海外と日本のソフトウェアテストの現状
アメリカに住み、20年間アメリカのソフトウェア開発現場を見続けてきた川口氏は、「故郷に錦を飾りたい」という思いから、日本でもJenkinsやDevOps、ソフトウェアテストのような取り組みを進めていきたいと考えている。しかし、取り組みの中でいろいろな難しさを感じ、日本と海外のソフトウェア開発がどのように違うのかに関心を抱いた。
「アメリカ連邦政府の官公庁系はさまざまなシステムを展開しているが、ソフトウェア開発者は給料が高すぎて雇えない。そのため、案件をSIer企業に出すということをしている。つまり、アメリカでも一部の産業では、日本のSIer構造とよく似た形になっている」と川口氏は話す。
また川口氏によると、ヨーロッパでは製造業や金融が盛んだが、多くのチームではテストをインドのSIer企業へ投げているという。インドにはテストで世界を席巻するような巨大なSIer企業が多く存在し、契約構造上は日本のSIer企業と同じく下請けのような形になっているようだ。
「それでも日本と違うのは、たとえテストチームがインドにあっても、社内で働いている人の視点ではあまり区別されていないこと。スキルのある人に対して、準委任契約のような形で時間をまるごと買い切っている感じ」。
一方、「日本でもソフトウェアを内製化する企業がじわじわと増えている」と語るのは和田氏だ。自社で自動テストを行い、ソフトウェアを継続的に保守していくことに注目する会社は増えてきており、傾向としては海外テック企業に似てきていると話す。
「ただ、そういったスキルを持った人が社内に基本あまりいないので、外を頼ろうという形になる。その契約の際に準委任契約か、それとも受発注の関係になるのかによって、うまくいくか、いかないかが変わってくる」と和田氏。
海外と日本における業界構造の違いは「タレントプールが関係しているのではないか」と近澤氏は考える。特にインドのタレントプールの勢いはすさまじく、QA(品質保証)の数が圧倒的に多いというのだ。「英語圏だと、お金があればインドのタレントを容易に採用できる。でも日本には日本語という言語のバリアがあり、なかなかインドのエンジニアを採用できない。これが開発のプロセスに与える影響は大きい」と近澤氏は話す。
ただ、テストチームがインドにあるという海外事例は、良いことばかりでもないようだ。物理的に離れているため、どうしても距離感が生まれてしまう。「よく、『テストは開発プロセスにもっと融合して組み込まれるべき』という理想論が語られるが、実態は旧態依然そのもの」と川口氏。
テストはテストのチームに分かれ、インドのタイムゾーンで働き、開発は別のグループで働いている。実質的に時差の壁、開発とQA間の壁は今なお存在しており、縮図としては日本とあまり変わらないところも多いようだ。