「チャンピオン」と「フォロワーシップ」が新技術を組織に伝播する
AI時代にどうやってケイパビリティを備えるか、個々人にはどんなスキルが求められているのか。服部氏も自身で「なかなか難しい質問」と認める通り、頭を悩ませる命題だ。
加賀谷氏は、AIの知識を引き出し、活用できる「ジェネラルエキスパート」のスキルが必要になると考えている。LLMはほとんどのことについて自分より詳しく、たくさんの知識を持つため、それを使っていろいろできる人が求められるというロジックだ。
一方、AIから深く情報を引き出すための専門性はやはり必要であり、「ジェネラリストが増えても企業の競争優位につながるのか」と服部氏は考える。これに加賀谷氏も同意しつつ、専門性だけでLLMに勝つことは難しくなっていくのもまた事実なので、見る側として判断できるだけの知識とバランスをとることを考えなければならない、と話した。
岩瀬氏は冒頭の質問について、人材採用基準の変化を切り口に「知的好奇心」や「フットワークの軽さ」と回答。この回答に、服部氏は育成の観点を交えながら「AIに対して好奇心をそこまで持たない層をどうやって引き上げるのか」と質問すると、岩瀬氏はそのキーパーソンとして、社内で新しい技術に積極的に触れ、楽しそうに広める「チャンピオン」を挙げた。
「GitHubでも、プロダクトのチャンピオンになってくれるような人を社内でいかに見つけるのかが重要」と服部氏が語るように、チャンピオンの発掘・育成は簡単ではない。岩瀬氏はチャンピオン育成の秘訣に、ボーナスで評価を上げる「外発的動機付け」と、たくさんのリアクションによる「内発的動機付け」の併用を挙げ、これらの刺激を与え続けることが大切と語った。

服部氏はここまでの話をまとめながら、最後にAI時代に「組織としてどうやって成長していくか」を議題に挙げた。インターネットで得られる知識を社内展開するだけに留まらない、組織にフィットしたAIの使い方、仕組み自体のアップデートはどうすれば進むのか。
岩瀬氏はこの質問に、かつてのアジャイル開発やデザイン思考を重ね、新しい考え方を全社に伝播・浸透させるにはCoEのような横断的にスポットが集まる組織が効果的だと考えている。この組織が、各事業部間を一種の媒体となって仲介し、カタリストのように広めていく。ここでもその役を担うのは、やはりチャンピオンや、サブチャンピオンだ。
加賀谷氏はチャンピオンの発掘、育成に改めて言及し、「自然と社内・社外に対して発信できる人がなる」ゆえに、その発掘の難しさを示した。
一方、育成については「フォロワーシップ」をキーポイントに挙げる。ログラスでは加賀谷氏が入社した2022年頃から、Slackでの反応をはじめとしたフォロワーシップの文化が根付いており、それがチャンピオンの育成を助けると実感。この文化は、同社経営層がこの文化を大切にして採用を進めたこと、またメンバーの新しい動きを感度高く把握することを背景に根付いたものだ。
最後に同セッションの感想として、岩瀬氏、加賀谷氏、服部氏が、組織のなかのAI導入について述べた。
岩瀬氏は事例の大切さに言及。「事例がたくさん集まってくると経営層が動くこともあるので、イベントで得た知識を使いながら組織を動かすのが良いのではないか」と話す。
一方で加賀谷氏は「AIツールの登場でコーディングの領域はすごく効率化された。しかし、そこが早くなっても今度はレビューや要件定義がボトルネックとして見えつつある」と語り、エンジニアに留まらないプロセス改善に向き合うことが必要と指摘した。
服部氏は個人の生産性だけではなく、組織の生産性を考えなければいけない時代が来ていると言及。「ツール導入や組織改編の時に、チームや組織全体に視点を上げて考えると良いのでは」と締めくくった。

AIツールをどうやって組織に導入し、活用するか。おそらくこの問いに共通的な答えはなく、各々が自組織にフィットする方法を考えなければならない。
