DX2週目の世界で起こる、全体と詳細の「不同」問題
DX2周目の不協和音
「DXへ向けた動きは2週目に入った」と、市谷さんは語ります。その2週目の世界では、全体と詳細の「不同」問題が起きていました。DXという取り組みに「こういう結果が出る」という予めの計画は存在しません。全体で大きな絵を描いていても、現場は必ずしもその通りにはいかない。結果として全体像と現場が分離し、現場から見ると全体像がわからない、全体側から見ると現場が何をしているのかわからないという分断が生まれてしまいます。
段階と断面
この分断を乗り越えるためには何をするべきか。市谷さんは、「段階」と「断面」によるマネジメントを提唱しています。
まず、全体を「ジャーニー」(段階)で分ける。「スケジュール」ではなく、タイムボックスをベースとした「ジャーニー」。ジャーニー単位で「テーマ」もしくは「ミッション」を定め、その下で個別の活動(仮説検証やプロダクト開発)を動かしていきます。最初にまとめて意思決定してしまうのではなく、タイムボックスごとに意思決定を織り交ぜながらアプローチしていきます。
そして、詳細を「プロファイル」(断面)で診断します。過去を診断する「ふりかえり」、未来への向かい方を見直す「むきなおり」。単純に「進捗どうですか」ではなく、ミクロに「ふりかえり」と「むきなおり」で診断しながら、マクロにジャーニーのあゆみを進めてゆきます。
垂直上の分断:経営と現場の「不一致」問題
経営と現場の方向性は一致しているけれども、その間での状況同期ができていない。つまり、ミドルレイヤーと他の層で方向性が合わない、という事態が起こり得ます。目の前の課題解決がミッションだからこそ、目の前のチャレンジングな判断は見送りたくなってしまう。これは「実験的にやったから失敗が許容される」という確証が持てない、つまり心理的安全性の欠如に起因した問題です。
そういった、個別のプロジェクトで扱うには荷が重すぎる課題については、全社課題としてCoE(Center of Excellence)に引き渡していきます。このCoEは、組織やチーム横断のメタ的なチームとなります。
一点、気を付けなければいけないのはCoEと既存組織との関係性です。CoEを外部に丸ごと任せる、ということをしてしまうと「一休さんの屏風のトラ」へまっしぐらとなります。
個人的な実感としても、このミドルレイヤーによる分断はしばしば発生しているように思えます。それぞれがそれぞれの役割を真剣に全うしようとするがゆえに、分断は起きてしまう。そう考えると、メタ的な視点から軌道修正を促すCoEの存在は変革をすすめるにあたって欠くべかざるピースの一つだといえそうです。
水平上の分断:既存事業と新規事業の「不協和」問題
人・ノウハウ・データの共有に関する分断は、出島と本土の間で起きていきます。切り離せば離すほどこの分断は深まり、戦略の重複や資源の部分最適といった組織の経営課題へと転じていきます。
ここでもCoEが越境の旗振り役となります。新規と既存の間を行き来する機動性を確保し、適宜DX推進と既存事業の両事業へ働きかけを行っていきます。
両利きのチームをアジャイルに運営する
タイムボックスで区切り、意思決定を繰り返す。ふりかえり、むきなおる。つまり、分断を乗り越えDXを前に進めるためには、アジャイルに運営することが一択だと市谷さんは断言します。
両利きチームと各現場・プロジェクトのバックログを分ける。両利きチーム自体をスプリントで運営する。CoEこそ、やることが適宜変わっていくので、線表を引いて……というわけにはいきません。