はじめに
昨今のソフトウェア開発者は、職務・職責から、組織における位置付けおよび職務上の優先順位まで、その役割におけるあらゆる側面が変容しつつあります。急速な技術の進歩、ビジネスの優先順位の変化、際限なく高まるように見えるソフトウェアの需要、これらがぶつかり合い、ソフトウェア開発者の役割は変化し続けているのです。
私たちが実施した調査「2020 Global DevSecOps Survey」においても、開発者は、より高速にソフトウェアをリリースし、Kubernetesやマイクロサービス、AIといった新興テクノロジーを採り入れながらも、運用やセキュリティ関連のタスクなどの新しい責任を抱えていることが明らかになりました。
また、今後数年間でさらなる根本的な変化が起きることを、十数人のDevOps実践者とアナリストが予想しています。その中には、例えば「開発者」という言葉の意味や、組織における役割といった、基本的な部分の変化が含まれます。
「開発者」という名前が意味するものは何か
「Deloitte Insights」のレポートによると、業務アプリケーションの急速な需要の増大や「開発の民主化」の波はプロの開発者に衝撃を与え、「開発者」であることの意味するものが根本的にシフトしようとしています。
「ローコード」や「ノーコード」開発ツールにより、いいアイデアがあれば誰でも一定レベルのアプリケーションを開発できるようになりました。これは無限に存在する市民開発者(Citizen Developers)が基本的なアプリケーション開発能力を持つことを意味します。
つまり、ソフトウェア開発はもはやプロの開発者だけに制約されることはなくなるのです。さらに、企業の需要を十分に満たすほどコーダーがいないこともあり、このシフトは着実に進んでいます。
イギリスのITニュースメディア「ComputerWeekly」では、Gartnerのリサーチディレクター ポール・ヴィンセント(Paul Vincent)氏がさらに踏み込み、プロの開発者でさえローコードツールを選択する場合があることを示唆しています。
「さよならIT部門、こんにちはビジネス部門」
ソフトウェアのビジネスに対する貢献度が高まり、プロダクトマネージャーがソフトウェア開発の目標を設定し続けているなか、開発者がテクノロジーのチームではなくビジネスのチームに組み込まれるのは理にかなったことです。
2020年のトレンドを調べたForresterResearchのレポートでは、このシフトは「開発者ディアスポラ(dev diaspora)」と呼ばれています。 diasporaは、ユダヤ人が世界中に散らばり居住区を形成したことに由来し、離散などを意味します。開発者がビジネス部門の中に組み込まれていくことをそのように表現しているのです。平坦な道のりではないものの、いずれは開発生産性やリリース速度が高まると予見しています。
つまり、「ソフトウェアはビジネスの成功に不可欠なので、IT部門よりビジネス部門に配置すべきでしょう」ということです。
新しい「仕事仲間」と新しい開発文化
市民開発者に重点が置かれるようになり、開発者が「ビジネス」に移行すると、すべての開発チームが従来のコーダーのみで構成されなくなることは明らかです。間違いなく、市民開発者と一緒に働くことになる人が出てくることでしょう。
中には意外なところで、IDEのような「仕事仲間」と遭遇する人もいるかもしれません。例えば、まだAIはほとんどの企業の開発チームにおいて初期段階ですが、一部の業界アナリストは3~5年後にはAIがスピード、提案、構造を開発にもたらし、さらにもしかしたらコーディングもできるようになるだろうというポジティブな見通しを示しております。
しかし、このようにAIのおかげでプロの開発者の業務が早く終わるようになったとしても、もし「開発」が専門的なスキルでなくなるのであれば、開発の文化そのものが変わる必要があるのは明白です。