によると、『69%の開発者が、毎週8時間以上を無駄にしている』こともわかった。これはなかなか衝撃的な数字ではないか。チームワークに主眼を置く私たちとしては、看過できない」。
打開策としてアトラシアンが考えたのがAIの活用である。分散した情報やナレッジを整理するのは大変なので、AIに探させればいい。作業集約的なタスクもAIに実行させればいい。ウィンドウの切り替えによるコンテクストスイッチで無駄な時間が発生しているなら、ツールを連携してUIを統合すればいい。
アトラシアンのAIスタックは、JiraやConfluenceといったプロダクトの下に、「Atlassian Intelligence」という共通の体験レイヤーがあり、さらにその下に「Teamwork Graph」というデータレイヤーがある。アトラシアンのAIがどのように動いているのか、次に詳しく見ていこう。
JiraやConfluenceに貯まったデータがAIに活用されるまでの裏側
Teamwork Graphは、Atlassian IntelligenceやRovoといったアトラシアンのAI機能の基盤となるデータレイヤーである。Jiraを使ったプロジェクト管理では、エピックで作ったゴールの下に、ユーザーストーリーやタスクが紐づいており、その進捗度合いなどの情報が溜まっていく。あるいはConfluenceでインシデント発生時の対応策を残しておくと、このナレッジを誰が作成したのか、これを誰が閲覧したのか、このナレッジはどのワークと関連しているのか、といった情報が溜まっていく。このように、各プロダクトで登録された情報やユーザーの行動履歴などを有機的に紐付け、AIが取り出しやすい形でデータを保有しているのがTeamwork Graphなのだ。
このTeamwork Graphを用いてアトラシアンのAI機能がどのように動いているのか。その概念図が以下である。

- アトラシアンのプロダクトでプロンプトを書くと、Atlassian Intelligenceに送信される。
- Atlassian Intelligence がTeamwork Graphをチェックして、この人がどのチームに所属していて、どのプロジェクトに入っているのか、普段どのような情報を見ているのか、といった基盤情報を取得する。
- Atlassian Intelligenceがプロダクトからコンテクストデータを収集する。
- 最初に書いたプロンプトに、Atlassian Intelligenceが2.3の情報を追加したうえで、修正したプロンプトを大規模言語モデル(以下、LLM)に送信する。
- Atlassian IntelligenceがLLMの応答を受け取る。
- Atlassian Intelligenceが5で受け取ったものをプロダクトに返す。
なお、アトラシアンが独自のLLMを保有しているわけではなく、ChatGPT・Gemini・Claude・Llama3、Mixtral・Phi-3を適宜振り分けながら利用している。ユーザーが書いたプロンプトはLLMには保存されず、データ学習に使われるようなこともないので安心だ。
上記のような仕組みのもと、Atlassian Intelligenceでできることをいくつか見ていこう。
- 分散した情報の検索と集約:Confluenceの検索窓に「DSAppで使用するフォントは?」と入力すると、「DSAppとはデブサミアプリのことである」と記載された用語集のページと、デブサミアプリのUI方針について書かれたページ内のフォントに関する記述が抜粋・統合されて、回答として表示される。
- 箇条書きを表に変換:箇条書きでつらつらと書き出した内容に対して、「アルファベット順に並べ替えて、表にして。日本語の説明に加えて、英語の説明も追加して」と指示すると、データの順序やフォーマットが整理され、英訳も追加される。
- Jira課題の改善、子課題の提案:例えば顔認証ログイン機能を実装したい場合。「サブタスクを提案」のボタンを押すと、必要なタスクを自動で洗い出してくれる。提案されたタスクの中から要・不要を選択したり、編集したりできるほか、「サーバーサイドの実装を追加して」といった追加のプロンプトを入力すると、新たなタスクが提案される。
Rovoとサードパーティアプリの連携で作業効率が向上
続いて、Rovoの話に入っていく。Rovoは「Find(探す・見つける)・Learn(人間が学習する・理解を深める)・Act(行動する)」をアシストするAIのプロダクトである。プロダクトとは言っても、JiraやConfluenceのような単品ではなく、アトラシアンのさまざまなプロダクトに組み込まれているが、利用するには別途ライセンス費用が必要だ。
Findに関して言えば、Rovoの検索はAtlassian Intelligenceよりも検索範囲が広い。コネクタでJiraやConfluenceと連携しておけば、Google DriveやSlackなどのサードパーティアプリ内にある情報も引っ張ってくることができる。
現在、コネクトできるのはFigma・GitHub・Box・Slack・Microsoft Teams。他にも以下のようなアプリに順次対応していく予定だ。

次に古川氏はデモを見せながらRovoでできることをいくつか紹介した。
- 過去の課題や関連情報の深掘り:例えばUI変更を任された場合。JiraのプロジェクトボードからRovoのチャット画面を開いて、「過去にUI修正や変更に対応したのは誰?」と聞くと、JiraやConfluence、そのほかに連携しているアプリを横断的に検索して、その人物を特定してくれる。
- 作業レポートの作成:急に上長から、「現状を報告しろ」と言われた場合。Rovoに「過去のUIの改善、修正、変更に関連するタスクと、そのベネフィットをまとめて、レポートを書いて。プロダクト開発のことがわかっていない部長に対して、やってる感を出すために使います。硬めの日本語でよろしく」と頼むと、あらゆるところに散らばった情報をまとめて、レポートを作成してくれる。
- ConfluenceからJira課題を作成(β版):Confluenceのページで「Jira課題を作成」ボタンを押すと、それまでのコンテクストを踏まえたうえで複数のチケットを提案してくれる。現在はまだβ版のため提案されるチケットのタイトルは英語表記となっているが、今後、日本語にも対応していく予定だ。
また、Visual Studio CodeのCopilot ChatにはRovoのプラグインがあり、Copilot Chatから直接Rovoに話しかけることができる。つまり、Copilot ChatからJiraのタスクを確認したり、Confluenceの情報を検索したりすることができるのだ。これにより、ウィンドウを切り替える手間が省け、作業効率が向上する。ブラウザを開いたついでに「x.com」と入力して、時間を溶かしてしまうようなこともなくなるだろう。

「去年の社内調査によると、アトラシアンの開発者はAIを利用することで、毎週平均1時間43分を節約できている。アトラシアンはSystem of Workをテーマに、チームワークの課題領域に対して、JiraとConfluence以外にもRovoをはじめ、さまざまなプロダクトをマッピングして展開していることを知ってもらいたい」と語り、古川氏はセッションを締め括った。
※本記事は2025年2月時点の情報に基づいて掲載されています