ビジネス側からの内製化の要望=内製/外製ではなく“本気度”の話
ところで、ビジネス側に踏み込んでいくときにエンジニアはどんな技術を新たに身につける必要があるのでしょうか。我々デベロッパーは勉強する生き物です。なので、新しい領域に飛び込むとなると「何から学べばいいのか」と発想しがちです。それが我々を躊躇させることもあります。ビジネス側に行くためにはきっと全く違うなにかが必要だと。
漆原さんは違う見方をしています。「事業計画、ロジカルシンキング、MECE、フェルミ推定、コンサルフレームワーク、ケーススタディ……。確かにビジネス側にはビジネス側の武器が有る。それを持つというのは、もちろん意味があることです。けれども、それは今ビジネス側にいる人達でできているわけです。むしろ彼らに無いスキルを武器として生かしたほうが良い」。
「デベロッパーにはデベロッパーの武器があります。モデリング、デザインパターン、アーキテクチャ設計、アジャイル開発といったエンジニアリングスキル。ファシリテーションやコーチング、可視化/シンプル化/汎化の能力のようなソフトスキル。そして、コミュニティという会社を超えた繋がり。これが我々の持っている強い武器です。これらを活かすことでビジネスに貢献していく。それが僕たちの提供できる大きな価値だ」と漆原さんは説きます。技術はもはや当たり前、ビジネスも理解できるエンジニアこそが、これからのフルスタックエンジニアなんですね。
ビジネス側の「本気」を見極める
ところで、エンジニアがフルコミットするべきビジネスとはなんでしょうか。ビジネス側の要求に盲目的に従う必要はありません。本気のデベロッパーは本気のビジネスを選ぶべきです。では自分が関わるビジネスへの本気度を、どのように見極めればよいのでしょうか。
「そのビジネスのビジョンは何ですか?って聞いちゃいましょう。いやぁ、なんか社長からDXやれって言われて……。そんな答えが返ってくるようなら迷わず引いたほうがいい」。仕事の目的を本音で対話する。そうすることでビジネスへの本気度と思いを見極められると漆原さんは強調します。
「例えば、航空会社の方は間違いなく飛行機へ深い愛着をもってます。自動車メーカーの方ならドライブやエンジンへの愛。流通業の方なら店舗や商品への愛。通信会社の方ならネットワークインフラへの愛。本気の方々は熱っぽく語ってくれますよ。そのために君の力が必要なんだと言われてみてください。引けなくなりますから(笑)」
漆原さんが心を動かされ、フルコミットしようと決めたビジネスに共通するのは「愛」だと言います。数字だけではなくそのビジネスに賭ける愛があるからこそ、ビジネスは最高のレベルに磨き込まれるんですね。
「ビジネス側はビジョンと本気、リスペクトと許容文化を。IT提供側はフルコミット、無用なITは作らないプライドを。こういったルールを設けてバチバチに戦うくらいのパートナー関係が大事。お互いの成果とゴールを意識していきましょう」と漆原さんは言います。
ビッタビタに、鬼ヤバく行こう
「結局、本気の人たちは皆オタクなんです。ビジネスで本気の人たちはビジネスのオタクなんですよ。技術が大好きなデベロッパーは技術のオタク。オタク同士、好きになれないはずがない。デベロッパーの皆さん、ビッタビタにやっていこう!ビジネスに踏み込むのは今だ。鬼ヤバく行こう!」――最後に漆原さんが放った言葉は、デブサミ夏の一日を通して最も情熱的でした。
ビジネスとITの間に溝があったのは、そして溝があってもなんとかなっていたのはもう過去の話です。エンジニアとして培ってきた強みを活かし、本気のビジネスに本気でコミットする。我々がビジネスに踏み込んでいくことで、社会はもっとずっと良いものに変えていける。デベロッパーの願いが確信に変わる素敵なセッションでした。