「開発者体験」はデジタル事業成功のための基盤
最後の「DX動向調査」は数百社のデジタルトランスフォーメーションについての現状をレポートにまとめたものである。
「顧客接点のデジタル化」「ソフトウェアコントローラビリティ」「開発者体験」という3つのカテゴリーに分かれており、デジタル事業成功のための要素と実態把握を目的としている。「組織作りやデジタル化に悩んでいる企業の道しるべとなるようなコンテンツを目指してデータ収集及び分析をしていきました」(松本氏)
「顧客接点のデジタル化」では、顧客データの活用やユーザーエクスペリエンスなど、顧客との接点にソフトウェアテクノロジーを活用するうえで、組織とユーザーの接点がどのように繋がっているのか、組織作りや具体的な取り組みを聞いている。
「ソフトウェアコントローラビリティ」は、組織としてどのようにソフトウェアを活用していくべきかを問う、社内の開発体制や品質に関するカテゴリーだ。DevOpsやSREといった開発チーム自体の取り組みから障害やデプロイの頻度といった具体的な部分に至るまで、組織がソフトウェアとどのように向き合っているかがまとめられている。
上記2つを達成するためにはパフォーマンスが高い開発組織が必要。そこで、「開発者体験」が求められるようになる。この部分に関しては、開発環境から心理的安全性などのマネジメントの要素、働き方の多様性などのアンケートをもとに調査したという。
「やっぱり皆さんが気持ちよく働ける環境を作らなければいけない。それによってより良いプロダクトが生まれるんだという中で、デベロッパーエクスペリエンスが非常に重要だというのは誰も疑うところではないなと。ですので、実際にどういう項目が働きやすさに資するのかというところを分析するために調査を行いました」(松本氏)
2021年のレポートから見えた、日本のDXに必要なこと
2021年度版のDX動向調査レポートでは、デジタル企業と非デジタル企業、半々の比率で311社から回答を得ることができた。それらの回答から、松本氏達はCAGR(年平均成長率)とデジタル事業が占める売上比率を中心とした属性値と共に分析していった。
「レポートを見ていてとても面白いなと思ったのが、こうした事業成長と、皆さんが『こうあるべきだよね』と思うさまざまな要素がそのまま相関してることです。より成長率が高い会社ほどより良い開発者体験を提供するし、そこからとてもアジリティの高い高頻度の改善プロセスが回せているというのが、このレポートの中から見えてきました」松本氏はこのようにレポートを振り返り、日本のDXの実状について話し始めた。
例えばメリハリをつけた開発という意味では、技術的にコモディティ化した部分は平均以上の性能が得られるSaaSに頼り、顧客価値に繋がる重要なポイントに集中すること。ソフトウェアコントローラビリティで言えば、テストや振り返り、シフトレフトといった文化を浸透させること。こうした当たり前とも思える要素の一つ一つが、事業成長に結びついているという。
これらは再発見である。しかし、このように常識とされていることを事実として認識し、戦略を整理して当たり前のようにやっていくことが重要だと松本氏は述べる。そのためには、日々進化する知識を集め、自分なりの行動に落とし込まなければならない。客観性が高いレポートはその上で欠かせないものだ。
松本氏は、以下のように述べてセッションの締めとした。
「事実に向き合ってデジタル活用戦略を立ち上げる。最終的にはそれが皆さんのデベロッパーエクスペリエンスに繋がるだろうと信じて、こうしたレポートを皆さんにお届けしようと思います」