言語や文化の壁を乗り越え、プロダクトビジョンの実現を目指す
お互いを知り、英会話に慣れるため朝会前にGood&Newを実施。これは、アメリカの教育学者ピーター・クライン氏が開発した、「よかったこと」「新しい発見」をチームで共有する取り組みだ。
サイボウズにはコミュニケーターと呼ばれる通訳が存在しており、上岡氏のチームの公用語を英語にした当初は、ベトナムのチームとの打ち合わせには同席してもらうことにした。「極力英語を話すように努力はしますが、メンバー間、特にベトナムと日本間の情報格差を最小化することを大事にしました。最初は本当に苦労しました」(上岡氏)
ベトナム語には、破裂音や語尾の子音を発音しないという特徴があって、これが英語の発音にも影響したため、聞き取りが難しく、何度も聞き直すこともあった。お互いが不慣れな英語で話すことに必死で、本来話したかった論点がずれることもあった。また、文化の違いによる認識の相違も見られた。日本の開発組織で形成した文化や暗黙知があり、日本の他のチームでは通じるが、ベトナムのメンバーには通用しないものもあった。たとえば、日本での情報源のひとつにX(旧Twitter)があるが、ベトナムでは別のSNSが人気だという。
上岡氏は、「相互理解は、チームをつくるうえで大事です。特に言語が違うとか、国籍が違うなどのハードルがある中で、お互いを知ることは重要です」と述べた。業務だけでなく、アイスブレイクのためのコミュニケーションなども重ねていった。2022年10月にベトナムのメンバーを受け入れて1年弱経過した現在では、コミュニケーターの同席はなくなり、当初よりもスムーズに意思決定ができるようになっている。なお、チャットを会議の補助に利用したり、テキストコミュニケーションの際に機械翻訳サービスを活用したりといったテクノロジーの恩恵も受けている。
このように、チームのグローバル化については、単に言語の問題だけでなく、異なる文化背景や働き方の違いを乗り越えるための戦略が求められる。サイボウズにとって日本組織の一部をグローバル化することは一つの通過点に過ぎない。
上岡氏は最後に「我々のゴールは企業理念やプロダクトビジョンの実現です。外国籍の方やフルタイムでない方も柔軟に働けるような環境を整備することが、組織を強くする上では必要になると思います」とコメントした。
英語を公用語とする新プロダクト開発チームが誕生
続いて、平野氏がグローバル向け新規製品の開発チームをつくるため、国内外の英語話者を採用した話を披露した。サイボウズのこれからのチャレンジはグローバル展開だ。アメリカや中華圏、東南アジアなど、海外での売上が伸長している。製品の提供だけでなく、企業自身もグローバル化を求めている状況だという。
平野氏は日本のIT人材が不足し続ける一方で、世界では増加していることを統計データから示し「日本語話者だけに絞って採用するのは厳しい。世界に広げた方がいいということで、国内外で英語話者の採用に挑戦しはじめました」と背景を説明した。
対象となるのは、新たに提供をはじめるIAM(Identity and Access Management)製品の開発チームだ。1つのIDでさまざまなクラウドサービスへログインできるようなプロダクトで「グループウェアを再定義する」ことを目指しているという。新規プロダクト開発の公用語を英語にしたのは、従来のプロダクトに関わるメンバーの混乱を避けるためだ。既存のプロダクトの場合多くのメンバーが日本語話者で、ドキュメント、コードへのコメント、メッセージはすべて日本語となっているため、英語しかわからないメンバーは参加しにくい。
こうして、IAM製品のプロジェクトは、バイリンガルな社員やアメリカ拠点のメンバーを中心に、全てのコミュニケーションを英語で行うことからスタートした。新規の採用は非日本語話者向けのプラットフォームである「Japan Dev」などを利用し、英語話者向けの募集要項を作成した。日本語の能力は必要とせず、英語は必須とした。グローバルなエンジニアの相場を考慮し給与は従来よりも高めに設定し、世界中からの応募を受け付けている。また、採用後の日本への移住についてもビザの発行や渡航費、一時滞在の住居などをサポートしているという。