アルゴリズムが直感的に理解できる!
続いて登壇したのは、『アルゴリズム図鑑』の著者である石田保輝氏。実は本書は、iPhoneアプリで90万ダウンロードされた「アルゴリズム図鑑」を基にした本で、基本的な26のアルゴリズムと、7つのデータ構造をすべてイラストで解説している。2017年6月に出版されてから、2018年2月現在第4版という人気書籍だ。カラフルな図はまるで絵本のようで、デザイン性も高く評価されている。
石田氏がこの本を書いた動機は「情報技術の面白さに触れてほしい」という思いのため。近年、人工知能やブロックチェーンが話題になっているが、「これらの技術も、小さなアリゴリズムの部品が積み重なったもの。本書でこうした小さな部品について学んでいただければ、嬉しく思います」(石田氏)と説明する。
とはいえ、そもそも説明が難しいアルゴリズムを直感的に理解してもらうのは難しい。そのため本書は、次の3つの工夫を凝らしたという。
第1の工夫は「図解」だ。たとえば関数の数式を見ただけで、どういう式かを理解するのは難しいが、グラフにすると理解しやすい。このように、複雑なアルゴリズムも図に落とし込むとわかりやすくなる。本書ではさらに、デザイン性や色使いにこだわることで、目にも美しい内容になっている。
第2は、解説に比喩を多用したこと。たとえば、「アルゴリズムとは、料理レシピのようなもの」「ハッシュ関数とは、データをバラバラにするミキサーのようなもの」と、別のものにたとえることで、アルゴリズムの初心者にもわかりやすく工夫した。
第3に、アルゴリズムの各手順や操作について、その目的を明示したこと。実は石田氏は料理が好きで、さまざまな料理でレシピを見ているが、「手順の目的が書かれていないから、なぜそれが必要なのかわからない」と感じることがあったそうだ。
これと同じことは、技術書でも起こっている。本書では各操作の目的もしっかり記載することで、より理解しやすい内容とした。アルゴリズムがわからない、理解したいというITエンジニアはもちろん、プログラムやアルゴリズムを学ぶ学生にもお勧めの一冊だ。
知られざる技術翻訳本の世界、やっぱり翻訳者はすごい!
続いてノミネートされた『退屈なことはPythonにやらせよう』については、関係者の都合がつかず、翻訳者の相川愛三氏から手紙が寄せられた。そこに書かれていたのは、知られざる「技術書翻訳者の思い」だ。
そもそもこの本の原書はオンラインで公開されており、比較的平易な英文であることから、Amazonなどのレビューでは「原書をオンラインで読めばいい」「Google翻訳にかければ簡単」などの文言も並んでいるそうだ。相川氏は、そうしたコメントを見るたび「翻訳技術が発達したこの時代に、英文技術書を翻訳する意味」を考えるようになったという。
相川氏は本書を訳するに当たり、翻訳者として心がけたことが3点あったという。
第一に心がけたのは、内容の整合性だ。Pythonライブラリのバージョンアップが生じると、原書の発表タイミングによっては、コードが動かないことがある。翻訳時に、こうしたコードはすべて修正したという。
第二は、原書の間違いを訂正すること。相川氏の場合、翻訳に当たり原文中のプログラムもテストし、バグを見つければ修正する。また、本書の場合、コーディングスタイルがあまり標準的ではなかったため、「この本でPythonを覚える読者が、変な癖をつけないように」という思いで標準的なスタイルに書き換えたそうだ。このように「原書の問題を直すことも、翻訳者の重要な仕事」(相川氏)と考えている。
第三に、文章を読みやすくすること。原文自体は決して難しくないとはいえ、単語やフレーズの繰り返しが多く、わかりにくい箇所や、あまり重要でないところに説明を割いている箇所、あるいは必要な説明を省いているところがあり、そうした箇所を日本語として読みやすく調整していったという。「その結果、原文に忠実でない箇所も出てきたが、理想的な技術書を作るため、日本語としての読みやすさを心がけた」(相川氏)。
「翻訳技術が進歩した今日、やはり人間が英文技術書を翻訳する意味はまだある」と考え、「翻訳書の未来を信じたい」という相川氏の言葉に、深くうなずくITエンジニアの姿もあった。