2009年10月30日、品川インターシティホールで「FileMakerカンファレンス 2009」が開催された。FileMaker, Inc.の社長であるドミニーク・グピール氏を始めとして米国本社スタッフによるプレゼンテーション、そして事例紹介とテクニカルセッションが開催され、 FileMaker関連の本格的なカンファレンスが開催された1日となった。
オープニングセッションは基調講演と位置付けられ、ファイルメーカー社の日本法人社長であるウィリアム・エプリング氏がまず登壇し、カンファレンスの概要を説明すると共に、カンファレンス参加者に対して、ファイルメーカー社自身を知ってもらうこと、そして同社のテクノロジーを知ってもらうこと、さらに同社のスタッフと交流して欲しいと抱負を語った。そして、FileMaker, Inc.の社長ドミニーク・グピール氏にバトンタッチした。
現状のIT部門と組織内での問題は
表計算ソフトに頼り切っているところ
グピール氏の講演は、企業やさまざまな組織でのIT利用の実態についての分析と、その中でデータベース製品であるFileMakerがどのような利用が有効なのか、そして、それが組織のIT利用の進展につながるという点を実証的に示したものであった。技術的な視点とマーケティングな視点がバランスよく含まれており、開発者にとっての今後の立ち位置はもちろん、利用者あるいは利用を検討しているユーザーにとってもFileMakerの効果的な導入と運用を理解するのに有益な内容であったと言える。
まず始めに、現在のIT部門が抱える問題として、さまざまな制約や状況から、結果的にはミッションクリティカルなアプリケーションやインフラ、すなわち「エンタープライズアプリケーション」にのみ注力することになる点を示した。一方、組織内ではIT部門が抱えるような戦略的なITシステムだけでなく、各部門での業務をこなす戦術的ITシステムの必要性が高まっている。一般的にはそうした業務をExcelやAccess、特に表計算ソフトでこなそうとする傾向があるが、そこには多くの問題がはらんでいると説明する。
表計算ソフトで業務をこなしても、データは作ったユーザーの手元にのみ存在する。グピール氏は「データは存在するが孤立した島にあるのと同じである。しかもそのソリューションは一般には低い品質であり、バージョンコントロールの問題がある」と解説する。つまり、データがあったとしてそれをメールで送って共有するとなると、送った先で変更され、あちらこちらで異なるデータとして集積され一貫性のない状態になるということだ。結果として「使えない仕組み」がコピーされ組織の業務としての品質は何ら高めていないということになる。スケールアップにつながらないだけでなく、実際に作られてたものはエラーの発生が極めて高いことも調査等で報告されていると説明した。
ワークグループ内でのアプリケーションに
適合できるのはFileMaker
組織内のワークグループには、部署や特定の業務グループ、あるいは部署を横断したチーム等さまざまある。こうしたワークグループではテキスト文書はもちろん、画像やビデオ等、さまざまなデータが発生するし、データを集めて整理する必要がある点は言うまでもない。ただし、アプリケーションを作るのはチーム内のメンバーであることが多く、多くの場合はIT部門のサポートは受けられない。業務に関しては専門的であり自分の問題解決のためなので効率化に対する意欲は高いものの、一般には中間的なITスキルに留まることが多い。こうしたユーザーにとって使えるツールとは、「使い勝手がよく、1つのツールですべてが行える完備されたものである必要がある。そしてコストは低くなければならないが、一方でスケーラビリティやプラットフォームの多様性は求められてない」とグピール氏は分析する。そして、頻繁に更新を短時間で行うような仕組みが求められていると説明した。
現在はこうしたワープグループでのアプリケーションを表計算で作成しているが、むしろそれはFileMakerの方がより適合することをアピールした。 FileMakerには現状の問題点を解決するさまざまな機能が含まれている。1つは共有データベースの運用が可能なことで、あちらこちらにコピーが点在することは簡単に防ぐことができる。また、データベースの利用はGUIベースで使い勝手がよく、加えてスクリプトを利用した自動化により、業務の効率化を段階的にできるなど、ワークグループに必要とされるITツールの機能を備えている。組織内でのミッションクリティカルなトップレベルのシステムと、ユーザーのデスクトップアプリケーションの中間的な「ワークグループアプリケーション」の溝を埋め、問題点を解決するのがFileMakerであると位置付けた。
FileMaker社のビジネスのうち23%は日本市場
続いて、FileMaker社のビジネスについての説明に移った。同社は最近まではFileMakerシリーズのデータベースアプリケーションだけを製品として提供してきているが、これまで1,500万本以上の出荷を果たしている。Apple Inc.の100%出資会社として設立以来11年、すべての四半期で利益を計上しており、調査や開発へ継続的な投資を行い最近ではその投資も増えていると説明した。
FileMakerは世界各国に売り上げているが、2009年度の売上に関して、日本での売上比率は23%となっており、日本市場が同社のビジネスに対して大きな比率を占めていることを示した。そして、日本のユーザーや開発者に対しての感謝の言葉が述べられた。
そしてFileMaker製品の紹介に移った。FileMakerは4種類の製品があり、さらに個人向けデータベースのBentoとiPhone対応版があることも紹介した。これらはMacとWindows、そしてWeb公開まで含めたもので「完全なるデータベース・プラットフォーム」と表現した。そして、各製品とも最新版は2009年になってから出荷されたものであり、全製品がフレッシュなものであることも強調した。そして、前半の内容を改めて補強する形で、FileMakerはワークグループをターゲットにした製品であることも紹介した。
FileMaker製品の導入先についても紹介があった。メディアで賞賛されていることやフォーチュン100社内の70社で採用されていること、そして教育機関や公共機関等での利用なども紹介した。また、日本での導入実績として、2010年の大卒者に対する就職人気企業ラインキングの100位中86社で導入されていることも紹介された。ライセンスプログラムや開発社組織等についての紹介で締めくくった。
FileMakerの製品像と今後をクリアにしたセッション
FileMakerという製品は歴史が長いだけに知名度は悪くないものの、誤解している人が多いことも事実である。また、どんな使われ方がなされているのか分かりにくいソフトウエアであるとも言える。もちろん、個人利用から受託開発まで使えるデータベースソフトではあるが、グピール氏のプレゼンテーションは FileMakerが適合するユーザー像を開発者にもユーザーにも分かりやすい視点で説明した。FileMakerユーザーの中心像は基本的には「開発者」となるが、プロではない開発者が多い市場だけに、いわゆる業界向けのアピールは大きなうねりとはならない。FileMaker市場のバランスを見据え、さらに今後、FileMakerとどのようにかかわるべきなのかをさまざまな立場のユーザーおよび潜在ユーザーにメッセージできた点では成功したセッションと言える。