BTCのチームで不確実性の高い事業開発に立ち向かう
Sun Asteriskは、「誰もが価値創造に夢中になれる世界」というビジョンを掲げて、プロダクト開発や事業共創の支援を行うデジタル・クリエイティブスタジオだ。
支援の範囲は事業アイデアの段階からDevOpsまで多岐にわたり、0から100までクライアントの事業に伴走するのが同社の特徴だ。クライアントの種類はスタートアップからエンタープライズまで多様である。
Sun Asteriskには2000名の社員が所属しており、ベトナム拠点にエンジニアを中心に1500名ほどの社員が在籍している。
同社が事業開発において大事にしている考え方として「異能の掛け合わせ」がある。斎藤氏はまず、この考え方についてひも解いた。

斎藤氏は「ビジネス・テクノロジー・クリエイティブのそれぞれの領域のメンバーがチームを組むことで、新規事業の立ち上げの際の不確実性を下げることができる」と話す。そのチームを作るときに重要なのが「誰とチームを組むか」「どう分かりあい活かしあうか」というポイントだ。
「ビジョンは同じだけれど、スキルが異能な仲間たち。特にビジネス、テック、クリエイティブ(BTC)で補完的な仲間であること。そして事業の立ち上げには少人数で、フルコミットできるような規模であることも大事です。また、異なる脳を持ったメンバーなので完璧に分かりあうことは難しいものの、その中でも互いの背景を理解し、リベラルアーツを身に着けること。共通言語・目標となるバウンダリーオブジェクトを持つことが重要です」
BTCの役割分担は、「テックが新しい価値を作り、クリエイティブがそれを顧客に有用な形にして、ビジネスは最大限・持続的にそれを顧客に届ける」という棲み分けだと斎藤氏は言う。同社はこういった「異能の掛け合わせ」によってクライアントの新規事業拡大を支援している。

コード生成だけじゃない! 要求・要件定義からテストまでAIで効率化!
昨今は開発プロセスの多くの部分にAIが活用されている。そんな中Sun Asteriskでは、開発作業だけでなくアイデア創出支援やプロトタイプ開発のフェーズでもAI活用が進んでいるという。
斎藤氏は、「アイデア創出支援」「プロトタイピング」「開発プロセス改善」「社内業務支援」の4つのプロセスにおいて、どのようにAIを活用しているのか解説した。
1.アイデア創出支援ツール「AI*deation」
「AI*deation」は、Sun Asteriskが提供するアイデア創出支援ツール。新規事業のビジネスデザインにおけるアイデア出しにAIを活用する仕組みだ。
新規事業においては、多くのアイデアを発散させて、それらを評価・選定するプロセスを繰り返すことが重要である。この発散のフェーズで、ChatGPTなどの生成AIを使うことで、人間だけでは1日に10個程度しか考えられなかったアイデアを、500個程度まで増やすことができるだろう。
大量のアイデアを出してリスト化した後は、その精度を評価する必要がある。この評価もAIに手伝ってもらい、最終的に磨き上げる作業は人が行う。AIによる一次評価では、課題性や市場性といった観点で点数をつけ、総合点の高い順にソートし、アイデアをブラッシュアップしていく。その後、「Value Design Syntax®」という同社の独自メソッドを使って、アイデアを具体化していくのだ。

「大量のアイデアを出し、点数をつけて評価し、Value Design Syntax®に書き出す」というプロセスはすべてAI*deationで自動化されている。「生成AIを活用することで、より多くのアイデアを短時間で生み出し、不確実性を下げながら事業開発を進めることが可能になっている」と斎藤氏は語る。
2.プロトタイピングにおけるAIの活用
プロトタイピングにおいては、AIの活用が組み込まれた「HEART Development Flow」というサービスを提供している。
先述のValue Design Syntax®をもとに、生成AIを使って要求定義から要件定義まで行い、こちらも生成AIを用いてアプリケーションコードを生成。それをUI/UXレビューでブラッシュアップしていくといったフローだ。
Value Design Syntax®の段階でアイデアが具体化されているので、「そこから要求定義書および要件定義書を書き出すのは簡単」だと斎藤氏は言う。出力された要件定義書から、CURSORなどのAIコードエディターを使ってコードを生成し、デプロイする。
その次のステップであるUI/UXのレビューは、「自動化の過渡期にあり、まだ難しい部分もある」と斎藤氏。現在はデザイナーがGitHub上でフィードバックしたものをエンジニアがAIに指示する形で行っていると説明した。
3.開発プロセス改善のための「Figma Plugin」と「DevOps」
開発プロセス改善においては、デザインと開発の間のやり取りをスムーズにするため、AIを組み込んだFigmaのPluginをSun Asteriskが独自に開発しているという。
従来の画面設計書は、デザイナーがFigmaで書いたデザインをエクセルに貼り、振る舞いやバリデーションを再現していた。しかしこのやり方ではデザイン変更の度に貼り直しが必要になり、煩雑だった。そこでFigma上でデザインから画面設計まで完了できるように、プラグインツールを開発しているのだという。
デザイナーがFigma上でデザインが完了したら「開発モード」に切り替え、バリデーションやボタンのアクションといった詳細設計を入力できる。多言語対応の機能も備えていて、言語を切り替えたときの表示の変化も確認可能だ。

