請求業務を支援するサービスで行政のIT活用促進に寄与する
5日間の会期で実施された「GrapeCity ECHO week 2020」4日目の前半のセッションでは、AmbiRiseの田中寛純氏が「行政の『あたりまえ』をアップデートする! 行政宛て請求プラットフォームHaratteの取り組み」と題して講演を行った。
18年間にわたり、市役所職員として住民記録や税金、財務会計など自治体の基幹システムの再構築に携わってきた田中氏は、2020年5月にITベンダーであるAmbiRiseを立ち上げた。
「市職員として行政の情報化に関わる中で、IT活用をさらに促進し、歩みの遅い行政を変革する必要があると痛感しました。そして住民の皆さまが感じている『融通がきかない』『サービスが利用しづらい』などの『マイナスの当たり前』を変えていくためには、行政側の立場ではなく、外部から自由度の高い立場で携わらなければいけないと考え、公務員を辞して当社を設立しました」と田中氏は創業の経緯を紹介する。そうした自治体行政のIT化推進の一環として同社が構築を目指したのが、行政宛て請求プラットフォームである「Haratte」だった。
現在自治体では、民間事業者と取引を行う際、基本的に紙ベースの請求書を受け取っている。人口20~30万人程度の中核市であれば、その数は年間およそ10万枚。自治体では受け取った請求書を財務会計システムに入力して伝票を起票し、その後支払いを行う流れとなる。「1枚の入力に5分かかるとすると、同規模の団体の場合はデータ投入作業に年間約8000時間を要していることになります。さらにそこから全国の行政機関全体での所要時間を推計すると、約40万時間という膨大な時間がこの単純作業に費やされていることになるのです」と田中氏は指摘する。
「Haratte」では、事業者が請求書を発行するための仕組みを「Haratte Webサービス」としてクラウド上に用意している。作成される請求書には請求情報がQRコードで埋め込まれており、これをPDFフォーマットで出力する。この請求書を郵送または電子メールで受け取った自治体側は、.NETクライアント「Haratte連携ツール」を用いてQRコードを読み込み、請求書情報をシステムに投入できるようにする。これが「Haratte」のソリューション概要だ。
つまり「Haratte」では、ネットワークを介した連携の仕組みを構築することなく、QRコードに基づいて請求情報を100%正確な形で復元し、スムーズに自治体システムに取り込むことができるのだ。「これなら多額の初期投資も不要で、自治体の三層分離のシステムにも問題なく適用が可能です。請求書を発行する事業者側も、システム改修等の負担を強いられることはありません」と田中氏はアピールする。
こうした仕組みの実現においてAmbiRiseでは、グレープシティが提供するPDFやExcelドキュメントを作成・編集するためのAPIライブラリ「DioDocs for Excel(ディオドック)」を活用している。「Haratte Webサービス」自体は、CentOS(Linux)上で動作し、マイクロソフトの.NET Core、C#を用いているが、そこで行われる請求書の帳票生成においては「DioDocs」が利用されている。
行政では帳票の様式に強いこだわりがあり、自治体ごとにそのフォーマットやレイアウトが異なることに加え、年度ごとの業務見直しや制度改正などに伴って、様式も微妙に変化していく。「つまり、多様な様式に柔軟に対応し、変更にも速やかに追随できる仕組みの実現こそが、われわれのサービス構築に際しての必須要件なのです。『DioDocs for Excel』こそが、そうしたニーズに応え得る最適なツールであると判断しました」と田中氏は採用のポイントを紹介する。言い換えると、多彩な帳票様式に効率的に対応できれば複数の自治体への横展開も容易となり、低コストでのサービス提供が可能となる。
具体的なプロセスフローとしては、事業者が請求書の宛先や種類を選択して必要な内容を入力すると、「DioDocs」によって必要な帳票レイアウトが呼び出され、入力されたデータの転記が行われる。その後プレビューによる確認を経て発行ボタンが押されると、内容が確定しQRコード付きの請求書がPDFで出力される。このデータを印刷して郵送したり、PDFのままメールで送信したりすることが「Haratte」のサービス上で行えるようになっている。
