人工知能や機械学習などに幅広く活用され、勢いづくPython市場
健全なPython人材育成の支援を目的に設立された「一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会」。Pythonエンジニア認定試験の運営をはじめ、プログラミングフィロソフィー「Pythonic」の普及推進、Python技術の普及や技術者育成の推進を目的とした活動全般などを行っている。
代表理事の吉政氏は設立理由について、「Python市場が急速に広がる中で、”お作法”を知らない人が増えてしまうことを危惧している。そこで、学習の指針となる試験と教材・スクール認定を行い、Pythonを正しく理解した人材の育成を支援するべく設立した」と語る。
まさに市場ではPythonへの関心やニーズが高まっており、求人情報検索サイトIndeed Japanの2021年4月の集計でも、Python求人数は2万7000件、昨年比162%と右肩上がりに増えている。また、マイナビニュースが行った「ITエンジニアが学びたいプログラミング言語」ではPythonが32%の支持を獲得して1位にランクされている。
吉政氏は、「人工知能や機械学習、ビッグデータ、インフラ自動化など、各分野でほぼ同時的にPythonが求められるようになり、市場が広がってきたために大きなムーブメントになっているのではないか」と分析する。
そうした市場の広がりを裏付けるものとして、TIOBE Softwareから発表された「TIOBEプログラミング言語オブ・ザ・イヤー2020年」では、年間インデックス値の増加が2.01%でPythonがアワードを受賞した。ほかにもオライリーの調査でも、「今一番学ばれているプログラミング言語」として挙がっている。
このように日本でもPythonが注目されるようになったきっかけとしては、情報処理試験の科目に採用されたこと、そして国の「未来投資会議」でPython技術者の育成を推進すると明言されたことが大きい。また日本以外でも注目されている言語であり、米国では「最初に学ぶ言語」にPythonを挙げる人が多く、求人も上位2番めに多い。
こうした追い風の中、Pythonエンジニア認定試験は、基礎試験とデータ分析試験の合計受験者が開始より3年1か月で1万名を越えた。さらに1万人達成が報じられたとたんに受験者が増え、4年目は年間1万人を達成する見込みだ。
こうした資格の運営は、最初の3年間は苦戦すると言われ、工夫しながらブランド化を図る必要がある。しかし、Pythonの場合は相当速いペースで受験者が増えており、日経の「今取るべき資格」の調査データでは、民間資格では年連続2位(1位はAWS認定各種試験)のポジションにつけている。
Pythonの”お作法と心得”を学んでもらうため、新試験を無償で提供
このようにPythonが勢いを増す中、新しい試験「PythonZen & PEP 8 検定」が無償で提供されたことが、吉政氏から紹介された。
この試験実施の背景について、吉政氏は「需要の増加に伴い、関連書籍やプログラミングスクールが増える一方、”Pythonのお作法”を知らない人が書いた書籍や講師が、不適切なPython文法を教えるケースが散見され憂慮している。学ぶ人も正しいことを学びたいと思っているはずなので、学んだことが本当に正しいのか、無料の試験でチェックしてもらえればと考えた」と説明した。
なお、吉政氏が”Pythonのお作法”と表するのは、「Pythonic」であり、Pythonを使う人たちの間で共有されている造語で、プログラミングフィロソフィーとして幅広い意味を持つ。またPythonの心得として「The Zen of Python」という設計について記述されたイディオム集も用意されているので、確認しておこう。ちなみに「Zen」は日本語の「禅」に由来しており、Pythonのインタフプリタで「import this」と実行すると英文で内容が表示される。
なお「PythonZen & PEP 8 検定」の試験開始は年内の開始が予定されており、同時期(10月16日)に開催される日本最大のPythonのカンファレンス「PyCon JP」で発表の予定だという。吉政氏は、「概念的な話でちょっと難しいかもしれないが、試験を通じて少しでも触れられる機会を提供できればと考えている。ネット接続できるブラウザ環境があれば誰でも無料で受験できるので、ぜひ、受けてほしい」と語った。
初学者向けに教材を無料で公開・提供する新構想「Pythonオープンドキュメントプロジェクト」
続いて、2021年7月31日に発表された「Pythonオープンドキュメントプロジェクト」について、寺田氏から紹介がなされた。
この目的は、Pythonを学習したい人が誰でも無料で正しく、わかりやすく学べる環境を整備することで、さらなる市場構造を狙っていくというもの。全国の学校法人、スクール、企業向けにPython初学者向けの教材を公開することで、市場全体の教材品質の向上を図るとともに、コストダウンにもつながるという。
