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キーパーソンインタビュー

ブロックチェーン技術でやりがい搾取をなくす! 贈与経済2.0の社会実装に挑むエンジニアのリアル

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「幻滅期」から「啓発期」に入ったブロックチェーンの現在地

──ブロックチェーンは一時期に比べると話題に上ることが減ってきました。改めてブロックチェーンとはどんな技術か教えてください。

古賀:ブロックチェーンは分散型台帳でトランザクションを管理する技術の総称です。

 データベースとの違いは、クライアントサーバーモデルではなく、Peer to Peerでの通信により、前の取引履歴を含めてハッシュ化することで、データのつながりを実装できることです。これにより、一つ一つのデータの前後関係が正確な時刻情報を含め把握できるようになります。

 最大の特徴は、全てのトランザクションが公開される前提で技術が設計されていること。そのため改ざんが非常に困難で、所有権も明確です。

荒谷:ブロックチェーンは全てがパブリックに検証可能な仕組みとして使えるところが、魅力的だと思います。

小野田:特定の個人やAmazonやGoogle、Microsoftなどの特定の法人、あるいは国に依存しないのもブロックチェーンの良さです。

 一方、パブリックブロックチェーンに対してデータを書き込んだり、取り出したりする処理には、速度的な課題も抱えています。そこで昨今の流れとしては、完全にブロックチェーン上だけで全てのデータを保持するではなくて、ブロックチェーン上に保持するデータとブロックチェーンではない一般の普通のデータベースなどに書き込むなど、オフチェーンとオンチェーンをミックスさせた技術で処理速度の問題を解決することがトレンドとなっています。そのためのさまざまなプロトコルやフレームワークが登場していますからね。

──テクノロジーハイプサイクルでは「幻滅期」から「啓発期」に近付いていましたが、新しい動きがあるのですね。

小野田:2018年当時はブロックチェーンというバズワードが一人歩きしており、ブロックチェーンで何ができるのかということが話題の中心で、分散型にすることで何が嬉しいのか、そこについてはまだ解が得られていませんでした。

 22年ぐらいから、ようやくブロックチェーンであることの必然性が求められる領域で、ビジネスが少しずつ立ち上がり始めたのです。例えば、CO2の排出量の証明にブロックチェーンを使ったり、職務経歴や履歴、資格などの情報を証明するサービスも登場しています。

OSSプロジェクトとは少し違う、社会実装の実態

──ハートランドのような社会実装を目的としたプロジェクトと、一般的なシステム開発プロジェクトの進め方において、違いはありますか。

小野田:私と古賀さんはお金をもらわない形でのプロジェクトにコミットしていますが、そういう関わり方の人だけでは、システムやサービスを作るのには限界がある。そこでハートランドでは、対価を払ってシステムを作ってもらっている部分もあります。このように異なる立場の人たちがこのプロジェクトに参画しているのです。

 自分たちでやらなければならない部分とそうではない部分を、シーンに合わせて分けて考えながら進めていくところに違いがあると言えるでしょう。

荒谷:実は、ハートランドは22年4月よりトヨタ財団から助成金をいただくことになりました。そのお金を使って、一部の機能をアウトソーシングして実装してもらうこともしています。つまりこのプロジェクト自体が贈与ベースの経済の枠組みと、お金を支払う経済の枠組みの両輪で回っているのです。

──ハートランドにおいて、具体的な開発の進め方について教えてください。

小野田:大枠のロードマップやマイルストーンを、荒谷先生を中心に3人で決めます。まずマイルストーンに向け、どのタイミングでどういうものができていなければいけないのかについて話し合います。そしてこれを基に、自分たちが担当するスコープと、アウトソースするスコープに分けます。アウトソースするスコープは、コストや期間が決まっているので、Notionを使って進捗管理しています。

Notionで進捗を管理
Notionで進捗を管理

古賀:自分たちが開発するスコープは、オープンソースプロジェクトの開発の流れに近いと思います。オープンソースプロジェクトではバグ修正しても、特に対価は発生しません。こういうのがあったほうがいいよねという意見があれば、じゃあ、私作りますみたいな形で開発が進んでいきますよね。ハートランドでの開発もこのような流れで進めています。

小野田:そうですね。ちゃんと管理している部分と、フリーハンドでやる部分を分けながら進めているイメージです。

荒谷:フリーハンドと言いましたが、実はタスクは一般的なシステム開発と同じように、依存関係などを考えて、細かく管理しています。ただ、企業のようにきっちりエンジニアの時間を管理しているというわけではないということです。

──プロジェクトに参加しているエンジニアは、本業を持っている人たちです。開発生産性についてはどのように担保するのでしょう。

古賀:本業が別にあり、時間を作って開発していくことになるので、いかに管理工数をかけないで管理できるようにしていくかに注力しました。具体的にはNotionを使ってある程度のスケジュールを引き、状況の共有と課題の早期発見ができるように心がけました。

