救急隊・ドクターカー向けアプリ「NSER mobile」を開発
Claris FileMakerプラットフォームを基盤とする「NEXT Stage ER」をリリースした翌年の2019年初頭、TXP Medicalは救急隊・ドクターカー向けアプリの追加開発に着手した。先述したように、救急隊と病院の間はデジタル化されておらず、救急隊は現地到着後、病院と電話でやり取りをして、受け入れ可能な搬送先病院を見つけるのである。しかもほとんどの病院では、救急隊からの電話を受けた人が即時判断できなければ、判断できる担当医に院内PHSで電話をかけ、判断を仰ぐというような運用になっている。
「病院でのやり取りは1件あたり約5分。断られたら、再び「橋で倒れていた推定60代の男性。氏名不詳。血圧50、脈拍は120で低体温」といった情報の伝達を受け入れ先の病院が見つかるまで何度も繰り返すのです。そういったやり取りに時間がかかればかかるほど、助かる命が助からなくなる可能性もあります。例えば99の医療機関に断られて100カ所目の医療機関で受け入れられたというワーストケースを考慮すると現状のオペレーションでは5分×100の8時間、しかしその交渉を同時に行うことができれば本来かかる時間は5分で済みます。以前からここに課題があることは医療従事者も救急隊もわかっており、学会でもそういった課題を解決する仕組みを作ろうという話は過去10年以上にわたり議論されてきていたのですが、なかなか実現しませんでした」(園生氏)
実現しなかった理由として、「技術がそこまで追いついていなかったから」と園生氏は話す。救急隊が活動する現場は、端末に情報を入力するのには適していない。そのため手書きメモが一般的になる。だがここ数年でOCRや音声認識などAIを活用した入力支援技術が進化した。それらの技術を活用することで初めて、救急現場での情報入力が可能になる。そして2019年秋ごろ、TXP Medicalは救急隊アプリ「NSER mobile」をリリースした。
リリース直後は「活動中に入力なんてできない」「音声入力できてもハンズフリーじゃないと意味が無い」などのフィードバックがあり、散々だったという。だが、プロダクトとしては満足度40点ぐらいのところからスタートし、音声入力だけではなく、音声コマンド入力やモニター画面の解析、免許証や保険証のOCR機能など超短時間で入力できる支援機能を高速でリリース、また病院側のNEXT Stage ERとのデータ連携により、救急隊から病院までデータが一気通貫でつながることによる価値を伝え続けたところ、2020年夏ごろからその構想に賛同する医者や病院仲間ができたという。
広島県福山市の大田記念病院はその一つ。同病院の院長の強力な推薦もあり、2020年12月10日より、福山市の救急隊で全救急隊にアプリを持ってもらっての実証事業がスタートした。「救急隊情報のデジタル化が必要という思いだけではついてきてはくれません。NSER mobileはiPhoneやiPad上で稼働するアプリであるFileMaker Goで運用されています。音声入力やOCRについてはFileMakerから外部APIを叩く形で構築しています」(園生氏)
病院側へのデータ送信はプッシュ形でNSER mobileのデータをWebダッシュボードに表示する形にしている。このダッシュボード上ではQRコードが表示され、このQRコードを読み込むことで、インターネット上のNSER mobileの情報を院内電子カルテ端末上のNEXT Stage ERに連携することができる。QRコードを用いることで、病院内外のデータの統合が実現された。
福山市での活動を踏まえて、FileMakerで構築されたNSER mobileと院内のNEXT Stage ERの統合プラットフォーム全体のレベルアップを図っていった。
そして2021年8月からスタートしたのが、神奈川県鎌倉市と鎌倉市医師会、TXP Medicalによる「次世代救急医療体制の構築に向けた実証事業」である。「鎌倉市でスマートシティへの取り組みを本格化させており、その一つの取り組みとして、NSER mobileによる救急隊との情報連携事業が行われることとなりました」(園生氏)
鎌倉市以外にも日立市、滋賀県高島市、宮城県仙南地域など多くの地方自治体でNSER mobileが導入されており、北海道札幌市、愛知県豊田市、島根県出雲市、神奈川県横須賀市などででも新規導入が予定されているという。
NSER mobileでは、救急隊が患部の写真を撮影し、現場がどのような状況であったのかも含めて画像で医師に事前に伝えることができる。怪我をした患者が運び込まれ、医師が患部を診察して初めて診療方針が決定するこれまでのプロセスとは異なり、患者が到着する段階で必要な医療器具を事前に準備しておけるのだ。
カメラだけでなく、音声認識やOCR連携によって進化を続けるTXP Medicalだが、医師として現場を理解する園生氏は、現状に甘んじていない。部分的には「紙のほうが早いのが実情」と自己評価も厳しい。最低でも紙と同等の入力速度を実現し、さらに各レイヤーの業務オペレーション自体を統合・最適化してDXを進めていく必要があるという。「自分たちが作ったものが全国の救急医療の現場で採用され、それによって助かる命も増えるはずです。当社のFileMaker開発チームには、全国で誇れるメンバーが増えていますが、まだまだ加速していきたい。TXPでは、一緒に現場目線の救急ITシステムの提供を通じて命を救うシステム開発に携わってくれる仲間を絶賛募集中です」(園生氏)
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