一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会が運営するメリットは、情報の新しさや汎用性だ。現在はVer.3.9が最新だが、初学者がいつ見ても最新の状態が保たれるよう、毎年10月の最新版リリースに合わせて情報が改定される。また、複数のバージョンやOSに対応するドキュメントが掲載されることになっている。
なお、コンテンツの利用ガイドラインとして「CC-BY4.0国際」というライセンスを採用し、誰でも利用・改変ができ、商用利用もできるものにするという。コピーライトをどこかに表記する必要があるが、企業でも個人も利用可能だ。
そして寺田氏は、「スクリーンショットを豊富に入れるなど丁寧な説明を心がけ、メンテナンスはもちろん、オープンソース的にプロジェクトを推進して要望や修正依頼も受けていく。多様なドキュメントを作るというより、インストール・セットアップ、文法の基礎など、何度も繰り返し利用されるものを提供していきたい」と意欲を見せた。そこにもまた、Pythonicとして、Pythonらしさ、Pythonのお作法を取り入れていくという。
取り扱う内容としては
- Pythonのインストール・セットアップ
- Pythonの基礎文法
- エディターやJupyter Labなどの環境セットアップ
など、初学者向けの内容になる予定となっている。
初学者がスムーズに学習を進めるための“3つのポイント”
こうした初学者向けのプロジェクトが立ち上がった理由について、寺田氏は「試験を通じてさまざまな学びがあり、初学者向けにさまざまな情報を提供する必要を実感した」と語った。
そもそも初学者向けの勉強法にはどのようなものがあるのか。最も多いのが「本を買って読む」こと。そして、「動画やオンライン学習プラットフォーム」も有効な手段であり、無料版などもあるため手が出しやすい。そして、時間的余裕がない人は、「認定スクール」に通い、一気に学ぶという人もいる。そして、「知人に頼る」のもいい方法だ。
「一緒に学ぶ人やちょっと詳しい人が周りにいると、格段にステップアップしやすくなる。いつどこから始めるかが悩ましいが、同じ会社に仲間がいないなら、コミュニティへの参加もおすすめだ。PyCon JPでも、もっと小さなコミュニティもある。オンラインでもつながれるので利用してみるといいだろう」と吉坂氏は語り、「まずは『やってみる』ことを意識してほしい」と吉坂氏は語った。
それでもまだ「なかなか理解が進まない」という人のために、吉坂氏は次の3つのポイントについてアドバイスした。
1)自由に勉強できる環境
インターネットやパソコン、ソフトウェアなどに加え、Pythonのインストールの方法、どんなライブラリ、エディターを使うかなど。パソコン内、またはネット上でPythonが実行できる環境を用意することが、最初に直面する最も大変な課題だ。環境を自分で自由に作ったり壊したりできるようになれば、学習が楽に進む。誰か助けてくれる人がいることも大切。
2)データ型
普段の生活では「データ型」という概念は使わないもの。「1」が数字なのか文字なのかなど、データ型を意識して理解できれば、より勉強が進むはず。
3)制御構造
繰り返しや条件分岐などが学べるようになれば、プログラミングをやっている実感が出てくる。そこまでいけば、さまざまな本の理解が進み、動画や勉強会も楽しめるようになる。
寺田氏は「最初はちょっと苦しいかもしれないが、まずは初学者はここを学んでから、いろんなものに取り組む方がいい」と語る。マイナビニュースのPython学習コーナーなどにもまとめられているので、興味のある方は見てみるとよいだろう。
Pythonエンジニア育成のための2つの試験に向けて、合格のコツと勉強法
最後に既に実施している試験「Python3エンジニア認定基礎試験」および「Python3エンジニア認定データ解析試験」について紹介された。いずれの試験についても、問題範囲を「Pythonチュートリアル」(オライリー)、「Pythonによるあたらしいデータ分析の教科書」(翔泳社)から設問を出し、その問題範囲は一般社団法人Pythonエンジニア位育成推進協会のWebサイトに掲載されるので、それに合わせて集中的に勉強するとよい。
なお全国のオデッセイコミュニケーションズCBTテストセンターでいつでも受験が可能だ。
本を読んで受験する方法もあるが、スピードを重視するなら認定スクールの対策コースを受講するのが確実だ。また全ての出題がPythonicに基づいており、それを理解して望む必要がある。なお、無料の模擬試験「PRIME STUDY」も用意されているので活用するとよいだろう。ぜひ、挑戦してみてはいかがだろうか。