生成AIは成果を求められるフェーズへ
生成AIが普及期に入るということは、導入して良しとするだけでなく、具体的な成果が求められることを意味する。それも数%の貢献ではなく、数十%、あるいは10倍売上が増えるなど、圧倒的な成果を出さねば、導入コストには見合わないと、石川氏は指摘した。そこで差別化要因になるのは、技術力だ。例えば、企業内LLMにおける、RAGとファインチューニングの適切な使い分けと運用には、技術的な深堀りが欠かせない。
それを受け、南里氏は、生成AIで成果を出すには、さまざまな企業が参考にできるオープンな事例を、もっと増やす必要があると訴えた。続けて、特に技術トレンドの移り変わりが激しい生成AIという領域では、より頻繁に基礎研究との接点を増やし、多くの企業を巻き込んだ技術交流を通して事実に基づく客観的な知見を蓄積することが重要であると語った。
これらの議論を受け蜂須賀氏は、「生成AIの試用、日常業務への活用、そしてRAGやファインチューニングといった高度な技術への挑戦など、自社がどの段階にあるかを見極め、それぞれに応じた施策や次の投資判断を行うべきだ」と総括した。
生成AIの新たな展望
蜂須賀氏からの「注目している他の生成AIへの取り組み」という問い掛けに対し、松本氏は2つの分野を挙げた。1つ目は日本語LLMだ。LLMを0から開発して海外に追いつくには、天文学的費用が必要となる。一方既存のLLMであるLlama 2を元に、追加学習で日本語モデルを開発するアプローチならスタートアップでもLLMの領域で十分戦える。
2つ目はiPaaSとAIの組み合わせによる業務自動化の推進だ。例えば、大量の社内問い合わせに適切なタイトルをつけて整理したい場合、LLMにタイトルを自動生成させて、ZapierなどiPaaSで連携して、Notionにデータを蓄積する、といったユースケースが可能になる。開発することなく、業務効率化や生成AIサービスのアイディアを手軽にテストできるので、さまざまな会社で応用できるアプローチだと松本氏は指摘した。その延長線上には、現状よりもファジーな指示に対応できる、進化したRPAも見えてくる。
一方、南里氏と石川氏は、ロボットなどのエッジデバイスにおけるLLM活用に期待を寄せた。言語空間における高度な推論を可能にするLLMの登場以前は、ルールベースで行動するロボットAIが多く、柔軟な動作が困難であった。しかしLLMを搭載することで、状況に応じた動作の変更や調整が可能になるという。例えば「この物体が近づいてきたから避けよう」「柔らかい物体をやさしく掴もう」といった柔軟な動作が可能になるかもしれない。
しかし、さまざまなデバイスにLLMを搭載するには軽量化が必要だ。ここで南里氏は、認知ロボット研究の内容を引用しながら、既存のLLMや機械学習のアプローチは大量データに依存しており、軽量化の障害となっていると指摘した。人間が動作を学ぶ際は、触ってフィードバックを得ることを繰り返して、少しずつ動作をチューニングしていく。しかし、大規模なパラメータ数で演算量を必要とするLLMのようなモデルは大量のデータを学習する必要がある。これは状況判断を伴う柔軟な動作の学習という観点では、非効率なアプローチだ。「LLMがエッジ上で高精度な推論を行うための軽量化は、この1~2年では難しいかもしれず、5~10年くらいのタイムスパンになってしまう可能性がある。ただ、機械学習と異なるアプローチを組み合わせることでこの領域も飛躍的に進むかもしれない」と、南里氏は期待を語った。