小野田:古賀さんがおっしゃったように私たちはNotionでタスクや進捗管理をしています。アウトソースの開発チームとはエンジニアと個別に連絡がとれるよう、Discodeにチャンネルを用意。そのほか、週一で進捗会議を行っています。

──オープンソースプロジェクトに近い開発体制という話がありましたが、OSSコミッターの中にはやりがい搾取的な感覚を抱く人もいます。そのあたりについてどのような配慮や対応をしているのでしょう。

古賀:手を挙げていただける方は結構いらっしゃるのですが、やりがい搾取的な問題というより、それぞれプロジェクトに対する熱量は異なるところが課題だと感じています。異なる熱量の方に対して方向性を提示しながら、プロジェクト全体でアウトプットを出していく。ここはかなり難しいことだと思いました。

荒谷:このプロジェクト自体が贈与経済の実装プロジェクトだと話しました。このプロジェクトがうまく回れば、コミットしてくれた人にインセンティブが発生する仕組みも実現しようと考えています。そういう仕組みができれば、やりがい搾取的な課題は改善できると思います。

──社会実装というからには、老若男女が使える必要があると思います。いくら良いプロダクトができたとしても、ユーザーからフィードバックをもらう仕組みが欠かせないと思うのですが。

荒谷:具体的には東京・高円寺と石川県白峰地域で実証実験を進めています。高円寺は元々、私とのつながりがありました。一方の白峰地域では金沢工業大学の先生や学生たちが中心になって、社会実装に取り組んでいます。

小野田:私たちもユーザーに「いいね」と思ってもらえるようなシステムになるよう、精一杯取り組んでいます。

──他に開発観点での課題があれば教えてください。

古賀:Web3.0やブロックチェーンが話題に上ることは減っていますが、裏側ではかなりの勢いでライブラリのアップデートが行われています。私たちが開発するアプリケーションもそれに追随し、品質を担保する必要があります。プロジェクトに参画している人の中には、Web3.0のリサーチャーを務めている人もいますが、たくさんいるわけではありません。そこでdiscodeのコミュニティに参加して、常に新しい情報を収集しなければならないという難しさがあります。

荒谷:非常に速いスピードで進化している技術領域なので、それを追っているだけでも仕事になる可能性があります。

技術を追求しながら異なるバックボーンの人々とつながれる面白さ

──なるほど。社会実装プロジェクトは最新技術との組み合わせが多いので、参画するだけでもスキルアップにつながると。

古賀:技術を追求する面白さだけではありません。例えば今開発しているアプリケーションは、Web3ウォレット「MetaMask」を使っています。ITに詳しくない人にとっては、MetaMaskをインストールすることが最初のハードルとなります。いかに幅広い人に抵抗なく使ってもらえるかについても考えていく必要がある。ユーザーインタフェースをいかに使いやすく設計するかというところまで考えられるのも面白さだと思います。

 もう一つは異なるバックボーン、異なる思いを持つ人たちと話ができることも、社会実装プロジェクトに携わる魅力だと思います。

荒谷:例えば白峰地区では年配者が使うことになるので、同地区ではうまく実装できるよう金沢工業大学の先生と学生が張り付いて、高齢者に使い方や操作方法を教えています。立場の異なるさまざまな人と出会い、つながることができる。それをメリットとして捉えていただければ嬉しいですね。

──最後にエンジニアへのメッセージをお願いします。

荒谷:Web3.0の業界自体が伸びてくれるフェーズになります。社会実装に興味のある方はぜひ、参加してくれると嬉しいです。

小野田:やりたいこととやれることは乖離があって問題ないと思います。ハートランドのような社会実装プロジェクトは母数も少なく、技術的にもまだまだニッチなweb3.0だったり、マネタイズは難しい領域だったりします。自分に何ができるかはそれほど重要ではなく、そのプロジェクトに自分が関わりたいかが重要で、関わってみてからやれることを見つけていくあるいは身に付けていくというアプローチができるとエンジニアとしての幅も広がっていくと思います。

古賀:Web3.0やブロックチェーンは、社会を変えるゲームチェンジャーになる可能性があります。ハートランドでは開発を通じてそれらの技術を習得し、いろんな人と関係を築いていくことができます。できる範囲で参加する。そういう形でも社会貢献ができます。ブロックチェーンやWeb3.0の技術はまだアーキテクチャとして完成していません。どう変化し、完成していくか。それを追っていけるのは開発者として非常に面白いし、今後の経験にも役立つと思います。関心のある方はぜひ、ハートランドをチェックしてみてください。

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この記事の著者

中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

 大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

 2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/18951 2024/02/20 11:00

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