Parallel Inspector 2011の新機能
Parallel Inspector 2011は、メモリーリークやスレッド間のデータ競合といった、並列化処理を実装する際に発生する問題も解析可能なツールです。
今回のバージョンでは、以下のような新機能が追加されています。
- Cilk Plusのサポート
- リソースリーク検出機能
本節ではリソースリーク検出機能について紹介します。
リソースリーク検出
Parallel Inspectorは以前のバージョンからメモリリークの検出機能を持っていましたが、今回のバージョンから、リソースリークの検出機能が追加されました。これは、WindowsのUI機能を提供するGDIと、カーネルのリソースを取得したまま、解放処理を行っていない箇所について検出する機能です。
例えば、GDI、カーネルそれぞれで、以下のようにリソースを使用する関数を呼び、使用後にきちんとリソースを開放していない場合、リソースリークが発生します。
呼び出す関数 | 使用後に行うべき処理 | |
GDI | CreateBitmap(ビットマップ作成) CreateDC(デバイスコンテキスト作成) CreateFont(フォント作成)など |
DeleteObject関数でハンドルの削除 |
カーネル | CreateThread(スレッド作成) CreateProcess(プロセス作成) HeapCreate(ヒープオブジェクト作成)など |
CloseHandle関数でリソースを削除 (HeapCreate関数に対してはHeapDestroy関数) |
サンプルでリソースリーク検出を確認してみましょう。以下はスレッドを作成したのに、CloseHandle関数を呼び出し忘れたケースです。
//何もしないスレッド関数 DWORD WINAPI thread(LPVOID vdParam) { return 0; } int _tmain(int argc, _TCHAR* argv[]) { //スレッドを生成 HANDLE hThread = CreateThread(0, 8192, thread, NULL, 0, NULL); //CloseHandle関数を呼び忘れた! //CloseHandle(hThread); return 0; }
Visual Studio 2010で以上のソースをビルドし、画面上部のツールバーから、[Inspect]ボタンをクリックします。
表示される[Configure Analysis]ダイアログでは、[Analysis Type](検出する内容)を[Memory Errors]と[Threading Errors]から選択します。
それぞれ以下のエラーを検出できます。
Analysis Type | 検出されるエラー |
Memory Errors | メモリリーク、リソースリークなど |
Threading Errors | データ競合など |
今回はリソースリークを検出するため[Memory Errors]を選択しましょう。
また同じダイアログでは、検出の詳細度も選択できます。詳細な検出を行うほど処理時間が掛かります。今回は一番軽い処理の[Does my target leak memory?]を選択しましょう。
[Run analysis]ボタンをクリックすると、アプリケーションが実行され、終了後エラーが検出されます。今回は図のようにカーネルのリソースリークが検出されています。
該当する行をダブルクリックすると、以下のように該当する行が表示されます。
小さなサンプルであればこうした問題の発見は手動でも用意ですが、大規模なアプリケーション開発では、以前からサポートされていたメモリリークの検出に加え、今回からサポートされたリソースリークの検出は大いに役立つことでしょう。
まとめ
今後のアプリケーション開発において、並列化というテーマは不可避になっていくことでしょう。つまり「並列化するか否か」ではなく「どのように並列化するか」を中心に考えていく必要があります。
Parallel Studio 2011で新たにサポートされたCilk Plusは、複雑なマルチスレッドコードを書くことなく、シンプルな記法で並列化処理を実現することができます。まだ日本語の情報源も少ない状態ですが、ぜひ活用しましょう。
アプリケーションの並列化において有益な情報源として、Intel社からリリースされている「マルチスレッドアプリ開発ガイド」の日本語版がParallel Studio 2011の日本発売元であるエクセルソフト社のサイトで公開されています。
この開発ガイドでは、マルチスレッドアプリケーションの開発に伴って検討すべき要素を、基本的な理論から具体的な実装方法まで解説しています。(以前のバージョンではありますが)Parallel Studioの実践的な使用方法についても解説していますので、ぜひ参照してください。