ニューノーマルの時代に求められるDX構想と将来ビジョン
参加企業254社、登録者数600名を突破した富士通の「FUJITSU TECH TALK」。今回で4回目となる“祭”は初めてのオンライン開催となったが、全国から112名が参加し、基調講演から事例紹介、懇親会に至るまでさまざまな意見交換がなされた。
「FUJITSU TECH TALK 祭」とは、半年に一度富士通と参加企業で開催しているイベントで、Cloud、AI、アプリ、VR、デザインなどさまざまな技術を取り入れながら参加企業みんなでつくっている。特定の技術にフォーカスしたディープな技術イベントや企業主催の大規模イベントとは異なり、肩ひじ張らずに参加者全員が気軽にコミュニケーションをとれるスタイルが魅力だ。今回も、リハーサルの段階から発表者同士がリラックスした様子で言葉を交わしていたのが印象的だった。
オープニングの基調講演では、同社 理事 首席エバンジェリストの中山五輪男氏が登場。さまざまなデータから日本のビジネスの現在地を見つめ直し、「コロナ禍の影響とニューノーマルへの対応を鑑み、日本の競争力を高める鍵とはなにか。それは、間違いなく『既存事業の変革』と『新規事業の創出』を目的とした、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ」と指摘。これからの時代のビジネスと開発において、困難な状況でも新たな価値を創出していくためのポイントを語った。
まず中山氏は、DXには「ビジョンが一致した会社同士が協力することが重要であり、そのためにも自社のビジョン自体を見いだし、創り出すことが重要」と語る。
そしてDXによるビジネス推進を考えるにあたり、中山氏は「リアルの中にデジタルが入り込んでいくイメージを是正し、リアルがデジタルの世界に包含されているといういわゆる『アフターデジタル』の考え方でDXに望むべき」と説明した。
アフターデジタルの世界では、オンラインを前提にデジタル活用を発想する。その最先端を走るのは中国第4の都市・深センだ。土地の広さも人口も東京とほぼ同じながら、平均年齢32歳と若く、10人に1人が起業している。街の象徴とも言える存在が、電気街「華強北」だ。1万店舗に秋葉原の30倍という機械パーツがそろい、集めればiPhoneがつくれると言われる品ぞろえを誇る。思いついたことがすぐ実現できる、チャイニーズドリームを体感できる街であり、数々の最先端企業が本社を構えている。あらゆる買い物やサービスの支払いがキャッシュレスで、電動パトカーなどMaaSも充実している。
「こうした最先端の世界を日本でも実現できるはず。そのためにDXを進める上で大事なことは、どういう人たちと進めるべきかを考えることだ。しっかりとしたビジョンを創ること、そして社内だけでなく多くの人々と議論し、将来構想として『あるべき姿』ではなく『ありたい姿』をデザインしよう」
中山氏は最後に、「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.(早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け)」というアフリカのことわざを紹介。「大きな成果を出すためには、みんなで協力し合うことが大切。FUJITSU TECH TALKというコミュニティを活用し、つながり合うことで大きな成果を出してほしい」と語った。
世相が刻一刻と変化し、一企業が新たなビジネスや変革を生むには、難しい面もあるだろう。しかし、そんな時は中山氏の述べた通り、「ありたい姿」を共有した他社と手を組み、協業することで、新たな発見や前進が生まれるかもしれない。まさにこういった「FUJITSU TECH TALK」のような場が、重要になってくるだろう。
システムにおける「デザイン」のあり方とは? UI/UXやブランディングがもたらす価値
DXにおいて重要な役割を担う「デザイン」。その中で、システムのUI/UXデザインを多く手掛ける株式会社アベデザイン 社長の安部英人氏が「開発会社様が今日から意識するUI/UXデザイン」と題して講演を行った。
安部氏は、システムにおけるデザインの目的を「クライアントの課題の達成」とし、そのために理由ある論理的なアプローチがあること、導入前から導入後のその先までを見越した影響を考えることの重要性を強調。「UIが快適に操作できることで、UXという“素晴らしい体験”が可能になる。そのためには感覚ではなく、知覚・認知に基づく原理と原則を理解して設計する必要がある」として、「機能性の向上」と「トーン&マナーの演出」を実現するためのさまざまな方法を紹介した。
さらに「最も重要なのがブランディング」として、企業理念や製品コンセプトをイメージ付けするために、ロゴや企業カラー、世界観などを用いて表現していくことの大切さを強調した。つまり、見た目のきれいさではなく、自社にとって“正しいかどうか”を見定めることが大事というわけだ。
安部氏は「デザインの本質は、ユーザーに製品を選んでもらい、使って満足してもらうためにある。そのためにはユーザー中心にUI/UXをデザインすることが大事。機能中心・企業中心で設計したUIは使いづらく、操作ミスにもつながる。デザインを正しく導入できれば、社員や顧客の反応が変わり、販売しやすくなる」と語り、改めてデザインの重要性を強調した。
注目度が高まるサブスクリプション、勘違いしがちなポイントと成功の鍵とは?