「『DioDocs for Excel』活用の効果としては、帳票レイアウトをExcelで作成できるため、プログラミングの経験がなくても対応可能であることが大きいです。また、自治体のホームページで請求書用の帳票レイアウトがExcel形式で公開されているケースも多く、それらを流用することで帳票作成のコストを削減することができます」と田中氏。そのほか、作成した帳票とデータモデルとのマッピングが非常に簡単である点や、外字の利用などフォントの処理にかかわる要求レベルが高い自治体用途において、端末に依存しない帳票処理でPDF出力に対応している点も高く評価しているという。
現在、この「Haratte」については、2020年9月から2021年3月までの予定で神奈川県横須賀市で実証実験が進められている。並行して、自治体へ財務会計システムを納入するベンダーや、自治体における請求業務の改善を提案するコンサルティング企業、さらに自治体から請求業務を受託している企業との事業連携も進みつつある。こうした展開戦略によりAmbiRiseでは、年間で20団体からの案件獲得を見込んでいるとのことだ。「行政の『あたりまえ』をアップデートするという当社のミッションや、『Haratte』の取り組みに共感いただける事業者、エンジニアの方々には、ぜひ当社ホームページの問い合わせフォームなどを通じてお声がけいただければと思います」と田中氏は呼びかけた。
ドキュメントを操作するための各種API群をライブラリ製品で提供
続く4日目の後半では、グレープシティの氏家晋氏が「30分でわかる!DioDocsの魅力と使い方」と題し、直前のAmbiRiseのセッションでも活用事例が示されたDioDocsの紹介を行った。セッションの冒頭、氏家氏は「DioDocsは『ドキュメントAPI』と呼ばれるカテゴリに属する製品であり、C#やVisual Basic.NETなどのコードからドキュメントを操作するためのAPIを提供します。画面設計を行うためのUIコンポーネントを提供するものではありません」と前置きをする。
今日の業務において欠かせないExcelとPDFだが、業務システムの観点では「帳票・レポート」と「表計算・グリッド」という2つの用途があると言える。帳票・レポートの用途では、データを帳票・レポートエンジンで生成し、その結果をExcelやPDFで出力する。グレープシティの製品で言えば、「ActiveReports」がこの領域をサポートしている。一方の表計算・グリッドでは、データを受け取って編集や加工を行い、その結果をExcelやPDFで出力することになる。グレープシティ製品では「Spread」がこれに該当する。
「ただし、これらとは異なる使い方もあり、例えばデータをExcelやPDFに読み込んで出力することや、ExcelのシートやPDFのページの追加・削除、それらのドキュメントのマージ、さらにExcelやPDFのファイルにパスワードやデジタル署名といったセキュリティ要素を追加する使い方も考えられると思います」と氏家氏。「DioDocs」はまさにこれらのシーンで活用できる製品だ。具体的なラインナップとしては、Excelファイルを作成・編集するためのAPIライブラリである「DioDocs for Excel」、PDFファイルの作成・編集を支援するAPIライブラリ「DioDocs for PDF」がそれぞれ用意されている。
「DioDocs」の利用により、ERPやデータベースとの連携で取得したデータを加工し、ピボットテーブルやチャートを駆使した分析・集計レポートや、Excelで作成したテンプレートにデータを流し込み、請求書や納品書といった各種伝票などを作成することができる。「『DioDocs』を活用することで、既存システムのモダナイズや、業務プロセス改善を支援するシステムの構築にも役立てていただけると思います」と氏家氏は力説した。
高性能なライブラリ製品の採用で画面表示や保存時間を劇的に圧縮
イベントの最終日を迎えた5日目最初のセッションには、芳和システムデザインの金尾卓文氏が登場。「処理時間5分が6秒に! 大手製造業におけるWijmo活用事例」とのタイトルで講演を行った。
芳和システムデザインは、自社開発したビーコンを「BLEAD(ブリード)」というブランドで提供していることで特に知られている。BLE(Bluetooth Low Energy)関連のハードウェア開発も得意としており、これらの自社製ハードウェアとソフトウェアを連携させた、唯一無二のソリューションを顧客のニーズに応じて提供していることが大きな特徴だ。ほかにもコンサルティングや運用管理なども含めたサービスの提供で、顧客企業を強力に支援している。
