気持ちの良いコラボレーションを促進するためにできること
GitLabのHandbookには「No agenda, no attenda.(アジェンダのないミーティングには参加しない)」という言葉が記されている。ミーティングの主催者側は必ずアジェンダを用意して準備万端にしておく必要があるし、参加者側も事前にアジェンダを確認して質問ノートへ記載するなど全力で準備に協力することが求められる。これも同期コミュニケーションの効率化を最大限に図るための工夫である。「そもそもこのミーティングは本当に必要なのか?」伊藤氏が作成した以下のワークフローに当てはめて考えるといいだろう。
この非同期のコミュニケーションを前提とするGitLabの文化を表す一例として、佐々木氏は新しく入社したメンバーのオンボーディングプロセスを紹介した。GitLabでは、入社初日から1カ月先ほどまでのオンボーディングプログラムの内容が公開されている。そこには1日単位でやるべきことが細かく定められており、そのタスクをこなしてさえいれば、いつ・どこで・どのようにやっても構わない。「このオンボーディングプロセスを通じて、GitLabの文化を叩き込まれた」と、佐々木氏は振り返る。
入社したばかりで右も左もわからない中、オンボーディングプロセスを1人で進めていくことに不安を感じる人もいるだろう。そんなときはGitLabの雑談する文化である「Coffee Chat」を活用すればいい。伊藤氏のワークフローにもある通り、Coffee Chatであればアジェンダなしで、カレンダーの空き時間に“Coffee Chat”と入れておけば、すぐにメンバーに雑談をスケジュールすることができる。
「よくジョブ型雇用の外資系企業だと、自分の職務範囲外のことで他人を助ける文化がないと言われるが、GitLabでは決してそんなことはない。自分は入社して半年ちょっとだが、これまで助けを求めたときに助からなかったことは一度もない」と語る佐々木氏。「役職が上がれば、よりチームへの貢献やコラボレートが求められる。ジョブ型雇用で与えられるものはタスクではなくビジョンと責任だ」と強調した。
加えて、GitLabでは毎週1時間のマネージャーとの1 on 1の機会も用意されている。佐々木氏と伊藤氏が所属するチームには7名のメンバーがいるため、マネージャーは週に7時間を1 on 1だけに割いていることになる。
1 on 1の場で確認されるのは、決してKPIの達成度などではない。チームメンバーが理想的な状態にあるかどうかを確認するために、「仕事を楽しめているか?」「自己研鑽する時間は取れているか?」「働きすぎていないか?」といった質問を投げかけ、しっかり自分の仕事にフォーカスしてくれている印象があるという。「チームが自立するために、しっかり綿密にメンバーの様子を把握しておくのが、GitLabのマネジメントスタイルだと思う」(佐々木氏)
さらに、メンバー間の信頼関係を醸成する仕組みには、「公開称賛」がある。「これは私たちが考えた造語」と前置きしながら説明されたこの仕組みとは、要は、みんなの前で他のメンバーの成果を共有して褒め称えるということだ。
公開称賛には3つの種類がある。1つ目は、メンバーが1 on 1で成果をアピールすると、それをマネージャーがSlackで共有してくれること。2つ目は「Discretionary Bonus」という褒賞制度。ジョブディスクリプションに記載された職務範囲を超えて、生産性の向上や成果につながる働きをした他のメンバーを推薦して認定されると、1,000 USDのボーナスがもらえる。3つ目はSlackの「#thanksチャンネル」。ちょっとしたことでも感謝を伝えられる場所として活用されている。
今回、紹介されたGitLabの文化やTipsは、メンバー全員が完璧にできているわけではない。個人のスキルや意識に依存する部分が大きいからだ。できなかったとしても、相手に悪意があるわけではない。そんなときは“Assume Positive Intent(ポジティブな意図を前提とする)”の価値観のもと、できないことを指摘するのではなく、できる人が率先して一緒にやって手本を見せればいい。
「最高の職場は自分たちで作るもの。紹介した内容が絶対的なものとは考えてはいないが、自分たちが働く環境をより良くしていくために、少しでも役立てていただけたら」と語り、伊藤氏はセッションを締め括った。