会社のノウハウとなる一つ一つの解決策
上記までの課題に対する解決策もあわせて語られた。まずデバイスの導入については、チーム体制の強化として、徹底的なツール開発とドキュメント整備で対応したという。アカウント発行やデバイス準備などのタスクに対し、バイネームでタスクが割り振られ属人化していた現状を踏まえ、誰でも使えるような内部ツールを開発することでタスクを分散。徹底的に使いやすいツールを開発することで、パソコンの知識が乏しいようなパートタイマーのメンバーでも「インフラをスケールしておいて」の一言で該当箇所の数値を変更することができるくらいわかりやすいUIを持つツールを作ることができたという。
また、ツールの導入では作業担当者の分散は実現できるが、意思決定がノウハウ保有者に集中する状況は変えられない。そこで、ツールとドキュメントをセットで導入するルールとし、あわせて記載が形骸化しないようプロセス改善も随時行っているという。
もう一つの課題であるデバイスの故障対応に対する解決策としては、そのデバイスが関わる可能な限り全ての入出力データをとることであるとした。先の例のような業者の不適切な工事による不具合なども、例えば、デバイスが起動するたびにその回数を記録しておくことで、その数値を確認して異常な再起動回数があることを確認できれば、電力の供給不足を疑うなど、類推する材料とすることができる。データが多ければ多いほど、多角的な予測につなげられるのである。
センシティブデータを扱うためにとった「正攻法」
データの取得においては、顧客の顔の特徴量などのセンシティブな情報を扱っているということが、対応すべき課題の一つであった。これまで法整備が進まず、その扱いにおいてグレーゾーンであり、明確な根拠を持たないままデータを扱う企業も散見されている状況であったという。しかしABEJA社は、経済産業省の利活用ガイドブック策定に自ら関わり、ガイドラインを明確化。その上で、その内容に準拠したデータ管理の下、サービス提供を行うものとしたという。
さらに、それらのデータを送信する際も、店舗内のシステムとABEJAのクラウドプラットフォームを暗号化基盤の中で通信するようにしているが、このサービスのためだけにISP事業者として届け出をし、自前でデータ通信を行うことでその機密性を保っているという。
事業の成長を妨げないために、ソフトウェア側で取り組むべきこと
取引先も増えサービス需要は拡大し、さらにカメラなどの自社開発デバイスも進化を遂げている中、自社のインフラであるABEJA Platformが足を引っ張ってくるタイミングがあったという。アプリケーションの構造がモノリシックになっており、急速な変化に対応することでプログラムは日に日に肥大化。繰り返された改修により、1行実装を追加するだけでCIに2~30分かかってしまうような状況になり、実装に時間がかかるようになってしまったという。また、ある仕様を追加したら既存の別の仕様が壊れてしまうなど、依存関係が強い構造になってしまい、改修の難易度が高くなってしまった。
その対策として、モノリスだった解析システムをコンポーネント化し、「録画部」「変換部」「アルゴリズム部」「結果転送部」という流れのパーツごとに切り分けて疎結合化したという。これによって、例えばカメラデバイスをAからBに変更した場合は、録画部と変換部の実装にのみ修正を加えるだけで済むため、CIの時間も短縮され、既存仕様への影響も局所化。サービス拡大や新規デバイス対応への俊敏性が向上したという。
「泥臭い」現場業務が支える事業の成長
AI×IoTというソフトウェアとハードウェアの組み合わせを、顧客の事業形態にあわせたサービスで、導入から運用までを適切に行っていくにはどうすべきか。まとめると、それは、まず一般的なWebサービスとは異なる課題特性を認識すること。そして法整備からデバイス、アプリケーション、そしてチーム体制や文化作りまでを幅広くとらえて地道に解決していくこと。そんな「泥臭い」現場業務が、この2年の間にデバイス数比較で20倍という飛躍的な速度で拡張したという同社のサービスを支えている。私生活でも趣味でIoTデバイス実装をこなすという大田黒氏は、笑顔でセッションを結んだ。