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Office 365入門(AD)

Office 365は導入価値あるサービスか?【増補改訂版】

Office 365入門

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IT管理者から見るメリット/デメリット

 前項でも少し触れましたが、Office 365導入はIT管理者の仕事を削減します。ただし、IT管理者の仕事自体はなくなりません。DNS設定から各クラウドサービスの初期設定、定期的に発生するメンテナンス作業など、やることは多くありますが、PowerShellを用いた管理が中心となり、スクリプトをまとめて用意しておくことができるので、従来よりも管理工数を削減できるでしょう。

 IT管理者から見た場合のOffice 365導入メリットを簡単にまとめます。

  • 利用者に応じたサーバーのサイジング計画やサーバーリプレース計画や作業が不要
  • サーバー自体のメンテナンス不要
  • SLA99.9%(オンプレミスでこれを担保するには冗長性などを考慮して構成する必要があり管理工数も高くなる)
  • 各サービスのバックアップ不要
  • Office製品のライセンス管理不要
  • 高品質のサービスリクエストが利用可能

 主に物理サーバー周りの管理はIT管理者の悩みの種になりがちだと思います。各クラウドサービスの設定のみ意識すればいいというのは嬉しい点ではないでしょうか。

ISO27001維持、更新も問題ない!

 著者の所属している会社でも、業務効率化やセキュリティ対策、ISO27001(ISMS)の継続維持のために、オンプレミスがいいのか、クラウドがいいのかと検討が進みました。クラウドの導入がISO27001取得や維持できるかどうかということに対して、いまだ懐疑的な企業もあるとは思いますが、Office 365が実際に運用されているデータセンターでは定期的にISO27001の審査を受けています。そのため、Office 365が自社のISO27001取得の弊害となることはありません。むしろ、自社でサーバーを管理するよりもよほどデータの堅牢性や完全性、可用性が担保されるといえます。

Active Directoryがあれば、なお管理しやすい仕組み

 Office 365はクラウドサービスのため、ブラウザからアプリを利用する際にはサインインが必要です。通常のWebサービス同様に、メールアドレスとパスワードを入力して利用することになります(図3)。

図3 Office 365のサインイン画面
図3 Office 365のサインイン画面

 Office 365の強みの一つとして、シングルサインオンの1つ前の段階が提供されています。それはズバリActive Directoryの同期です。IT企業であれば、大抵はActive Directoryが導入されているのではないでしょうか。Office 365は、オンプレミスのActive DirectoryとAzure Active Directoryに連動しています。Azure Active Directory側にデータを送るだけで、Azure Active Directory側の設定はオンプレミスのActive Directoryには反映されません。ユーザーとグループの管理同期であれば5分程度で同期がとれるため、一元管理も容易です。

 逆に、オンプレミスにActive Directoryを用意していないエンドユーザー企業では、Azure Active Directory上にユーザーやグループを作成できます。一つ一つ手で入力することもできますし、CSVで一括登録もできます。あくまで、オンプレミスのActive Directoryがある場合は、より楽に管理ができると考えておくとよいでしょう。

 2015年現在、Office 365利用時のシングルサインオンはより構築しやすくなりました。オンプレミスのActive Directoryを、サイト間VPNを利用し、Microsoft Azure上の仮想環境と繋ぐハイブリッド環境を構築することができます。

 Microsoft Azure上では下記サービスを展開することで、冗長化なども取れます。

  • レプリケーションとなるActive Directory
  • ディレクトリ同期サービス
  • Active Directory Federation
  • Web Application Proxy

 一昔前まではかなり気を使う環境構築でしたが、2015年現在はMicrosoftのダウンロードセンターから実際構築するための自習書もリリースされているため、これからOffice 365を導入検討している企業では、合わせてシングルサインオンの環境構築も検討してみると、より日常的な活用がしやすくなるでしょう。

あえて挙げるOffice 365のIT管理者から見たデメリット

 ここまで、メリットばかりを記載しましたが、あえてOffice 365のデメリットを記載します。著者が考えるデメリットは以下の3点です。

  • オンプレミスにバックアップが取れない
  • 各サービスのバージョンアップの遅延はできるが回避はできない
  • アップデート速度が速く、微細修正が随時入るため、ナレッジとなるドキュメント更新などが小まめに必要

 ISO27001など会社のセキュリティポリシー次第では、『クラウドサービスでも念のためバックアップを取得すること』などの要件が策定されていることもあると思います。しかし、Office 365の各サービスはあくまでSaaSの一種なので、各サービスをオンプレミスにバックアップすることはできません。

 つづいて、バージョンアップについてです。日本の企業ではバージョンを固定してガリガリカスタマイズする傾向が強いと思います。Office 365はメリットで記載したように、サーバー周りでの細かな管理は不要です。逆に言うと、ユーザーが現行バージョンを維持したいと考えていても、自動でバージョンアップされます。遅延自体はアップグレード通知が来てから最大60日程延長できますが、アップグレードは回避できません。IT管理者はその事を理解したうえで、カスタマイズ(SharePoint Onlineのみですが)を進めるといいでしょう。