ここまで画面設計ができたら、テストケースもAIが自動で作成してくれる。独自のマルチエージェントによって、現在7~8割程度のテストケースを網羅しているという。
もう一つ、開発プロセスの改善に関する取り組みとして「DevOps」にも力を入れている。
今までも開発リスクを検知するために、独自のツールを使ってSREに取り組んできた。現在は、プロダクト品質や保守性、拡張性、安定性といった観点でより詳細なデータを取得しモニタリングしている。
できる限り自動的にデータをとることで、開発品質のレベルをチェックできるようにしているのだ。
この取り組みを始めた理由を、斎藤氏は「開発プロセスの少なくない部分に生成AIが入ってきたが、生成AIを活用することによって、品質はどうなったのか。品質が上がっているのか、もっと改善できるのかを把握するためにも、こうしたデータを追うことが大事」と説明した。
4.社内業務支援「AI*Agent Base」
Sun Asteriskは、企業向けに社内業務を支援するAIエージェント「AI*Agent Base」を提供している。これは、Difyをベースに作ったマルチエージェント環境である。
社内に散らばった情報をDify上で参照できるようにしたり、ChatGPTやClaudeといったさまざまなLLMをDify上から扱えるようにしたり、簡単なアプリケーションを作成したりするなど、業務の改善を行うのに役立つ。
このAI*Agent Baseを提供するうえでは「エンジニアではない人もAIマルチエージェントを使ってほしいという意図がある」と斎藤氏は説明した。
実際に営業の現場で活用されている事例があり、AI*Agent Baseによって企業の決算資料を要約して商談の際に参照できるようにしたり、企業のウェブサイトから企業情報を収集したりしているという。
「Value Design Syntax®(バリューデザイン‧シンタックス)」は、Sun*グループの株式会社NEWhの登録商標です。
「トップダウンでやればいい」わけではない、生成AI導入の難しさ
最後に斎藤氏は、Sun AsteriskがどのようにAI活用を推進しているのか、その組織体制について紹介した。
日本とベトナムの2拠点、それぞれに「ストラテジックテック」という組織を持っている。その中にエンジニアリングのエキスパートがいて、技術戦略を考えて落とし込んだり、他の事業部とのアラインを行ったりといった役割を担っている。

また、ストラテジックテックの中にはR&Dが設置されており、先述のFigma Pluginや、開発プロセスのモニタリング自動化もこのR&Dによる取り組みだ。R&Dでは、他にも最新のテクノロジーの調査などを実施し、どのように技術戦略に取り入れていくかを検討している。
「AIを活用した開発プロセスが過渡期である現在、ストラテジックテックの役割はますます重要になっている」と斎藤氏は言う。
特にSun Asteriskのようなクライアント事業では、開発にAIを導入することで見積もりの仕方にも変化が出てくる。AIの活用によって作業工数がどう変わり、見積もりにどう反映すればいいのかといった設計も、ストラテジックテックが模索しているという。
また、斎藤氏はAIを活用した開発について「『トップダウンでAIを活用して』と言っても浸透しない」と指摘。常時100以上のプロジェクトが稼働しているSun Asteriskでも、AI導入の難しさを感じていたという。
そこで、同社では「この案件においては、どのようにAIを活用するのか」をあらかじめ宣言してもらうことにしている。プロジェクトが進行している間は、宣言通りに実行できているか、それによって開発品質がどう変わっているのか先述のDevOpsの仕組みでモニタリングするのだ。
Sun Asteriskではこのような形で生成AIを活用した開発に取り組んでいる。斎藤氏は「事業開発において、あらゆるフェーズで生成AIが活用できるようになっている」と、生成AIの活用可能性を改めて評価した。
「今後は、開発プロセスで生成AIを活用する上で、生成AIとなじむようなデザインシステムを構築できるかが重要だと考えています。今期は開発プロセスの中でも特にデザインの部分に力を入れて、AI活用をさらに進化させていきたいです」