AIツール導入の現在地──トピックは「個々のツール」から「コミュニケーション」へ
「AIのトピックが、個々のツールから、プラットフォームやコミュニケーションに移り変わっている」
ギットハブ・ジャパン合同会社でAIやオープンソースに携わる服部佑樹氏は、この数カ月で起きた変化をそう指摘した。
服部氏はGitHub Copilot Coding Agentを用いた実装を例に示しながら、新しい開発プロセスについて話した。「まずイシューを作り、どういったことをAIにしてほしいのかを文章に書く。それをAIとの対話の中でブラッシュアップして、会話を詰めていきながら決めたタスクをAIにアサインする形になっている」
開発プロセスの変化により、過去の意思決定の経緯を履歴として、開発チームの中で共有することがより重要になった。「開発者体験や、どうやってAIをチームに招待するのかにフォーカスが当たっている」と服部氏は語る。
これに対して、ログラスで生成AI/LLMチームの立ち上げに関わった加賀谷氏も、「AIツールの活用は、個人を超えてプロダクト組織全体でどう使うか、プロセスをどう変えていくか、にテーマが移っている」と同意を示す。
同社では、全社的なAIツールの導入を2024年末から推進。新規事業のプロトタイプデモ作成などで利用が進んだが、効率化の観点から徐々に既存事業や既存プロダクトでも浸透していった。
5月に実施した全社アンケートではCursorを利用するメンバーが大半を占めるようになり、エンジニア以外のプロダクトマネージャーやデザイナーもCursorでUIのコードを書くなど取り組みが進んでいる。
「プロダクトの開発フローやプロセスがどう変わっていくのか、最近は社内でも議論が上がっている」「全社プロダクト組織一丸となってどう使えるかを色々と試行錯誤している」と、加賀谷氏は同社の現在地を振り返った。
NTTドコモビジネスでGenerative AI ProjectのLeaderを務める岩瀬氏は、同社でもAIツールの活用が進む一方、大企業ならではの観点で「全社で一気に本格導入するというよりは、一部の少人数のところでトライアルする」「財務の観点から経費の支払いが簡単かどうかも大事」と話し、その意思決定プロセスの違いを示した。
各社でAIツールの活用が進む一方、その多様さゆえに管理の問題も存在する。
加賀谷氏はAIツールの経費精算について「普通に困っている」と話す一方、ツールの選定について次のように語った。
「何かのAIツールにコミットするのではなく、あるAIを使って開発に慣れていくことが、スタートアップとして競争に勝っていく中で必要になる。だからツールの乗り換えについては、たとえスイッチングコストが発生したとしても、良いと思うツールに取り組んでいこうという意志を会社として強く持っている」
また、ツール導入の意志決定については、シャドーITが存在しないようプロセスの整備はしつつも、「現場のメンバーの解像度が一番高い」のでボトムアップとコミュニケーションを多くしていると話した。
一方、岩瀬氏は現場とリーダーシップ層の間に立つ自身のミドルマネージャーとしての立場から、「現場の声と、こういうことをするとこんな効果が出る、というのを併せて、自分の組織長に持っていく」と伝え、その導入プロセスを説明した。
服部氏が、移り変わりの速いAIツールと、一般的に意思決定に時間を要するエンタープライズの難しさを質問すると、岩瀬氏はその一面を認めつつ、「エンタープライズはこれからアジリティを身につけないといけない」と語り、デモを見せることの大切さを紹介。
岩瀬氏は意志決定を促すため、リーダーシップ層に画面を共有しながら、AIツールがコードを書いて機能改善するさまを示すという。「プロンプトを書いて、目の前で動くものを見せると、あれ、こんなに(ツールの導入が)うまくいく? ということがある。見せるのが一番効きますね」(岩瀬氏)