今回のセッションでは、同社がグレープシティ提供の汎用JavaScriptライブラリ「Wijmo」を活用して取り組んだ、国内有数の大手製造業における2つのシステム構築事例が紹介された。1つ目は、受注にかかわるリスク分析システムの構築。この会社の扱う案件はかなりの大規模で100億円を超えるケースもあり、見積もりにおいてはリスクを徹底的に洗い出す必要があった。こうしたリスク分析のためのアプローチとして、要件定義書からリスク要素を定量的・定性的視点でデータ化するシステムと、あらかじめ用意した100問程度の定型的設問群に担当者が答えていくことでリスクの考慮漏れを防止するシステムを用意し、受注リスクのデータをローカルのExcelファイルに収集できるようにしていた。
「もともとこのお客さまは担当者が手元のPC上でExcelを使用し、受注リスクの分析作業を行っていましたが、各人による個別作業となるため、データの収集や集計に大きな手間を要していました。それだけでなく、分析結果がローカルに保持されるため中央のシステムにフィードバックできないこと、さらには複数担当者が同時に単一のExcelファイルを編集できないことなどが課題として挙げられていました」と金尾氏は語る。
システム構築時に掲げられた要件は、現場が長年慣れ親しんできたExcelと同様の使い勝手を維持すること。特に行のグループ化とソートが柔軟に行えることが必須条件であるのに加えて、低コストによる構築とレスポンスの高速性も求められていた。これらの要件を満たすための開発支援ツールとして採用されたのが「Wijmo」だったというわけだ。
「ライブラリ選定に関して、お客さまからは有償の製品で、しっかりとしたサポート体制を有していることが求められていました。それを受けベンダー各社のツールを比較検討した結果、デモが充実しており必要な機能の実現可能性が容易に把握できる点や、トライアル版の利用が可能だった点、JavaScriptのみで既存の環境に干渉することなく実装できる点などを評価して『Wijmo』を選択しました」と金尾氏は説明する。
その後着手された開発においては、初期コストを抑えるために同社内で稼働する既存のWebシステムを流用した。このシステムではサーバー側の処理が存在し、jQueryによる制御を行っていたが、『Wijmo』ではこれら既存の仕組みに影響を与えることなく容易に組み込むことができ、初期コストを大幅に削減することができたという。
事例の2つ目は、人、モノ、カネといったリソースの予実管理のための仕組みのWeb化にかかわる取り組みだ。具体的な実施内容としては大きく2つ。1つは、ビジネスにおけるカテゴリ単位でのリソースの状況や消費状況など、全体像を把握できるサマリー管理の仕組みの構築。もう1つは、プロジェクトや費目、リソースなどの詳細な単位で予算と実績の詳細を入力するというものだ。
従来、同社ではこうしたリソースの予実管理の仕組みをExcelマクロにより運用していたが、その処理が非常に重く、具体的にはデータベースからデータを流し込んで描画が完了するまでに5分、保存にも5分という時間を要していた。さらにマクロで実装されているため、処理の実行中にExcelを使ったほかの作業が行えない問題も抱えていた。
「そこで、高速な表示と保存をシステムのWeb化により目指すこととし、さらにお客さまのご要望によりWeb版の開発中はExcelでの処理を並行稼働させ、順次移行を進めていくアプローチで望むことになりました」と金尾氏は振り返る。ここでも開発には「Wijmo」を利用した。具体的には「FlexGrid」と「FlexChart」を用いて、横棒グラフや棒グラフ、折れ線グラフなどの同時描画によりデータを可視化していくことにした。
性能の担保に関しては最大で1000行×120カ月分のデータを取り扱うことを想定。同社の要望としては、フッタ行に集計値を表示できるようにしたいとのことだったが、Web版とExcelの並行稼働中は両者でデータベースを共有する必要があったため、既存のデータベースの内容を変更することはできなかった。したがって、集計データの項目をデータベースに追加できず、現在システム上に展開されている全データを取得して計算を行い、結果を表示する必要があった。
