オープニングでは、日本IBM 取締役副社長 執行役員の下野雅承氏が「IBMがクラウド専任組織を立ち上げた2010年から5年あまりでクラウドを取り巻く状況がすっかり変わった」と言明。モバイル端末の隆盛、データやアプリケーションの多様化によりパーソナルコンピューティングの形態が急速に変化し、それを支える環境としてクラウドの重要性が増しており、クラウドはテクノロジそのものではなく企業におけるIT活用の変革になると語った。
クラウドには品質だけでなく品格も重要
最初のセッションに登壇したのは、日本IBM 執行役員 クラウド事業統括担当の小池裕幸氏である。
小池氏は、企業がビジネスを変革するためには、ビジネスリーダー、ITリーダー、デベロッパーの三者が協力し、少しでも早くサービスやアプリケーションをリリースすることが必要だと主張。その上で、「クラウドの価値はこうしたサービス、アプリケーションのリリースにスピード感を与えることにある。これによりビジネスを支援することがIBMの役割」と、同社のクラウドが果たす役割を改めて明確にした。
今日の企業は、業界に関係なく、非連続の変化に対応しなければならない。インターネットで情報を得た賢い消費者を理解し、多様化したニーズに応えるには、これまでとは異なる方法が必要だ。さらに、サービス開発・運用サイクルの短期間化、既存システムとの連携による価値の最大化、世界同時ローンチといったビジネス展開の柔軟性などが求められる。クラウドは、これらの命題に取り組む企業を支える技術というわけだ。
ただし、企業がクラウドを存分に活用するためには、クラウドにも「品質」と「品格」が必要であると小池氏はいう。
品質の例として挙げられたのはセキュリティである。他のクラウドではファイアウォールを共有することが多く、セキュリティ面でのリスクを否定できない。例えば、IBMのIaaS(Infrastructure as a Service)である「SoftLayer」は、セキュリティ製品を動作させるだけでなく、専用ファイアウォールを用意することでそのリスクを回避。「SOC 2、Safe Harbor、PCI-DSS、FISMA、HIPAA、CSAといった、世界の主要なセキュリティ規制に対応していることも強みの1つ」(小池氏)。
また、SoftLayerではパブリック(外部)、マネージメント(管理用)、プライベート(SoftLayer間)という独立した3種類のネットワークで接続可能であり、それによりサイトへのクラッキングなどを防いでいるという。
一方、品格とは「ベンダーロックインを起こさず、誰もが利用できること」(小池氏)であり、そのためにクラウドベンダーは「IT業界のオープンな技術を活用」「自社に最適な環境を構築できる選択肢を用意」「企業が利用するアプリの要件に合わせる選択肢を用意」する必要があると、小池氏は説明した。
クラウド利用を迅速化する業界業務プロファイルの提供
ただし、IaaSやPaaS(Platform as a Service)を単に提供するだけでは、他社のクラウドとの差別化が難しい。この点へのIBMの取り組みとして、小池氏は「IBM Cloud marketplace」を紹介した。
IBM Cloud marketplaceは、IBMクラウドで利用可能なサービスを購入するための市場である。IBM製のサービスだけでなく、パートナー企業やオープンソースのクラウドサービス製品をオンラインで試用・購入できる点が特徴で、クラウドエコシステムを構築するねらいもある。サービスを利用するための資料を公開するなど、クラウドの利便性を高める配慮もなされている。
11月に発表された「業界業務プロファイル」もクラウドの利便性を高める施策の1つだ。これは、業界、業務に特有のルール、多用されるアプリケーションやインフラに必要な要件など、IBMやパートナー企業がこれまでに蓄積してきた技術や業界知識をガイドとしてまとめたもの。業界業務プロファイルをベースにクラウドを活用することで、スピード感をもったビジネス構築、コスト削減、品質向上が可能になるという。
業界業務プロファイルには次の11種類がある。
- 金融
- ゲーム業界
- HPC
- デジタルマーケティング
- SAPグローバル展開
- IoTサービスリバリープラットフォーム
- エンジニアリング
- CRM
- 建設ドキュメント
- ボイスオブカスタマー分析
- EDI受発注
例えば、金融プロファイルでは、セキュリティ上の要件からベアメタルサーバ(専用物理サーバ)、専用ファイアウォール、運用支援として専用線とVPN、オプションとしてログ解析を使うといった指針がまとめられている。
その他の重要なトピックとして、2014年12月にSoftLayerのデータセンターを東京に開設することを発表。SAPやMicrosoftとパートナーシップを提携し、SIや接続サービスなどでもSoftLayerパートナーシップを拡充しているという。小池氏は、SoftLayerの東京データセンター開設を機に、企業のクラウドへの移行とビジネス創出の支援に一層注力したいとし、「Think it. Build it. Tap into it.」(考えよう。作ろう。試してみよう)と述べてセッションを終えた。