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ET West 2008 基調講演レポートVol.2

災害時における人命救助ロボットの現状と将来

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2008/06/30 14:37

 なぜ、阪神淡路大震災以前にレスキューロボット開発の動きがなかったのか? なぜプロジェクトの実現に7年を要したのか? どのような活動、あるいは出来事がその実現の要因を担ってきたのか。その結果生まれた「レスキュー工学」の今後の展望は。 本稿は、神戸大学 大学院工学研究科教授 大須賀公一氏が登壇したET West 2008の基調講演「災害時における人命救助ロボットの現状と将来」をレポートします。

目次

レスキューロボット工学誕生の経緯

 1995年1月17日、阪神淡路大震災が発生しました。災害現場から状況を伝えるニュースを見ていた大須賀氏は、「災害現場に、サンダーバード(*1)のようなレスキューロボットが助けに来てくれないのはなぜなのか?」と歯がゆく思ったそうです。

 大須賀氏は、この時初めて「サンダーバードのようなロボットを作れるのは、我々ロボット研究者の筈なのにレスキューロボットを作ろうと思ったことがなかった」ことに気づいたといいます。

 なぜロボット研究者は、この時まで災害時に活躍するロボットを研究してこなかったのでしょう? 大須賀氏は、過去100年間の日本における大震災を表にして振り返りました。

過去100年間の日本における大震災
過去100年間の日本における大震災

 日本国内では、1890年代から1995年の間に11回の大震災に見舞われています。一覧表の右端「間隔(年)」に注目してください。これは、前回の大震災からどれだけ年数が経過しているかを示しています。この一覧によると阪神大震災の前に起きたのは、1948年の福井地震です。

 実は、ロボット工学が生まれたのは1950年代でした。福井地震が発生した1948年というのは、ロボット工学が生まれる以前のことです。つまり、阪神大震災は日本のロボット研究者が初めて体験する大震災だったのです。

 大規模な救助活動が必要とされる現場で、ロボット工学はもっとも貢献できる立場である筈なのに、実際には何も役に立たちませんでした。それというのも、ロボットテクノロジーを災害救助活動に役立てるという観点が、研究者の中になかったことに気づかされたのです。

 ロボット研究に携わる先生方は、次に起こる震災の時には役に立つロボットを作らなくてはならないと考え、行動を起こしました。神戸大学の先生方が中心になり、1996年には、日本機械学会の中にレスキュー機器やロボットに関する研究会を組織し、現場のレスキューがどのように行われているのか調査しました。同時期に計測自動制御学会、システム制御情報学会でも都市防災システムの研究や、レスキューシステム工学研究交流会などを立ち上げました。そうした中で、「やはり、実機を作らなくてはならない」という流れになり、その研究費のために国に対して補助金の申請を行うことになったのです。

ロボット工学と防災工学を融合し、“レスキュー工学”の確立
ロボット工学と防災工学を融合し、“レスキュー工学”の確立

 ところが、それまで災害救助を学問的領域と考えていなかったため、どこに申請を出しても採択されなかったのです。申請は数年間で10数回行ったそうです。不採択になる理由としては、経済産業省からは「市場がない」、文部科学省からは「どこが学術的なのか?」と言われました。

 「確かに、そういう側面は考えられていなかった」と大須賀氏は言います。市場に関しては別の機会に話を譲るとして、今回の講演では、“学術的ではない”ということに対して、どのようなアプローチを行ったのかというお話がありました。

 実際、レスキュー活動は現場で役に立つものであり学問ではありません。それではレスキュー研究が学術的に取り扱えないのかといえば、そうとは限りません。現場で活用されている救助/救援技術、復旧技術はたくさんあります。現在は各現場で個人の経験や技術を活かし、臨機応変に対応しています。そのために技術や情報の蓄積ができないという問題があります。こうした技術や情報をまとめ、一般化しケーススタディとして解決策を具現化すれば応用が可能となります。

 大須賀氏は技術が進化して「工学」となるためには、基板となる「科学」が必要であると述べます。レスキュー科学と呼ぶべきものを確立し、これまでに蓄積されてきたレスキュー技術に対して、何らかの学術的考察を加える。またレスキュー科学のなかから新たなレスキュー技術が生まれる、それをまた科学へフィードバックするといった連携が必要ではないか? それがレスキュー工学だという主張をしています。

 そうして「レスキュー工学」というキーワードをつかって申請を繰り返し、2001年に「レスキュー工学構築を目指した啓発活動のための革新的企画調査」が、文部科学省に採択されました。

大大特のスタート

 この年、9月に米国で同時多発テロニューヨーク世界貿易センター事件が発生しました。2機の飛行機が燃料を満載したままツインタワーに突っ込み、2000人以上の死者を出しました。この時、事件発生直後から複数のロボットが現場に投入され、人体の捜索活動を行っています。その結果、11人の犠牲者がガレキの中から発見されました。

 この事件は、ロボットがこのような災害時に役に立つかもしれないということを示した例となりました。

 こうした様々な要因があり、文部科学省が2002年から開始した研究開発委託事業のひとつとして、「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)」がスタートしました。

 大大特は、大震災時に人命救助等の緊急災害対応のための人体検索、情報収集および配信等を支援することを目的とした研究開発を行うプロジェクトです。非常に大きなプロジェクトで、4つの大きなテーマで構成されています。

 その中のひとつが「被災者救助等の災害対応戦略の最適化」であり、そこでレスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発(レスキューロボットプロジェクト)を行っています。

「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)」のスタート
「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)」のスタート

 (*1)サンダーバード:日本では1966年に放映された特撮番組。世界中で発生する事故や災害現場に、国際救助隊の隊員が駆けつけ、さまざまなスーパーメカを駆使して救助活動をする物語。


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著者プロフィール

  • 舘 永理加(タチ エリカ)

    組込みエンジニ屋を父に持つ普通の中学生。フレンチブルのペコちゃんの飼い主。 最近タブレットを手に入れてPCでお絵かきを練習中。

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