続いて、AXLBIT株式会社 社長の長谷川章博氏からは、「DXを加速させるサブスクリプション ビジネス成功の秘訣」と題して講演が行われた。
近年多くのサブスクリプションサービスが展開されている。その背景にはDXによる、旧来の産業とソフトウェアを組み合わせによる「新しいサービス形態への変革」があり、そのマネタイズの方法としてサブスクリプションがあるというというわけだ。
市場のくくりが曖昧ながら、サブスクリプションの国内市場規模は「BtoB×無形物」で約8121億円*、BtoCでは有形物、無形物を合わせて約6835億円**と推定されており、今後の成長が期待されている。投資動向からも「モノよりサービス」への傾向が強まっているのは間違いない。
- *国内クラウドサービス需要動向調査(MM総研)
- **2020サブスクリプションサービスの実態と展望(矢野総合研究所)
世の中ではサブスクリプションを「定額で使い放題」としがちだが、長谷川氏は「本質的には売り上げを安定させ、成長性をもたらすもの。LTV(顧客生涯価値)を最大化する仕組み」と語る。
固定の価値を分割するリースとは異なり、サービスとしての価値を上げながら利用料を最大化することが目的となる。つまり、事業を成長させるには1人あたりの利用料を上げ、チャーン(解約)率を減らす必要がある。
また、従来のモノ売りでは「良いものを安く」が顧客価値だったのが、サブスクでは「使いたいものを使う分だけ」となる。長谷川氏は例としてNew York Timesでのデジタルプランを紹介して、サービスのオプション化の重要性を強調。「商品の多品目化×販売チャネルの多様化が利用料アップと解約抑止につながり、成功の鍵となる」と語った。
さらに今後は流通についても「大量に作ったものを売る」ウォーターフォール型から、「さまざまな機能を多様なプレーヤーが担う」メッシュ型に変わっていくことが予想される。
長谷川氏は、「サブスクは王(受注)を取れば終わる将棋ではなく、いかに地(LTV)をとるかという囲碁」と表現し、「気を抜くと地面をとられる恐れがある」と警鐘を鳴らした。
2020年上半期の取り組みを公開、FUJITSU TECH TALK参加企業が事例共有
基調講演に続き、FUJITSU TECH TALK参加企業による6つのDX事例が発表された。駆け足ながら、そのエッセンスを紹介する。
教育機関向けアプリケーション・ターミナル komachiの開発~短納期スピード開発のチームフレームワークを通して~(株式会社ジオグリフ& Sky Grid株式会社)
コロナ禍による学校閉鎖に伴う学習のオンライン化により、子どもたちの情報・時間管理に関する課題が表出したことを受け、効率的かつ使いやすい情報管理システムを「FJcloud-O(FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O)」を活用して構築。
「時間割表機能」で先生・生徒ごとに授業のオンラインでの部屋割りや内容などを把握でき、「タグ機能」で部活や委員会などに加え、「体調を崩しやすい生徒」など独自のタグを入れることで、各人の情報や該当人数などを簡単に把握できるようになっている。あくまで機能を特化し、オープンなアプリケーションコネクトによって多彩な学校向けサービスと連携していくことを想定している。
大規模ECサイトをニフクラに移行するための実践テクニック(株式会社日本オープンシステムズ)
顧客企業のECサイトのデータセンター設備およびハードウェア老朽化に伴うリプレース案件において、短期間での移設、性能品質の維持、コストの抑制、今後のシステム変更への柔軟な対応などの要件からパブリッククラウドを検討し、ニフクラ(旧名称ニフティクラウド。機能的にはFJcloud-Vと同等)を選定。ニフティと運用契約があり、物理サーバとのハイブリッド活用でアプリ改修費用を抑えられることが決め手となった。システム単位で段階的に移行ステップを踏み、VMインポート+ディスク受取サービスなどをフル利用したことで、リスクを軽減しながら期限内に移設を実現させることができた。
AI-OCRの本当の実力(株式会社Sigfoss)
AIソリューションプロバイダーとして、従来のOCR技術に対し、深層学習による文字分類や帳票分類、学習による文字識別の精度向上など、AIを活用した「AI-OCR」の研究・開発を行っている。
