Agile TPIを活用し、人とプロセスにアプローチ
浅黄氏が紹介したのは、ネットショップ運営をサポートするツールを提供するグリニッジ株式会社の事例だ。今回の事例は、同社の提供する2つのプロダクトに関するものだ。
浅黄氏が支援に入った当初、QAの体制がなく開発者がテストしており、新機能のテストはできているが、リグレッションテストはできていない状態だった。
そこで、浅黄氏が同社に理想の状態をヒアリングし、目的のすり合わせを行った。「メンバーの品質意識を高めて、より良いサービスを提供するチームにしたい」というゴールが見えたので、2023年1月からプロセス改善の取り組みを開始した。そして、2024年11月にほぼバグが出ない状態にまで改善した。
約2年間で実施したのは、ウォーターフォール開発からスクラム開発への移行や、シフトレスト、テストケースの標準化や、テストスキル向上のためのセミナーや輪読会……と、枚挙にいとまがない。
これらを全て一気に実践するのは不可能であり、場当たり的にやっても効果がない。どのタイミングで何を実施するかが重要となる。そこで浅黄氏は「Agile TPI (Agile Test Practice Improvement)」というフレームワークを活用した。
「Agile TPIは、テストプロセスを改善するフレームワークです。これを使って、評価・検証・改善を重ねました」
Agile TPIは、大きく4つの要素から成る。16種のキーエリアと3つのカテゴリ、108個のチェックポイント、そしてA~Gのクラスタだ。

「関与の度合い」「コミュニケーション」「テストケース設計」といったキーエリアに対して、3つのカテゴリで能力を評価する。プロフェッショナル、つまり個人の能力と、チームとしての能力、そしてオーガナイゼーション=組織全体の能力をそれぞれ評価するのだ。その評価軸となるのが、一つ一つの枠に割り当てられたチェックポイントである。
YES/NOで答えられる質問が用意されているので、これをすべてYESにすることを目指せばよい。A~Gのクラスタは優先度の指標になっており、Aから取り組むことが推奨されている。
「クラスタAのチェックポイントで『NO』になっているものがあったら、それをYESにするための取り組みから始めればよい。順番が明確なので使いやすいフレームワークです」
例えば、「テスト担当者のプロ意識」というキーエリアのクラスタAに「テストの役割を担う開発者が、特にテストエンジニアリングとテストケース設計に関するテストのトレーニングを受けている」というチェックポイントがある。
「テストのトレーニングを実施している会社は少ないのでは」と浅黄氏。グリニッジ株式会社においてもこの項目は「NO」だったので、対策としてQAセミナーや輪読会を開催。エンジニア全員が参加する会を毎週1時間、2年間継続した。その結果、チーム全体でテストスキルと品質意識が醸成された。
その他にも、テストケース設計に関して、優先度の高いチェックポイントをYESにするために、テストケースの書き方を統一。フォーマットを作ることで、開発者以外のメンバーでも実施できるようにした。
また、スクラム開発に移行したことでテストを実施するタイミングがあいまいになっていたところ、「コーディング前にテスト設計・ケース作成を行う」という手順にした。開発者がテストケースを作るため、コーディングの段階でバグが組み込まれにくくなる。「ただし、この時にテストのスキルがないと適当なテストケースになるので、開発者がスキルを身に着けることが重要」と補足した。
このAgile TPIの実践によって、グリニッジ株式会社では開発スピードも向上し、バグが出なくなったユーザーからの問い合わせに追われることもなくなったという。
浅黄氏は「一人ひとりのテストスキルを向上させ、プロセスを見直すことに注力しました。変化を実感してもらい、意識の変革を起こすことで、プロダクトの品質が向上しました」と振り返った。