ネーミングも内容もユニークな独自の制度、
すべてはよりよいサービスを生み出すため
サイバーエージェントといえば、インターネット広告分野における国内トップクラスの企業としてよく知られる。一方で、「アメーバブログ」「アメーバピグ」をはじめ、コンシューマ向けのメディアやコミュニティ、ソーシャルゲームなど、さまざまな自社サービスを企画・開発・運営する企業でもある。こうした中でも、現在特に同社が注力しているのが、スマートフォン向けサービスの開発だ。
今年4月には、その開発を担うエンジニアを大阪支社に集め、新たに関西の開発拠点を立ち上げた。同拠点で新規サービス開発チームを率いるのが、大阪スマートフォン事業開発室 マネージャの川畑氏だ。川畑氏は、サイバーエージェントにおけるスマートフォン向けサービス開発の特徴として、まず「企画」のフェーズについて説明。
「どんなサービスも企画を考えるところから始まる。サイバーエージェントでは、とにかく社員のアイデアを広く求めること、そして、それらをしっかり磨くことを重視しており、そのための独自の制度も用意している」
その独自の制度の一つが、「ジギョつく」と呼ばれる事業企画コンテストだ。これは職種に関係なく、どんな部署でも(内定者でも)応募可能。ただし、どのくらいの事業規模が見込めるのか、プロデューサーや開発責任者など誰が実行メンバーになれば成功する確率が高いのかといったことまで含めて提案することが求められる。そのため企画の難易度は高いのだが、プロデューサーや企画系職種以外の社員のアイデアが採択されることも多く、エンジニア発案のサービスなども生まれているという。
「『ジギョつく』などで採択されなかったものの“あと一歩”という企画も多い。それらを実現可能なレベルまでブラッシュアップする『詰め切りセンター試験』という制度もある」と、川畑氏は続けた。
これは“詰め切れていない”案を試験課題として社長が発表し、チームごとに解答、社長がポイントを付けてそのランキングを競い合うという形式を取り入れながら、あと一歩をきっちり“詰め切る”ための作業となる。
続いて川畑氏は、「開発」フェーズの特徴として、サイバーエージェントで利用しているプロダクトや開発体制などを紹介。まずインフラとしては、物理・仮想マシン統合データセンターのほか、必要に応じてAmazon Web Servicesや国内ベンダーのパブリッククラウドサービスなども併用しているという。例えば開発者が新しい技術の検証やレポート用のテスト環境が必要になった場合などは、インフラ部門に申請すれば1~2営業日で仮想マシンのインスタンスを自由に使うことができる。
サーバサイドの技術としては、全社的にNode.jsの採用がかなり広がっている。また、データベースはMySQLを基本としつつ、大規模なサービスではNoSQLを採用。CassandraやMongoDBを使うことが多く、数百台レベルでそれぞれ稼働しているという。
なお、スマートフォン向けアプリケーションでは常に「ネイティブか、Webか」の選択が問題となる。サイバーエージェントの場合、最初にHTML5ベースで作り、細かく改善を加えてある程度固まった段階で、速度が必要な部分をネイティブ化していくという「ハイブリッドを前提とした作り」(川畑氏)としている。
「リリース後も利用状況を分析しながら、できるだけ細かく、速く改善して、PDCAサイクルを高速に回していく必要がある。流通を考えると各アプリのマーケット(App Store、Google Play)に載せるのは大事なことだが、全部ネイティブで作ってしまうと、PDCAを回すのに時間がかかりすぎてしまう。やはり、日々少しずつ改善を加えてユーザーに素早く提供できるWebアプリのメリットは大きい」
開発に続く「リリース」や「運用」フェーズについても、川畑氏はサイバーエージェントならではの制度などを紹介した。例えば、「K点越えるくん」は、リリース予定のサービスを一般ユーザー目線でチェックするリリース前審査。ほかにも、運用開始からある程度経過したサービスについて改善点を出す「ポイントすすむくん」や、鈍化しているサービスについて大幅な変更・改善を考える会議「ダカイゼン」などを実施しているという。
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“10年後も通じるエンジニア”となるための
勉強会を関西でも活性化させたい
サイバーエージェントの前職を含めた約3年間、川畑氏は東京・渋谷でエンジニアとしてのキャリアを積んできた。もともと関西(兵庫県)出身の川畑氏にとって、今年4月の大阪開発拠点立ち上げは、サイバーエージェントの社員としては関西に“やって来た”形だが、個人としては“帰ってきた”ことになる。
こうした経験を通して実感した関西と東京のエンジニアを取り巻く環境の違いや、関西エンジニアの課題について、川畑氏は次のように指摘する。
「2008~2009年頃、当時“最先端”のスマホを持っているような人は、大阪だと電車に乗っていても1人目につくかどうかだった。それが東京では、5~6人はいたと思う。また、今でこそHTML5の開発も増えてきたが、まだ一般的にそれほど知られておらず、採用実績もほとんどない頃から、東京ではHTML5を使った案件に予算が付いて仕事として成立していた。そのような環境で最新技術に携わる機会も多いからこそ、東京には凄腕エンジニアもたくさんいるのではないか」
エンジニアが業務以外でスキルを磨く貴重な機会であるIT勉強会についても、東京と大阪の差は大きい。数の差はもちろんのこと、「実務レベルのニッチな勉強会を開催したくても人が集まらない」(川畑氏)という悩みもある。
「そこで、せっかく関西に出てきたのだから、関西のエンジニアをもっと盛り上げるために我々に何かできることはないかと考えた。まずは、関西でエンジニアの勉強会を活性化する1つの下地として、サイバーエージェントの会議室を勉強会の会場として開放し、使っていただくという活動を始めることにした。最大100名程度までは収容できるので、大規模な勉強会を実施したいときなど、ぜひお声がけいただきたい」
ビルのセキュリティ上、サイバーエージェントの社員も何名か参加する必要があり、日程などにある程度の制約は生じるが、プロジェクターやネット環境、さらには参加者に配る水(Amebaブランドのノベルティ「Amebaウォーター」)まで、勉強会に必要なパッケージは一通り貸与・提供可能だという。
なお、川畑氏が勉強会に着目した理由は、デベロッパーズサミットのテーマである「10年後も世界に通じるエンジニアであるために」にある。
「10年後も“通じる”とはどういうことかを考えたところ、それはアジャイルのContinuous Delivery(継続的デリバリ)のように、10年後も“継続的に価値を届ける”ということではないかと思い至った。そのためには、エンジニアとして自分のスキルセットを常に最新化(up2date)していかなければならない。それを実現するには当然、“継続的に勉強し続ける”ことが必要となる」
そして、川畑氏は、そもそも勉強とはどういうことかについても言及。
「本日の基調講演で登壇されたグーグルの及川さんのブログにあった言葉を引用させていただくが、楽しい学習・勉強とは、学び(Learn)、作り(Make)、わかちあう(Share)という体験。つまり、座学、実践、共有の3つ。インターネットの発達で1人でも勉強することは可能になったが、例えば座学なら読書会、作ることもハッカソンやチューニンガソンで誰かと一緒に行うことで、共有するという体験を通じて、もっと楽しく勉強できるはず」
川畑氏は最後に「関西から10年後も世界に通じるエンジニアになるために、一緒に盛り上げていきましょう」と呼びかけ、セッションを締めくくった。