帳票の分類、図などの物体検知、ラインリーダーによる文字分類、表組みを読み出すテーブルリーダー、データの構造化による文字識別など、さまざまな技術を用いて帳票からの読み出しを行うというもので、さまざまな企業と協業し、富士通とは地方自治体などとの案件で進捗中だ。現在のAI-OCRはかなり精度が高まっているものの、用途や目的、前後のフローも含めて適するかどうかを見定めることが肝心だという。
VR×ECアバターがガイドする仮想&現実のマーケット融合に挑戦(テクノブレイブ株式会社)
VRの中にECを組み入れるという新規事業に取り組み始めた同社。右肩上がりでVR市場が向上する一方、コロナ禍に伴い打撃を受けた観光業界の安定収益化につながる商材としてニーズがあるものと判断し、VRによって仮想的な旅行をし、実際のお土産をECで購入するというモデルを考えついたという。さらにモデルとなった現実世界へのツアーチケットを仮想空間上で販売することで、リアルとの融合も想定している。
プラットフォームには拡張性と信頼性からFJcloud-Oを選定。今後はMaaSと連携し、ユニバーサルな移動実現のシミュレーション基盤としての発展も目指す。
ピットリーをお知らせします!(合同会社ピットリー)
「ピットリー」とは、FJcloudとAIを活用したコミュニケーション型画像販売サービス。FUJITSU TECH TALKの参加企業である3社が合同会社を作り、支援プログラムによる特別価格で利用することで、コストを最小限に抑えての開発がかなった。
AIでタグ付けを自動化し、属性のほか、感情や色合いなどからも検索ができる機能を搭載。写真提供者向けに「売れ行きランキング」を設けるなどモチベーションアップの仕組みも設けながら、運用費を抑えて写真利用の費用の低価格化を実現させた。またAIキャラクターとの会話で検索できるようになっており、コミュニケーションを楽しみながら画像検索・購入ができる。
マルチポイントCRMサービスのご紹介~ポイント・Payサービス多様化時代の新たな顧客基盤を実現~(ロイヤリティラボ株式会社)
「マルチポイントCRMサービス」とは、企業のキャンペーン、継続取引のインセンティブに様々なポイントやPayサービスが活用可能なCRMサービス(顧客管理)。近年、ポイントやPayサービスなどの普及・多様化が進み、消費者ニーズも多様化していることを受け、マルチポイントサービスの機能を全てSaaSで提供している。
事例の一つとして、静岡県労働金庫のろうきんポイントサービス「Rポ(アルポ)」が紹介された。アルポは、金融取引をポイント化し、nanacoポイント、WAONポイント、ユーコープポイントから好きなポイントを選んでポイントを受け取ることができるユーザの利便性を最優先に考えられたサービスだという。サービスの基盤となるクラウドについては、お客様にセキュリティの観点からの安心感を得ていただくため、FUJITSU TECH TALK事務局が富士通のデータセンター見学などの支援を行った。
困難な状況でも、事業を前に進めるために
以上、6つのセッションにはそれぞれ画面を通して温かな拍手が送られた。いずれも挑戦的な取り組みであり、事業の成長を目指し、FUJITSU TECH TALKメンバーに向けて連携・協業アピールも積極的になされた。
昨今の困難な状況で事業の革新や新しい価値を創出をするためには、一開発者、一企業では実現が難しいかもしれない。しかし、中山氏も指摘していた通り、同じビジョンを持った仲間と協力することで、大きな成果に到達できる。それを裏付けるような各社の発表だった。
今後も富士通はFUJITSU TECH TALKを通じて、日本のデジタル革新を担うクラウド/AIビジネスなどのコミュニケーションHUBとしてのコミュニティ支援を加速させていくという。実際、これまでも参加企業同士の新規ビジネスや協業が多数実現している。また、クラウドをはじめとした最新情報や活用事例を参照できるほか、技術教育の支援プログラムや限定資料・コンテンツの入手も可能だ。
既存のビジネスを革新したい、新規プロダクトを創りたい企業や開発者の皆さんは、気軽にFUJITSU TECH TALKにジョインしてみてはいかがだろうか。