計画的偶発性理論が鍵──好奇心、継続性、柔軟性、楽観主義、リスクを恐れない
続いて古川氏は「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を紹介した。これはアメリカの心理学者であり、キャリア・カウンセリングの分野で有名なジョン・ダウニング氏が提唱した理論だ。偶然のできごとをキャリア選択で積極的に活用することの重要性を説いている。
古川氏は「要は、キャリアの8割は運(偶然のできごと)だが、その運を待つのではなく、計画して来るように仕向けようという理論」と説明する。この理論によると次に挙げる5つの特性がポイントとなる。
好奇心(Curiosity)
好奇心には深さと幅がある。フロントエンドが好きなら、フロントエンドを深掘りして深めていく。一方で、いろんなことに興味を持つことでアンテナの幅を広げていくイメージだ。「フロントエンドが好きだからといって、それだけだと偶発性を起こすきっかけが少なくなるので幅を広げること、そして同時に深さを持つことも大事」と古川氏は説明する。
古川氏の場合、キャリアのスタートはバックエンドからだった。インデックスをはることでパフォーマンス改善するなどしていたが、フロントエンドのパフォーマンスチューニングしたら顧客に握手を求められるくらい喜ばれたことがあった。その時に「ユーザーはフロントエンドもバックエンドも両方早くならないと喜ばないのだと気づいた。だからフロントエンドもできるようにキャリアの幅を広げよう」と転換点になった。
継続性(Persistence)
「継続は力なり」とよく言われる。やり始めるモチベーションは好奇心が原動力になるが、やり続ける習慣や継続性は「テクニックである」と古川氏は説く。可能なところからスタートして、無理のない目標を立てるのがポイントだ。
古川氏は「習慣化の話はいろんな本にある。自分の場合、エンジニアとしてキャリア開発を始めたのが遅かったので焦っていた。だから毎週、何かブログを書く。半年に1回は勉強会で話す。1年に1回はアプリケーションを作る。こうしたことを根気強く続けていた」と話す。ちなみにブログの最初の投稿は「MacBook Airを買いました」だったそうだ。
柔軟性(Flexibility)
正解を1つだと決めつけないこと。環境や状況により、正解は変わる。自由に考える思考の柔軟性を持つことが大事だ。古川氏は「例えば『できない』と決めつけるのではなく、前提を変えてみる。朝令暮改、前言撤回を忌避するのではなく(間違いに気づいたら)『ごめん、間違えていた!』と言える強さを持つ」と言う。
古川氏の場合、勉強会や会社で多くの人に会い、多様な視点に出会うことができた。エキスパートとマネージャーは二者択一ではなく、両方諦めないことも実践してきた。今ではエンジニアもしつつ室長という形で経営にも携わっている。
楽観主義(Optimism)
コップに半分水が入っていて「半分もある」と思うか、「半分しかない」と思うか。ブログの間違いをコメントで指摘されて「バカにされた」とカッとするか、「間違いに気づくことができてラッキー」と喜ぶか。後者の楽観的に受けとめるほうが「間違いなく伸びる」と古川氏は言う。
楽観主義でないと成し得ないこともある。古川氏ならJSConf JPなどのイベントも主催しており、当初は「準備が間に合わなかったらどうしよう」と恐れていた時もあったが、今では恐れなくなったそうだ。むしろ「絶対にやったら楽しくなるだろう」と成功を確信している。もちろん失敗することもあるが「次に直せばいい」という気持ちで過ごすそうだ。「失敗してもいい。そんなに悪いことは起きない」(古川氏)
リスクを恐れない(Risk Taking)
結果が不確実な時にアクションがとれるか。確実に安心だと分かるまで静観したい気持ちもあるが、リスクをとらなくてはいけない時もある。古川氏の場合「Node.jsユーザーグループ代表になった時が最も怖かった」そうだ。イベントを毎回開催できるか、海外のスピーカーをどう招けばいいのかと不安は尽きなかった。しかし「やってみたら意外とできた」と言う。
最後に古川氏は「一番伝えたかったのは、意外とやってみるとできるということです。好奇心、継続性、柔軟性、楽観主義、リスクを恐れないという5つのポイントをお伝えしました。ぜひやってみてください。我々の具体的な経験や考えが皆さんの一助になれば幸いです」と会場の聴衆にエールを送り、講演を締めくくった。