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Developers X Summit 2024 セッションレポート

大企業を芯からアジャイルに──20年以上アジャイル実践してきた市谷氏が語る変革への道

【Session8】日本の組織を芯からアジャイルにする

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「中間的生成的な場」の必要性

 組織変革はどの方法を採っても困難を伴うが、市谷氏がたどり着いた一つの答えが「中間的生成的な場」を作ることだ。この概念は、階層型組織とも現場任せとも異なる柔軟な形を目指している。現場を支援する体制を整えつつ、必要に応じたルールや仕組みを構築していくという考え方だ。

 「中間的生成的な場」では、各チームの代表や専門スタッフ、技術的なメンバーが集まり、共同体として連携する仕組みを取る。階層型組織のように分断せず、各チームが自律的に運営されつつも、全体を俯瞰できる横断的な視点を持つ場を作り出す。これにより、必要な権限をチームに委ねつつ、組織全体が適応力を高めることが可能になる。

階層構造からは独立しながらも、現場を支援する体制を保つ。協働が求められる場で柔軟に形成される
階層構造からは独立しながらも、現場を支援する体制を保つ。協働が求められる場で柔軟に形成される

 市谷氏は、この場を構築する際に最小限のルールと構造を重視し、既存の仕組みを基点に次の一歩を作ることが重要だと語る。新しいフレームワークをゼロから導入するのではなく、現状を踏まえた進化を意識することが大切だと指摘する。

 中間的生成的組織の具体例として市谷氏は、「PdMO(プロダクトマネジメントオフィス)」を挙げた。PdMOは各テーマと最小限の状況共有を行い、最大限の相互支援を実現することを目的としている。この組織は、課題解決と学びの促進を支える6つの機能を備えている。

 まず、「状況同期と検査適応」では、各テーマの課題やリスクを検出し、対応策を検討し実行する。「ノウハウ共有と整備」では、各テーマから得た学びを全体で共有し、不足する知識を補完する役割を担う。「戦略と実行の整合」では、現場の実践を戦略に反映し、戦略と実行の整合性を保つようにする。

 さらに、「メンバーやチームの(再)学習」では、新メンバーへの基礎知識の学習支援や追加支援を行う。「支援者マネジメント」では、専門メンバーが目的や優先事項を理解できるようにサポートする。そして、「新テーマの生成」では、既存テーマを俯瞰し、新たなテーマを作り出すことで、組織全体の成長を促進することを目指している。

 市谷氏は「PdMOは消防署のようなイメージだと思ってください。いきなり大きなビルを建てるようなものではなく、普段から状況を観察し、どこかで問題が起きていないかを見守る役割です。火事のような大きな問題が発生したら、間接的または直接的に介入し、そのチームを支援するという形です」と説明した。

 組織の問題は複雑で、単一の手法で解決するのは難しい。そこで市谷氏は、中間的生成的組織をスモールスタートの出発点として提案した。この仕組みは、現在の組織を基盤としつつ、柔軟に次のステップを模索するための土台となる。多くの人が組織変革を自分には遠い話だと感じる中、市谷氏は「手がかりは自分たちの手元にある」と語る。これまで現場で積み重ねてきた振り返りや仮説検証といったアジャイルの実践には、組織変革に向けた重要な価値が含まれている。それをどのように広げ、次の変化に活かしていくかが求められているのだ。

アジャイル開発の営みは、変化に対応するヒントとなる
アジャイル開発の営みは、変化に対応するヒントとなる

 市谷氏は最後に「組織を変えるとは、どこかの偉い人や、人前で立派なことを話す特別な人だけの仕事だと思われがちです。しかし、それは誤解です。実際には、自分たちがこれまで手元で積み重ねてきた日々の取り組みの中に、組織変革に必要な大切な要素が含まれています。その取り組みをどのように広げ、次のステップへつなげていくかが求められているのです。だからこそ、私たち一人ひとりがその役割を担うべきだと信じています」とコメントした。

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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山出 高士(ヤマデ タカシ)

雑誌や広告写真で活動。東京書籍刊「くらべるシリーズ」でも写真を担当。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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