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Developers Summit 2023 KANSAI セッションレポート(AD)

グローバル市場への拡大を目指すサイボウズが挑む、多国籍のエンジニアリングチームのつくりかた

【Session2】英語ができなかった自分達が、グローバルチーム立ち上げに挑戦!?

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 サイボウズは、世界で最も使用されるグループウェアメーカーを目指し、チームワークを支援するソフトウェアの開発を継続している。そのための戦略として、グローバル市場における高い顧客価値の迅速な提供と、多様な人材の受け入れを実現する英語を標準とした組織の構築が進行中である。2023年9月2日に開催した「Developers Summit 2023 KANSAI」では、同社の多国籍のエンジニアリング組織の立ち上げに関するエピソードが披露された。

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 「チームワークあふれる社会を創る」という理念を持つサイボウズ。今回登壇したのは、同社の 開発本部 kintone開発の上岡真也氏と、New Business部長の平野昌士氏で、それぞれが英語を公用語とするチームづくりに挑戦している。まずはkintone開発チームにベトナムのエンジニアを受け入れた上岡氏が説明した。

kintone開発チームへのベトナム拠点メンバーの受け入れに際し、英語を公用語に

 kintoneは、開発の知識がなくても業務に合わせたシステムを簡単に作成できるクラウドサービスだ。サイボウズはkintoneそのものの開発・運用・販売だけではなく、プラグインや連携サービスを提供するベンダーや、お客様の業務課題をヒアリングするサポートパートナー、そして開発者やユーザーのコミュニティ構築にも注力している。kintoneのカスタマイズや、プラグインなどの連携サービスの組み合わせにより、より高度なビジネス課題の解決や幅広い業種への展開が可能となっている。

 上岡氏のチームは、kintone管理者や社外のエコシステムを支えるプロダクトを開発している。元々は日本語話者のメンバーで構成されていたが、コア開発メンバーが離脱したことにより、2022年10月からベトナムのメンバーを受け入れ、これを機に業務での公用語を英語にした。

サイボウズ株式会社 開発本部 kintone開発 上岡真也氏
サイボウズ株式会社 開発本部 kintone開発 上岡真也氏

 サイボウズには、チームメンバーの募集や、個人の新しいキャリアを促す「ジョブボード制度」がある。上岡氏のチームが募集をしたところ、ベトナム開発拠点のメンバーが手を挙げたのだ。サイボウズのベトナム拠点は2006年に設立し、年々規模を大きくしている。

 ベトナム開発拠点のほとんどのメンバーは、グループウェア「Garoon」を開発しており、ドキュメントは英語で、コミュニケーションは逐次・同時通訳といった体制だった。kintone開発メンバーのほとんどが日本国籍で開発拠点は日本のみ。チーム内コミュニケーションやドキュメント類も日本語しかなかった。ベトナムは、日本との時差が2時間、公用語はベトナム語で、開発メンバーの英語レベルは日本のメンバーと同程度といった状況だった。

 kintoneの開発部署は100名を超える規模である。全ての業務を英語化するのは困難であるため、全体ではなくチームでの英語化を目指すことにした。上岡氏のチームは、チーム内でのコミュニケーションやテキストメッセージ、打ち合わせなどを英語にする試みを行っている。チームの業務で必要なドキュメントを英語にアップデートした。一方、予算や事業戦略、カスタマーサポートの問い合わせなどは、日本語のままでの対応を考え、必要に応じて日本のメンバーが翻訳や調整の役割を担当することにした。

チーム内で英語を公用語化し、全社との調整は日本メンバーが担当
チーム内で英語を公用語化し、全社との調整は日本メンバーが担当

言語や文化の壁を乗り越え、プロダクトビジョンの実現を目指す

 お互いを知り、英会話に慣れるため朝会前にGood&Newを実施。これは、アメリカの教育学者ピーター・クライン氏が開発した、「よかったこと」「新しい発見」をチームで共有する取り組みだ。

 サイボウズにはコミュニケーターと呼ばれる通訳が存在しており、上岡氏のチームの公用語を英語にした当初は、ベトナムのチームとの打ち合わせには同席してもらうことにした。「極力英語を話すように努力はしますが、メンバー間、特にベトナムと日本間の情報格差を最小化することを大事にしました。最初は本当に苦労しました」(上岡氏)

 ベトナム語には、破裂音や語尾の子音を発音しないという特徴があって、これが英語の発音にも影響したため、聞き取りが難しく、何度も聞き直すこともあった。お互いが不慣れな英語で話すことに必死で、本来話したかった論点がずれることもあった。また、文化の違いによる認識の相違も見られた。日本の開発組織で形成した文化や暗黙知があり、日本の他のチームでは通じるが、ベトナムのメンバーには通用しないものもあった。たとえば、日本での情報源のひとつにX(旧Twitter)があるが、ベトナムでは別のSNSが人気だという。

 上岡氏は、「相互理解は、チームをつくるうえで大事です。特に言語が違うとか、国籍が違うなどのハードルがある中で、お互いを知ることは重要です」と述べた。業務だけでなく、アイスブレイクのためのコミュニケーションなども重ねていった。2022年10月にベトナムのメンバーを受け入れて1年弱経過した現在では、コミュニケーターの同席はなくなり、当初よりもスムーズに意思決定ができるようになっている。なお、チャットを会議の補助に利用したり、テキストコミュニケーションの際に機械翻訳サービスを活用したりといったテクノロジーの恩恵も受けている。

 

