実際にふりかえりを進めるには?
ふりかえりの場が設けられたら、次に考えるのはその進め方だ。森氏は「DPA」「KPT」「+/Δ」3つの手法を提示する。
DPA(Design the Partnership Alliance)は、ふりかえりのルールを全員で作ってから、ふりかえりを始める方法だ。所要時間は10分程度。リーダー主導ではなく、みんなで話し合いながら決めることで全員が声を出しやすい状態が整う。
2つめは、KPT(Keep, Problem, Try)だ。まずはこの1、2週間のできごとを事実や感情を交えながら列挙し、その中から今後も続けたいことや良かったこと(Keep)、うまくいかなかったことや課題(Problem)を挙げて、さらに強化、カイゼンで試したいもの(Try)を決定する。所要時間は60分程度だ。
3つめの+/Δ(plus, delta)では、今回のふりかえりのなかで「うまくいったこと(+)」「カイゼンしたこと(Δ)」を時間の限り列挙し、次回のふりかえりにつなげる。所要時間は5分程度。思いついた人から発言し、スピーディに進めるのがポイントだ。
「初めてふりかえりをする場合は、DPA、KPT、+/Δの順番で試すといい。2回目以降など慣れてきたら、その他の手法を取り入れて試しながら、自分たちに合った手法を模索したい」(森氏)
オンラインでもできる効果的なふりかえりの方法
ふりかえりは、オンラインでも実施できる。例として森氏は、陣取りゲーム「BLOKUS」をヒントに、スプレッドシートなどのマス目を使った方法を提案した。これは、テーマに沿ったコメントを記入し、そのマス目の前後左右に他のメンバーがリプライや感想などをどんどん入力していき、一番マス目をとった人が勝ちとする方法だ。コミュニケーションを刺激する仕掛けとして有効で、チャットツールでも可能という。
オンラインは、ひとりしか話せず、空気感も読みづらく、物理的な可視性が低いと思われがちだ。だが、チャットを使えば一言であっても発言しやすいし、絵文字で感情表現もできる。可視性が低いと言うが、席によっては遠くて見えづらいホワイトボードに比べて、ディスプレイは参加者全員に平等の距離感を提供する。複数のリソースも表示できるので、共有できる情報は多い。
「しゃべることが得意じゃなくても、書くことで自己表現ができる。“できないこと”を“できる”に変えるのではなく、“できないこと”を“プラス”と捉えて、オンラインだからこその新しいことにチャレンジしてみてほしい」(森氏)
組織に広げよう、ふりかえりの輪
ふりかえりの楽しさや意義を実感したら、組織全体に取り組みを広げたいと思うかもしれない。だが、ふりかえりは話し合いをするという行為が重要で、ふりかえり以外の場にその影響が良い形で反映されていくことに価値があるため、ふりかえりで決まったアクションを見るだけでは、外部からは何の意味もない、無駄なことに見えかねない。
「上司から説明を求められたときは、どんなプロセスを経て、どんな話し合いをしてきたのかを示しながら、そこで生まれた定量的・定性的な変化を説明する。過程や目的が分かれば、ふりかえりの意義も理解してもらえるだろう」(森氏)
もっとも、ふりかえりは体験する方が価値をより実感しやすい。「まずは楽しくふりかえりを実施しながら、周りの人の目にとまるまで続けてみよう。もしも興味のある人がいたら、声をかけて見学してもらおう。自分たちの熱量が伝播したのを感じたら、次は少人数のグループで実施してみて、様子を見ながらどんどん活動範囲を広げていこう」。森氏は、草の根運動でふりかえりの輪をじっくり広げていってほしいと呼びかける。
本講演を終える前に、森氏は今回紹介した内容はあくまで「ガイド」であり、一歩踏み出すのは聴講者自身と述べて、次のことばで締めくくった。
「ふりかえりの世界は広くて深い。知れば知るほど楽しい世界が見えてくる。ふりかえりの世界へ、ようこそ!」(森氏)