
効率を極めた組織編成と大胆な開発プロセスの改革
沖津氏が所属するエンターテインメント事業本部は、「DeNAの次の成長領域を発掘すること」をミッションとして、非ゲームの新規事業開発を行っている。昨年4月の発足以来、「マンガボックス」(アプリで読める週刊誌)、「Showroom」(アイドルやタレントなどのパフォーマンスをライブ配信するサービス)、「チラシル」(電子チラシ配信)、「アプリゼミ」(教育)など、すでに9本の新サービス、新プロダクトをリリースした。さらには、これらのサービス、プロダクトの運用まで、エンターテインメント事業本部で行っているという。
このように、複数のサービスやプロダクトを短期間でリリースできるポイントの一つは「少人数体制を維持すること」だと沖津氏は述べる。エンターテインメント事業本部の人員は、一般的なサービス開発部門と同様に、プロデューサー、ディレクター・プランナー、エンジニア、UI/UXデザイナー、マークアップエンジニアで構成されているが、サービス立ち上げ時は、プロデューサー1名、エンジニア1~2名、UX/UIデザイナー1名と、3~4名程度の少人数によるチーム構成を意識した。
もちろん、開発チームだけでサービスやプロダクトを作ることはできない。マーケターやQA、CS、インフラ・分析などのエキスパートが開発チームに入り込み、適宜バックアップする体制が、並行開発と短期間でのリリースを実現するもう一つのポイントとなっている。開発チーム単位で席を固めた上で、マーケターやQAの席も開発チームの近くに配置した。
また、動きを素早くするために、ものづくりの進め方も改めたという。DeNAでは「スクラム」を基本に忠実に回してきたが、エンターテインメント事業本部ではそれをがらりと変えた。
まず、専任のスクラムマスターを置かないことにした。スクラムマスター役は、エンジニアの持ち回りだ。同時に、「タスクの粒度を荒くし、ストーリーポイントは振らない」「バーンダウンチャートを排除し、進捗は担当の裁量に任せる」「タスク管理はアナログだけではなく、各チームでやりやすい方法を採用する」といった工夫も加えた。沖津氏は、このように少人数で各人の裁量を増やしたことにより、各人が考えて行動する意識が強くなり、チームに対するコミット意識も自然と高まって良い方向に進むようになったと語る。
しかし、このように開発・運用体制を整えても、開発したサービスやプロダクトがヒットしなければ意味がない。そこで、エンターテインメント事業本部は「ユーザーが何を欲しがっているかを適切に検証すること」にも注力した。
例えば、主婦をターゲットとした「チラシル」では、地区(この例では練馬区)を限定して主婦を集め、チラシルのアプリを2~3週間使ってもらい、リモートからデイリーで感想をヒアリングした。また、小学1年生がターゲットの「アプリゼミ」では、「仮説を元に最小限のモックを作り、小学生とその親を同社のオフィスに招いて評価してもらう」というサイクルを何度も繰り返したという。
これらの検証では、事前に分析ログをアプリ側やサーバー側に仕込んでおき、ユーザーの行動パターンを細かく分析し、ユーザーニーズを検証した。DeNAでは、このように定量的なデータを取り、判断することを重視しているという。