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イベントレポート

立川談志師匠に学ぶ教え方のエッセンスとは――Web・IT人材育成にひそむ3つの思いこみ

TechLION vol.25 林真理子さんトーク レポート


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 新年度になり、多くの新人が現場に入ってくる季節になりました。新人には早く成長してもらいたい、けれどもその反面「自分は独学で学んだのだから、若手に一から教えなくていいのでは」「若手に教えることで、自分の市場価値が下がってしまうのでは?」と、育成に対して心理的抵抗を覚えることが少なからずあるかもしれません。4月13日に開催された、ITエンジニアのためのトークライブ「TechLION」の記念すべき5周年の回のテーマは「WEBとIT業界」。IT/Web業界の人材育成に携わる林真理子さんのトークでは、若手育成を阻む気持ちに対して三つのポイントから切り込みました。本稿ではそのトーク内容をご紹介します。

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イマジカデジタルスケープ 林真理子さん
イマジカデジタルスケープ 林真理子さん

40歳は「もう問題提起している年齢じゃないな」

 私の名前は林真理子と言いまして、作家の林真理子さんと同姓同名です。ネットで検索しても一向に私にたどり着かない(笑)。イマジカデジタルスケープという会社に11年ほど勤め、トレーニングディレクターという肩書を持っています。ここにいらっしゃる方はSIerにお勤めの方も多いと思うんですけど、私はシステムを作っているのではなく、社員研修のプログラムを受託し、お客さんに売っています。

 研修の内容は、マナー研修やリーダーシップ開発研修などではなく、デジタルとクリエイティブに関する実務者向けのプログラムを扱っています。人材育成と聞いてイメージするのは、まず講師や先生だと思いますが、私は講師以外全般をやっています。人事部というよりは事業部のマネージャーに呼ばれ、ヒアリングに行って、「うちの会社はこういう方向に行きたいのに、社員は知識、スキル、意欲がこういう状態で困っている。何か研修考えてよ」という話になり、「研修ではこういうことができる。でも研修でできないこともあるから、研修のあとに実務にこうつなげるといいのではないか」とご提案します。やってみようということになれば、教材開発をし、講師と一緒に研修を収めていって、そのレビューをし、次につながれば次のご提案をする、という流れです。

講師以外のことを何でもやる
講師以外のことを何でもやる

 私はクリエイティブ職のキャリア支援を生業としているので、クリエイティブ職の方々向けに学習やキャリアをテーマにしたスライドをSlideShareに上げています。15000PVくらい見て頂けたスライドもあるので、もしかしたら会場の方で見た方もいるかもしれません。

 先月、私は40歳になりました。40歳になったときに、もう「問題提起している年齢じゃないな」と思いました。人が育たないとか、キャリアパスがなくて困るなどといった問題提起をするのではなく、人が育たないなら「人を育てる」、キャリアパスがなくて困っているなら「自分がそのキャリアパスの一例となる。自分の生き様として示す」というように、解決する側の立場に完全に回ったな、と。参加者の方は、私と同世代の方も多いということで、今回は「自分の学び」ではなく「若手を育てる」ことについて話をしようと思います。

若手育成にひそむ3つの思いこみ

 自分が若手を育てようとするとき、教えることを阻む感情が出でくるとおもいます。私は仮説を立てて、三つほど考えてみました。

  1. 自分は独学で身につけた
  2. 自分の学習法が一番身につく
  3. 結局は本人のやる気とセンスだ

 一つひとつ掘り下げてみたいと思います。

自分は独学で身につけた

 「自分は独学で身につけたんだからお前も独学で身につけろ」という気持ちに必ずなると思うんです。私も90年代の半ばから、みなさんのような方にキャリア支援をする立場で仕事をしてきて、大変なご苦労で、教えてもらう環境のない中で、挑戦してきた様子をそばで見てきたんですけど、とはいえ、そういう自分の中で身につけてきた部分もありつつ、なにか別のスキルを身につけるというとき、他人を介在しないでその習得を完遂するのはありえないと思うんですね。なにか実務スキルを身につける前には、前提となる知識がないと、安定してスキルを発揮することができない。専門学校や大学も教えてもらわなかった、という人が大多数だと思いますが、専門書や専門誌、技術ブログを読み漁った方は多いと思うんですね。そこには著者や編集者がいて、自分がわかっていることを言語化して、人に伝えている。それを受け取って学んできたことってあると思うんですね。

 全部を自分で発見して、知見を身につけてきた人はいないなと思っています。職場でも、反面教師になるかもしれないけど、この人のここは真似ようというのもあれば、この人のこれだけは学べない、というのもあると思います。また、業界のコミュニティに参加して知識や情報を得たり、触発されて何かを身につけたりで、他者が介在している。

 加えて、実務スキルを自分はどれだけ身につけているか、人のフィードバックなしに確認はできないと思うんですね。自分でできた! と思っても、いやいや足りてないよ、というところもあるかもしれない。自分に死角があったとして、その死角は見えないから死角なわけで、他人に指摘されない限りその死角には気づくことができない。自分の習得度がどれくらいか、欠陥や不備がどこにあるかは、他者の判定・フィードバックがないと分からない。必ず他者が介在していると言える。

実務スキル習得は単独では成しえない
実務スキル習得は単独では成しえない

 なので、本で学んだことは独学の言葉の定義にかなっているけれども、独学で学んだことを「単独で学んだ」「自力で学んだ」と拡大解釈してしまうと、色々な人との関わりのなかで自分が得てきたものがたくさんあるのに、そこを見なくなってしまう。そうなってしまうと、若手に教える気にならないということですね。ここを理解していると、ストレスなく、若手にも教えてやろうと思える。自力で身につけてきたのではなくて、多くの人、さまざまな環境に育てられてきた、と考えてみようというのが、一つ目の考察です。

自分の学習法が一番身につく

 自分が過去に勉強してきて、すごく身になった勉強法には信頼を置くと思うんですね。その勉強法は絶対なのか、ということを考えてみたいと思います。みなさんが、仕事のベーシックな部分を身につけたのが、10年、20年、30年前だとすると、そこから時代が変わってるんですね。20年前と違って今は、IT、Webの技術を駆使して提供されるサービスが全く違うといっていいほど拡充、多角化しています。システムは大規模に、業務も難しくなっている。一方、短期で納品することを求められ、世の中は失敗に不寛容。そうすると若手に仕事が振れなくなっている。職務範囲は複雑で、専門分化しているとも言われるし、T型、H型と言われるような「何でもやってくれ」と言われるようになる。さらに、簡単な作業、ルーチンの作業は自動化され、自社内に簡単な仕事はありません、という状況になる。そうすると、簡単な仕事から段階的に仕事を覚えていくということが環境的に難しいことがあります。なので、自分が過去に学んだ環境や方法が必ずしも今、選択できるもの、最適とも限らないと考えてみるといいのかなと思います。

若手に簡単な仕事が振れない昨今
若手に簡単な仕事が振れない昨今

 二つ目の思いこみの考察として、自分の学習法が一番身につくとは限らなくて、時代が変われば、また、時代背景によらなくても世代差・個人差がありますが、その人にとって合理的な学習アプローチが違う可能性があることを認識するのが大事だと思います。

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この記事の著者

近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)

株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...

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