難易度の高い挑戦か、インパクトの大きい業務か──外資系で働き続けるための、牛尾氏の選択とは?
牛尾氏は、晴れて外資系企業のプログラマーになった。しかし「外資系企業の場合、組織に入ったことは最初の一歩に過ぎず、試用期間の間に成果が出なければ、契約終了になる可能性がある」と述べ、職を保持し続けるための努力が必要と語った。
この局面でも、観察が役に立ったと牛尾氏は言う。周りには自分よりも優れた能力を持つ生きた教材がいっぱいいる。その人々を観察し、どこが自分と違うのか、なぜあんなに速く仕事ができるのかを観察して、真似れば良いというわけだ。これには前述のクリス氏も賛同する。
加えて、「差別化」も職の維持に役立つ。牛尾氏は、「他の人がやってない価値が出そうなものを探し出して、自分のものできれば差別化につながります」と述べ、これまでのキャリアから、開発と運用を同時並行し生産性を上げる「DevOps」の技術が差別化につながったことを話した。またクリス氏は、『CLR VIA C#』(著:Jeffrey Richter、Microsoft Press)というプログラミング言語C#の内部構造まで記載されている1600ページ近くの書籍を読破したという。これによってC#について深い理解を有し、大きな差別化を果たした。
そして牛尾氏は、職を維持するうえでもう1つ重要な要素として「何をやらないか」を考えることを挙げた。過去に牛尾氏は、「やらなかった」ことで大きな成果を達成できた経験がある。それは、プラットフォームの性能向上を目指す業務と、もう1つ、既存機能をゼロから作り直す業務の2つを同時に期待されたときだ。プログラマー目線で見ると、ゼロから機能を作り直す後者の方が、難易度が高く挑戦のしがいがあった。一方前者のプラットフォームに関する業務は、プログラミングの難易度ではより容易と思われた。
この時、牛尾氏には両方に対応する道もあったが、クリス氏から「プラットフォームの業務に集中すべき」と助言されたという。そこで面白そうな機能の作り直しを断り、プラットフォームの性能向上に集中した。その結果、性能が何十倍にもなるインパクトある成果を生み、上司にも評価された。
牛尾氏は「クリスは、『両方やったらすごく忙しくなる。だから、業務的にインパクトが大きいほうを優先すべき』とすすめてくれたのです。おかげでプラットフォームの改善に集中できて、三流でもインパクトある成果が出せました」と述べ、業務として重要性の高い方を選択する大切さを力説した。そして優先度の低い業務を「やらない」という判断は、自らの生産性向上に不可欠であると述べた。
トライは成功のカギ──牛尾氏を後押しした、トップ日本人エンジニアの言葉とは?
最後に、牛尾氏はAzureサービス開発のトップグループに在籍する唯一の日本人、河野通宗氏の言葉を紹介した。河野氏の地位はとても高く、周囲からの羨望の声は多い。すると河野氏は、「皆さんもテストを受ければ、この地位は手に入る」とアドバイスしていた。
「英語力がないから」「実力が足りない」などと理由をつけて受験をしない人が多かったが、牛尾氏はこのテストを受験し見事合格する。当時は、新卒者を効果的に指導できるエンジニアが求められており、エバンジェリストとしての経験と、技術をうまく伝達する能力が評価されたのだ。
牛尾氏は、「でも、私よりも優れた技術力を持つ人は、受かっていません。なぜかというと、テストを受けなかったからです。河野さんの一言は本当だと思いました。トライしないと何も起きません。皆さんもぜひ、一歩を踏み出しましょう」とコメントし、セッションを結んだ。