エンジニアがプロダクトをゼロから作ってぶつかった2つの挫折
五味 本日は、「HUE」の開発を担当している井上さんと廣原さんにお越しいただきました。まずはお二人に自己紹介をしていただきたいのですが、ただの自己紹介ではあまり面白くないので、まず廣原さんから井上さんをご紹介いただき、次に、井上さんから廣原さんをご紹介いただきたいと思います。
廣原 ワークスアプリケーションズの廣原です。他己紹介ということで、まず僕から井上さんを紹介します。井上さんは『パーフェクトJava』『パーフェクトJavaScript』といった、エンジニアの開発力を上げる素晴らしい本をたくさん書かれています。
もともとは、Lotus Notesというグループウェアを開発するロータスという会社に入って、アメリカでエンジニアとして活躍されていました。そして、ロータスを超える製品を作ることを目的にアリエル・ネットワークを共同で設立し、CTOを務めていました。アリエル・ネットワークのグループ化に伴いワークスにジョインしたことをきっかけに、アドバンスド・テクノロジー&エンジニアリング本部という先端技術を研究開発する部門を作り、そのトップも兼任しています。そこで研究開発した技術を使ってHUEという製品を作っていることから、HUEの開発プロジェクトでもテクノロジー部門のトップであるというスーパーエンジニアです。
一つだけ、井上さんの人となりを説明するキーワードを紹介します。僕は悩みごとがあるとたまに井上さんに相談をするんですけど、その際に必ず「鈍感力が足りないですね」って言われるんです。要はそんなこと気にするなってことなんですけど。それくらい鈍感力にこだわりがある方です。
井上 鈍感力はグローバルでも重要ですからね。この話は第3部でさせていただきます(編注:後日レポートを掲載予定です)。
五味 では、井上さんから廣原さんのご紹介をお願いします。
井上 廣原さんをよく知るようになったのは、HUEに携わるようになってからなのでここ3~4年ぐらいですね。僕がいたアリエルは10年ほど前からワークスグループにはなっていたものの、会社間で開発者の交流は多くはなく「廣原さんはワークスの天才だ」という噂だけ聞いていました。ここ数年間、廣原さんを見ていて、プロダクトマネジャーとしての彼の質の部分にすごく感銘を受けています。自分の経験ともリンクするので、自分語りも入れつつ紹介させてください。
僕はずっとプログラミングが大好きで、開発者として生きてきました。ただ、アリエル・ネットワークという会社を創業して、製品をゼロから考え、プロダクトマネジャーのような立場になり、二つの挫折を経験しました。
一つ目の挫折は、基本的にはプログラムが大好きなところから始まっているので、手段に走りすぎてしまったことです。ユーザのことよりも、プログラムが汚いからきれいにしたい、より効率的にやりたいと考えてしまう。それも重要ですが、そればかり先行するとユーザのことを考えなくなってしまうんです。アリエルの初期の製品でいうと、プログラムやAPIさえきれいであれば、UIはいつでも作り変えられるからどうでもいいとさえ思っていました。でもそれは間違っていて、UIを考えずに製品を作ることは、ユーザの気持ちをほとんど無視することと同じです。技術的には頑張ったはずなのに、爆発的に普及しなかった原因の一つは、そこかなと思っています。
二つ目について。ある程度年齢を重ねて経験を積むと、だいたい必要な開発者と技術、期間が見えてきます。これは一つのスキルだとは思いますが、結果として発想を小さくしてしまうことにつながるんですね。例えば、開発期間が半年で、メンバーが10人となれば、これくらいの機能ができそうだという見積もり。それは製品の方向性にキャップ(制限)をかけてしまうことになり、殻を破りきれないというジレンマを抱えていました。
ワークスに来て、僕が感じた二つの挫折を軽々と飛び越えている廣原さんを見て、これこそ天才と呼ばれてきたゆえんだなと思っています。廣原さんも開発者なので、技術的にこれぐらいできると分かった上で、「キャップを取り外そう」とメンバーに向けて言っているのが、廣原さんの素晴らしいところです。