不安の共有をシステム化したNCDCでの取り組み
それでは具体的に「不安」をどのようにして共有していけばいいのか。NCDCでは、当時30人のメンバーが5〜10のプロジェクトに同時並行で関わり、週次で朝礼を行っていた。まず朝礼で、プロジェクトへの不安を5段階で評価するアンケートをとり、その場で気になるものがあれば当人に確認し、対応が必要と判断されれば、その場で実施を決定していた。
「その場で」実施していたのは、スピードを重視したからだという。アンケートを投げっぱなしにするとなかなか回答が返ってこず、結果を見て再びヒアリングする必要が生じることがある。また、各プロジェクトごとに情報が閉じる傾向があったため、社内で取りこぼしがないよう、あえて全社朝礼で実施した。
ここで注意が必要なのは、「人事目的ではない」ということの周知だ。あくまでプロジェクトを改善することが目的であり、回答の結果などでメンバーを評価しないことを徹底させた。そうすることでネガティブな内容もアンケートに書けるようになったという。
この結果、「気がつかなかったリスク」を見つけられるようになり、例えば「スケジュールの不安」を感じている人が共有することでスケジュールを調整したり、「負担が大きいメンバー」を見つけてフォローしたり、いくつか改善もかなった。そして、もう一つのメリットとして、間接的ながら、不安を共有するという経験を得られたことは大きかった。自分が抱えている不安と似た不安を他の人も抱えていると感じることは、いい経験になったという。
一方で次のような問題点が見つかり、それらを改善する方法について試行錯誤がなされた。
問題1:関与する人数が増えて対人リスクも増え、全体の前では話しにくくい
回答結果を全体で確認せず、マネージャーが一次チェックをし、不明点をメンバーに確認するようにした。その上で、リスクを評価・状況をまとめるという手順をとった。
問題2:「どうして不安に感じるのか」という質問自体に圧力を感じる人も
漠然とした不安について、正確に理由や根拠を答えるのは難しい。そこで、理由を尋ねるのではなく、「何があったのか」という事実だけを聞くようにした。
問題3:会社の規模が拡大し、限られた時間で詳細を詰めるのではスケールが難しい。
プロジェクトごとに行うようになり、スケールできるようになった。個別では回答率が下がることが懸念されたが、もともとアンケート文化が定着しており、現段階では問題にはなっていない。
こうしたことを踏まえて、プロジェクトごとに5段階評価とコメントで、不安を共有してもらうことを目的にアンケートを取り、回答をもとに本人とマネージャーがコミュニケーションをとってリスクを把握し、さらにその内容をレポートなどにまとめて経営陣やステークホルダーにも共有するようにしている。なお、プロジェクト間で不安を共有するために、情報をオープンにし、「不安を感じること、共有することは悪いことではない」という文化を定着させつつある。
こうした施策を実施した感想として、武方氏は「まず第一歩として、プロセスを導入することは効果的と感じた。ただ、そのまま仕組みを導入するのではなく、組織に合わせて適用する必要がある。そして導入するだけでなく継続的な改善をしなければならない」と述べた。
そして、改めて「不安が炎上のサインであり、不安を伝えることで炎上を減らせる。そのためには不安を伝えやすくすることが重要であり、心理的安全性を育み、話しやすい仕組みを導入することが大切。そのうえで組織に合わせたフィードバックをしながら、継続的に改善をする必要がある」と強調した。
なお、こうした「不安を共有するシステム」について、NCDCでは「メンバーの本音を見られることでプロジェクトの炎上を予防する」というコンセプトのもと、「PJ Insight」を開発・提供している。武方氏は「まずは第一歩としてツールを使うのも一助。ぜひ活用してみて欲しい」と語り、セッションを終えた。
メンバーの本音を可視化することでPJの炎上を予防する
PJ Insightは従来型のプロジェクト管理手法では把握が難しかった「プロジェクトメンバーの本音や不安」を定期的に収集して、PMやPMOが現場の状況を把握しやすいように可視化します。PJに潜むリスクの早期察知に課題を感じられている方は、ぜひPJ Insight(公式サイト)をお試し下さい。無料トライアルも実施中です。