当初は必要だった通訳も現在は不要となった
当初は必要だった通訳も現在は不要となった

 このように、チームのグローバル化については、単に言語の問題だけでなく、異なる文化背景や働き方の違いを乗り越えるための戦略が求められる。サイボウズにとって日本組織の一部をグローバル化することは一つの通過点に過ぎない。

 上岡氏は最後に「我々のゴールは企業理念やプロダクトビジョンの実現です。外国籍の方やフルタイムでない方も柔軟に働けるような環境を整備することが、組織を強くする上では必要になると思います」とコメントした。

英語を公用語とする新プロダクト開発チームが誕生

 続いて、平野氏がグローバル向け新規製品の開発チームをつくるため、国内外の英語話者を採用した話を披露した。サイボウズのこれからのチャレンジはグローバル展開だ。アメリカや中華圏、東南アジアなど、海外での売上が伸長している。製品の提供だけでなく、企業自身もグローバル化を求めている状況だという。

 平野氏は日本のIT人材が不足し続ける一方で、世界では増加していることを統計データから示し「日本語話者だけに絞って採用するのは厳しい。世界に広げた方がいいということで、国内外で英語話者の採用に挑戦しはじめました」と背景を説明した。

サイボウズ株式会社 New Business部長 平野昌士氏
サイボウズ株式会社 New Business部長 平野昌士氏

 対象となるのは、新たに提供をはじめるIAM(Identity and Access Management)製品の開発チームだ。1つのIDでさまざまなクラウドサービスへログインできるようなプロダクトで「グループウェアを再定義する」ことを目指しているという。新規プロダクト開発の公用語を英語にしたのは、従来のプロダクトに関わるメンバーの混乱を避けるためだ。既存のプロダクトの場合多くのメンバーが日本語話者で、ドキュメント、コードへのコメント、メッセージはすべて日本語となっているため、英語しかわからないメンバーは参加しにくい。

 こうして、IAM製品のプロジェクトは、バイリンガルな社員やアメリカ拠点のメンバーを中心に、全てのコミュニケーションを英語で行うことからスタートした。新規の採用は非日本語話者向けのプラットフォームである「Japan Dev」などを利用し、英語話者向けの募集要項を作成した。日本語の能力は必要とせず、英語は必須とした。グローバルなエンジニアの相場を考慮し給与は従来よりも高めに設定し、世界中からの応募を受け付けている。また、採用後の日本への移住についてもビザの発行や渡航費、一時滞在の住居などをサポートしているという。

応募数は日本の数十倍、テクノロジー活用と相互理解で多国籍チームを運営

 選考プロセスは日本向けの採用と一緒で「書類選考>技術試験>面接>オファー面談>承諾>入社」と進むものの、それらは全て英語で行われる点が大きく違う。このため、上岡氏のエピソードと同様に、社内で通訳や翻訳を行うコミュニケーターチームのサポートを得た。

 募集の結果、アメリカ、南米、オセアニア、ヨーロッパ、アジアなど多様な地域から応募があった。日本語話者の採用と比較して数十倍の応募数となった。平野氏は業務と並行して採用の活動もやっていたため多忙を極めたというが「予想外の嬉しい悲鳴でした」と振り返る。

 英語話者の採用活動が1年を経過し、開始前に9人だったチームは24人に増えた。一部のメンバーは日本への移住も果たしている。外国籍メンバーは日本国籍メンバーよりも多く1.5倍の比率になった。

メンバの国籍も増え、より多様なチーム編成となった
メンバーの国籍も増え、より多様なチーム編成となった

 採用は順調に進んでいるが、採用だけではなく、実際のチーム運営も課題となった。平野氏は、これまでの経験から、英語によるコミュニケーション、タイムゾーンの違いを意識した働き方、そして異なる文化の理解といった点で新たな発見があったとした。

 「英語のコミュニケーションはやはり難しいです。通訳を行うコミュニケーターチームのリソースは限られていますので、必要な場面のみの参加となっています。そんな状況のなか、テクノロジーの活用が進んでいます。ミーティングではリスニング能力を補うために自動の音声文字起こしや翻訳機能を利用しています。テキストベースのコミュニケーションは翻訳や文章構成のためのツールを活用できるため、口頭と比べて困ることは少ないです」(平野氏)

 平野氏は、時差や異文化を理解することの重要さを実感した。日本の間接的なコミュニケーションや「空気を読む」文化は、日本人にとっては自然でも、外国籍のメンバーには伝わりにくいこともある。このため、明確な指示やコミュニケーションの重要性を再認識した。また、日本のアニメやゲームは世界的に人気があり、文化を越えて受け入れられている。1on1などで、アメリカのメンバーから日本のアニメや芸能についての話題が出ることもあり、日本のエンターテインメントの影響力を実感したという。

 サイボウズでは、こうした活動を支援するべく外国語学習の費用や時間をサポートする制度が導入されている。業務での必要性に応じてサポート内容が異なり、例えば、英語業務に従事する者には学習費用が全額会社から支給される。また、業務として外国語の使用は必須ではないが、個人的に英語を学びたい者や、日本に移住して日本語を学んでいる者には、費用が半額補助される。チームの状況や業務内容にもよるが、業務時間中に言語学習を行うことも認められている。

 平野氏は最後に「グローバルで活躍したいエンジニアを募集しています。世界中で使われる製品を開発したいグローバルチームに興味がある、英語を使って仕事がしたいという方は、お声がけいただけるとうれしいです。採用サイトもぜひチェックしてください」とアピールした。

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提供:サイボウズ株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://codezine.jp/article/detail/18365 2023/10/16 12:00

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