この問題に対してはサーバーサイドを新規で作り直すことによってクリアしつつ、サーバー側の処理時間と転送時間を5秒に短縮。また、画面描画のスピードについても「Wijmo」の活用によって1秒程度で完了し、全体の画面表示も6秒で完了するようになった。もっとも、Webシステムとして6秒という時間は長いとの見方もある。「とは言えデータ量が極めて膨大で、そもそもこれまでのExcel版では5分を要していたことを考えると劇的な改善でしょう。また保存についても従来は5分かかっていたところを、『Wijmo』のオブジェクトから差分のみを抜き出す方法で1秒程度にまで所要時間を圧縮しました。システム全体の性能も、お客さまには大いに満足していただいています」と金尾氏は述べる。
以上2つのプロジェクトにおいては、「Wijmo」を活用することでシステム性能の担保や開発コストの削減において多大な成果を享受することができた。さらに「Wijmo」は標準機能も非常に充実しており、顧客から寄せられるさまざまな要望にもきめ細かく応えられた。「特に、やりたいことがプロパティの変更だけで実現できるケースも多く、テストにもさほど多くの労力をかけることなく高い品質を実現できました。これらの点も含めて、『Wijmo』の学習コストの低さには大いに感じ入りました」と金尾氏。当該顧客の案件に限らず、芳和システムデザインが取り組むビーコンや各種センサーを使ったIoT案件など、広範なプロジェクトにおけるアプリケーション実装の局面に「Wijmo」活用の可能性が大きく広がっていることを強調した。
豊富なUIコンポーネント群を配布ライセンスフリーで提供
今回の「GrapeCity ECHO week 2020」を締めくくる5日目最後のセッションでは、初日に続いてグレープシティの村上功光氏が登場。「多様な要件にコレ1つ! オールインワンなJavaScriptライブラリ『Wijmo』の魅力(増補版)」と題した講演を行った。「Wijmo」が多様な案件をカバーする「汎用型」のJavaScritpt製品で、データグリッドやチャート、入力、ゲージ、ピボットなど40以上の各種コントロールをオールインワンで提供していることは、初日の村上氏のセッションでも触れられた通りである。
例えば開発の中では、データグリッドコントロールを使ってデータの一覧表示をすることや、それらのデータをチャートで可視化すること、多彩な入力系コントロールを使って顧客のデータ入力を支援することなどは多い。「もちろん、必要となる各種コントロールを個々に調達することも可能です。しかし部品同士の相性が悪いなど、何らかのサポートが必要になった際、製品ごとに異なる窓口にアクセスしなければならない問題があります」と村上氏は指摘する。各種UIコントロールをオールインワンで提供する「Wijmo」であれば、コントロール間の相性の問題が生じることは決してなく、サポート窓口も一元化できる。開発者が頭を悩ませることなく、UI実装にかかわる幅広い要件に対してトータルに応えることができるというわけだ。
また「Wijmo」では、そうした豊富なUIコントロールに加えて、ユーティリティ系のライブラリなども充実している。例えば、データグリッドコントロールである「FlexGrid」を使って表示した内容をExcelやPDFファイルとして出力する「FexGridXlsxConverter」「FlexGridPdfConverter」といったコントロール、あるいは単一のコードで日本語や英語、中国語、韓国語など多様な言語による表示を可能にするメソッド、さらにはUIコントロールをまたがる画面全体での変更内容を追跡し、Undo・Redoを実現するUndoスタック機能なども用意されている。
さらに、ライセンス体系でもユニークなアプローチをとっている。開発ライセンスについては年次更新スタイルのサブスクリプション形式となるが、配布ライセンスは基本的に無料だ。「配布ライセンスでこうした対応をする背景には、『Wijmo』を開発の標準ツールとして採用いただき、どんどん利用してもらいたいという当社の思いがあります」と村上氏は語る。
現在、企業においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が切実に求められている状況だ。そうした中で、老朽化した既存システムをいかにモダナイズしていくかが企業にとって重要なテーマとなっている。また一方で、一連のコロナ禍においてはリモートワークへの移行を中心に、働き方にかかわる「ニューノーマル」を模索する動きも加速しており、そこでは既存業務アプリケーションのWeb化が強く求められている。
こうした昨今の動向に応えるシステム開発に対し、グレープシティは高度な生産性と品質のツールで支援を続けている。今回の「GrapeCity ECHO week 2020」における各社からの事例報告は、同社に対する期待がますます高まっていることを実感させるものだったと言えよう。