「どう作るか」でのつまずきを防ぐ——優先度付けからデリバリーまでの実践法
高速な仮説検証サイクルを実現するためには、期待価値の高いものから順番に開発していく戦略的なアプローチが不可欠だ。浜田氏は「仮説検証の期待価値と工数を算出して優先度を決めることが重要になってくる」と述べ、具体的な手法としてRICEスコア、ICEスコア、狩野モデル、TAM/SAM/SOMといった優先度算出手法を紹介した。
重要なのは手法の選択よりも、組織内での合意形成だという。どの手法であったとしても、関係者間で優先度の決定プロセスを共有することで、建設的な議論が生まれる。自分たちがどのような基準で優先度を決めているのかが不明確だと、チーム内で曖昧な状態のまま開発が進んでしまったり、『こちらの方が重要ではないか』といった意見の対立が生じてしまう。
優先度決定において工数見積も重要な要素となるが、ソフトウェア開発における工数見積には本質的な困難が伴う。新規性が高く過去の実績を参考にしにくい、技術的な不確実性により実装してみるまで判明しない課題が存在する、開発者のスキルレベルや経験による個人差が大きい、継続的な運用と並行して開発を進めるため予期しない作業が発生する——これらの要因が見積精度を低下させる主要な原因だ。
浜田氏は見積精度を向上させる実践的なアプローチとして2つのポイントを示した。1つはMVP(Minimum Viable Product)を意識してスコープを絞ることだとし、「開発規模が小さくなればなるほど、見積通りに完了する確率が向上していく。これは統計的にも証明されている傾向だ」と説明した。
もう1つは、開発前の見積は変動するものだという前提を関係者全員が共有し、定期的な再見積を行うこと。ただし浜田氏は「エンジニアだけがこの認識を持っていても、他の関係者からは『頻繁に見積を変更する信頼性の低いチーム』と見られてしまう可能性がある。組織全体でこの前提を共有することで、適切なリスク管理と柔軟な対応が可能になる」と注意点を説明した。

さらに浜田氏は「優先度の算出は不確実な要素を多く含む困難な作業だが、事業戦略に与える影響は極めて大きい。この困難さを克服することで、開発組織の競争力を大幅に高める武器となり得る」と優先度算出精度向上の戦略的重要性を強調した。
優先度決定後の課題は素早いデリバリーの実現だ。浜田氏が重視するのは「優先度が高いものに取り組めているか」の確認である。開発現場では「最優先項目が進捗せず、2番目、3番目の優先度のタスクばかりが進行している状況が起こり得る」という問題が頻発するためだ。
Findy Team+では、アウトカムごとの進捗率を一覧表示し、優先度通りの開発進行を定量的に把握する機能を提供している。
デリバリー速度向上には「フロー効率の最大化」が有効だと浜田氏は説明する。優先度の高い項目に多くの人員をアサインすることで最速完了を目指し、仮説検証サイクルを加速させる考え方だ。ただし一つの開発に無制限に人員をアサインしても無限に速くなるわけではないため、適切な配分で複数ラインの同時進行が効果的だとした。
デリバリー能力の定量的把握について浜田氏は「DORA Core Model」を紹介した。これは、組織がより効果的にソフトウェアを開発・提供するための指標として世界的に広まっている評価フレームワークだ。
同モデルは大きく3つの要素で構成されている。まず「ケイパビリティ」として、デリバリー能力の高い開発組織が共通して保有している組織能力を定義する。ただし、これらは直接的な定量測定が困難なため、相関関係のある「パフォーマンス」指標で代替測定を行う。具体的には「Four Keys」と呼ばれる指標(デプロイ頻度、変更のリードタイム、変更障害率、サービス復旧時間)が代表例だ。
さらに重要なのが「アウトカム」の測定で、特に開発者のウェルビーイング(満足度や開発しやすさなど)といった定性的側面も開発者サーベイを通じて把握する。これにより、定量・定性両面から組織のデリバリー能力を包括的に評価できる仕組みを提供している。
