"寄り道"することで人生が豊かになる
さらにこうしたやさしい日本語の考え方は、子育てにも使える……というより、子育てで鍛えられるという。5歳、3歳の幼児と大人とでは、情報量がもともと大きく違う。いわば「情報の急勾配」がある中で、伝えたい情報を伝えるのは至難の業だ。
鳥井氏はその代表例として「しりとり」をあげた。語彙力が異なる中で同等に戦うには、大人側が調整する必要がある。また、大切な話でも長すぎると、子どもは最後まで聞いていられず、途中でどこかに行ってしまう。要点を整理して惹きつけ方を工夫して、簡潔に話す必要がある。また、「お金はお金で買えないの?」など突然にして深遠な問いを投げかけられることも多く、まどろっこしく説明しても聞いてもらえない……。毎日が学びにして修行というわけだ。
そもそも鳥井氏が、自分で本を書こうと思ったのは、日本の小学生が考え方(概念)を学ぶ本が少ないことに課題感をもったからだという。5歳からなら『ルビィのぼうけん』、中高生は『Girls Who Code』があり、『作って動かす』本はたくさん出ている。さらに、翻訳物が多いため、日本の子どもが自分ごととして捉えられるものがないと感じていた。
こうした結論に至り、実際に本を書き出すまでには紆余曲折が多い。情報学部に行って、プログラミングを仕事にしながら日々技術力を研鑽するのが、直線的で理想的だとすれば、鳥井氏は美術史学を学び、ベンチャー企業でプログラミングを覚え、開発している間にもRails Girlsに参加したり、翻訳をしたり、さらには自身の本を執筆することになった。そうした経緯を振り返り、「その間も結婚や出産も経験し"ごちゃごちゃ"しているけれど、その中でこそ育まれるものもあり、次の課題が見えてくる」と語った。
自分の場所で「やりたいこと」学びたいこと」をやっていると、足元が豊かになり、色んな話がやってくる。さらに取り組むことで深まり、次のステップがやってくる。すごく忙しいけど、自分の人生を豊かにしてくれるが、それは決して仕事だけの話ではない。
「妊娠出産や育児の経験は確かに仕事に良い影響を与えてくれる。でも、仕事だけが自分の人生ではない。仕事で成果を上げるためだけの視点ではなく、自分の人生を豊かなものにするために、『やりたいこと』『学びたいこと』にトライし、寄り道だってすればいい」と語り、「誰でもない、自分の人生を生きていこう」とメッセージを送り、まとめの言葉とした。