 また、Office 365はアップデートが非常に速いです。アップデートにより機能が追加され、メニューなどのUIが随時変更される、使い勝手が微妙に変わる(アップデート内容次第ではドラスティックなUIの変更や機能追加もある)など、管理者としてはオンプレミスサーバーの更新や管理の手間は省けるものの、ナレッジとなるドキュメント等を社内に周知徹底することに時間が割かれてしまいます。

 例えば、近年ドラスティックに変更された点を、3点程列挙します。

  • この1年間でOffice 365 ProPlusのライセンスが5つのPC or Macのライセンスのみだった、AndroidやiOS向けにスマートデバイス向けにOfficeアプリがリリースされたことで、合計15デバイスに変更された
  • 個人用のクラウドストレージであるOneDrive for Businessは、2014年初頭では25GBであったが、7月には1TB、そして2015年1月にはついに容量無制限に拡張された
  • Office 365のメニューバーのUIがこの1年で2回程、大規模変更されている

 リリース時点で作成していたドキュメントが古くなるため、随時更新が必要になります。社内ドキュメントは版数管理を厳密に実施している企業が多いと思いますが、Office 365を活用し始めると版数が小まめに増えてしまいます。著者の企業では、全てではありませんが、随時更新するドキュメントに関してはWord/Excel/PowerPointから、OneNoteで全体共有をかけ、気づいた社員が随時更新できる仕組みへと変更しました。これにより属人性を可能な限り排除し、ドキュメントを最新に維持しつつも、全体で知識の底上げも実現できるようになりました。

 OneNoteを社内ドキュメントの共有ツールとしてOffice 365と連携させることで、Office 365自体のデメリットを、業務改革というメリットに転換できるのでおススメです。

 なお、Office 365の更新について、英語のみではありますがOffice 365 Roadmapにて、下記のステータスで公開されています。

  • LAUNCHED(全ユーザーにリリースされている最新サービス)
  • ROLLING OUT(先行ユーザーに提供されているサービス)
  • IN DEVELOPMENT(開発中のサービス)
  • CANCELD(開発中止となったサービス)
  • PREVIOUS RELEASES(既にリリースされている機能)

 この辺りをチェックしておくことで、どのような変更があったか、今後あるのかを確認できます。

 最後になりますが、Office 365は導入して終わりではありません。導入よりも運用をいかにして無理なく継続的に続けられるかがキモとなるサービスだと言えます。そのため、都度アップデートされる内容に対して利用者が適応していけるような人材育成もIT管理者の役割となるでしょう。

まとめ

 今回はOffice 365とは何かを中心に導入する際のメリットデメリットを、2015年版に加筆修正し、ご紹介いたしました。

 著者の所属している会社ではOffice 365導入から2年半が経ちますがOffice 365は社員全員が移行前に比べて満足度が高いです(以前の環境が極端だったというのはありますが)。細かなバージョンアップもありますが、全社員の適応力が以前よりも高くなり、社内ルールを順守した上でスマートデバイスからも利用しはじめています。LyncやYammer等の導入により、社内の業務はもちろん、休日等に活動する社内部活動の活性化も進みました。

 IT企業は往々にして自社内のインフラは後回しにしがちです。Office 365は自動でメンテナンスされ、常に最新の環境を維持してくれます。日本にもデータセンターが展開され、今後ますます勢いが加速するOffice 365。未導入の企業のIT管理者さんも一度は是非ご検討ください。

 本記事だけでなく、著者の過去記事や、参考文献のサイトやBlogもOffice 365を導入、運用する際に非常に有益です。興味を持たれた方は是非チェックしてみてください。

参考文献

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この記事の著者

山田 祥寛(ヤマダ ヨシヒロ)

静岡県榛原町生まれ。一橋大学経済学部卒業後、NECにてシステム企画業務に携わるが、2003年4月に念願かなってフリーライターに転身。Microsoft MVP for Visual Studio and Development Technologies。執筆コミュニティ「WINGSプロジェクト」代表。主な著書に「独習シリーズ(Java・C#・Python・PHP・Ruby・JSP&サーブレットなど)」「速習シリーズ(ASP.NET Core・Vue.js・React・TypeScript・ECMAScript、Laravelなど)」「改訂3版JavaScript本格入門」「これからはじめるReact実践入門」「はじめてのAndroidアプリ開発 Kotlin編 」他、著書多数

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

WINGSプロジェクト ナオキ(ナオキ)

WINGSプロジェクトについて>有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表 山田祥寛)。主にWeb開発分野の書籍/記事執筆、翻訳、講演等を幅広く手がける。2018年11月時点での登録メンバは55名で、現在も執筆メンバを募集中。興味のある方は、どしどし応募頂きたい。著書記事多数。 RSS X: @WingsPro_info(公式)、@WingsPro_info/wings(メンバーリスト) Facebook

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