「それってどうやってお金にするの?」技術とビジネスをつなぐ思考
小田中:師事したアーキテクトに触発され、その道を進むことを決めたとのことですが、その後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
米久保:そのアーキテクトの方とは1年程しか一緒に仕事ができず、そのあとは自分で勉強しても何が正しいかわからないという状況でした。そのため、最先端の環境に行こうと転職しました。一度目の転職先では著名なアーキテクトの下で3、4年ほどお客様への技術支援を行い、その後もっと大きなシステムにチャレンジしたくて電通総研に入りました。
小田中:お手本にしたい人と働きたいというのはいいですね。一緒に仕事をしてみてどうでしたか?
米久保:尖った人が多く、それぞれ違った考え方があって勉強になりました。でもみんな共通しているのは、技術そのものでは価値を生み出せない、ビジネスにしていかないと意味がないということでした。
社内勉強会で若手が「新しい技術がすごく面白そう」と発表すると、「それってどうやってお金になるの?」と問われます。そうすると詰まってしまう。当初は技術者として面白そうという見方しかしておらず、技術とビジネスをつなげる考え方を教えていただきました。
小田中:いい話ですね。アーキテクチャがビジネスに効くという説明はかなり苦労されると思うのですが、その関連づけはどうしていますか?
米久保:そうですね。技術選定の詳細をビジネスサイドに説明しても伝わりにくいので、上位目的にさかのぼって考えるようになりました。事業にとってどういう意味があるか、長期的に持続できるか、組織にどう影響するかという思考プロセスです。
そのようなとき、比較マトリックスを作って評価しますが、微妙なさじ加減の調整が必要です。アーキテクトが自らの判断で選ぶしかない場面で、選んだからには責任を持って説明しなければならないプレッシャーがあります。自分の好みでなく、上位の目的があってこの技術を選んだのだと、その時点では正しい選び方をしたということが重要だと思います。
小田中:技術選定って、最適解がどんどん変わっていきますよね。
米久保:はい。動く的を追いかけているような感じです。だからArchitecture Decision Record(ADR)のような形で、こういう背景・理由でこの技術を選んだこと、将来を見据えるとここに注意するべき、という情報を文脈込みで残しておくことが大事です。
小田中:近年は、ADRを作る現場が増えてきている印象があります。昔は、なぜこのような設計になっているか、聞ける相手がいない場合は考古学のような作業が必要でした。リアーキテクトするとき、昔の設計の意図を見出そうとしていきます。いまの感覚だとそういう設計にはしない、というものに出会ったとき、「きっと深い意図があるに違いない」と深読みするんですが、たいていの場合は深い意味はない。
米久保:そのようなとき、何か資料があるだけで全然違いますね。
小田中:現在はどんなミッションを担い、どのような業務をされていますか
米久保:以前関わっていたSI案件では専任のアーキテクトチームとして、プロジェクトの序盤に全体設計を定める規律重視のスタイルでした。現在担当しているプロダクト開発は、アジャイルなスタイルで進め、メンバーがその時々でアーキテクトの帽子をかぶって仕事をします。私はリードアーキテクトとして方針を定めつつ、企画から導入まで全部を担当しました。今は後進育成のため、開発リードは後輩に任せてディレクションを担当し、エンジニアリングマネージャーのように振る舞う場面も増えています。
小田中:キャリアを重ねると、役割は細分化していきますが、組織を管理するようになるとと結局全てを見ることになりますよね。米久保さんは、アーキテクトという役割の難しさや面白さは、どんなところがあると思いますか?
米久保:難しさは、未知の領域をいちから調べてプロトタイプを作って検証するというように、毎回学び直しでリセットされるところですね。
面白さは、常に挑戦できることですね。アーキテクチャは100点を目指すというより、70〜80点を確保するものです。制約があったり的が動いたりで、不確実性が高すぎるのです。でもその残りの20〜30点を伸びしろと捉えて、次の現場でどう埋めるか、新しい技術でトライするという継続的なチャレンジができるところが面白いです。

小田中:これまでの経験のなかで、特に動きが激しかった時期はいつですか?
米久保:最近は本当に振り回されっぱなしで、先が見えない状況です。生成AI技術をプロダクトでどんどん活用しないと競合他社に遅れを取るし、お客様に魅力的な価値を届けるためにも、開発プロセスにおける生産性向上のためにも、AI活用が求められています。今まで通り確実に価値を届けつつ飛躍も求められる中で、どうやっていくべきか悩んでいます。