日本の課題は、IT業界を「憧れの職業」にすること
五味 私も各国の記者と混じって取材をやると、自分の英語が下手くそで恥ずかしいなと思うことあるのですが、英語がペラペラでも、中身がある質問をしないと聞いてくれないんですよ。逆に言えば、中身の部分ってエンジニアさんで言えば、多分、プログラミングスキルなどですよね。肝心のスキルに関しては、日本人は世界のエンジニアと比べてどうですか?
まつもと 一言でプログラマと言っても、すごくできる方もいらっしゃれば、そうでないもない人もいるのは、日本もそうですし、アメリカも、ヨーロッパもアジアもそうです。で、私の把握している範囲内では、日本ですごくできる方と、アメリカのすごくできる方を比べると、決して負けていないという印象があります。
五味 ワークスではどんな評価されていますか。
井上 基本は同じですね。「日本人がものすごく劣っている」とも思ったことはないですし、逆に「日本人がものすごく突出している」なんて思ったこともないです。
一つ言えるのは、日本は他の国よりハングリー精神が少ないなと感じていて、インド出身の方のほうが、いい意味でガツガツしているように感じます。その点でもしかしたら、長い年月が経つと差がついてしまうかもしれませんが、まだそこまで言えるほど分からないですね。
まつもと 僕、ちょっと危惧を覚えているんですけど、例えば上海のITエンジニアの年収は、為替レートで換算すると日本人エンジニアの待遇より高いんですよね。そうすると、「日本が豊かである」ってのはだいぶこう……海外や日本人の思い込みかもしれないという感じがあります。
井上 確かに、中国に関してはちょっと違うかもしれないですよね。一番ハングリー精神を感じるのは、現時点だとインド出身の方かなと思います。
五味 日本人が、海外の人と比べて違う点としては、論理的に考える訓練を受けていないことがあると思います。ジャーナリストの世界でも、文章を書くときに、ある程度型を重視して、その型に合ってないものを書くとダメだというライティングスキルの講座を受けますが、日本の記者は、そのような訓練をしていない人が多いんです。
子どものときに、論理的文章を書くことを学んでいないと、大人になってから世界の標準と合わなくなってくる部分が多々出てくることを、最近ホントに痛感しているんですが、この点に関してはいかがでしょうか? 例えば、ワークスさんの中で、標準的な考え方の訓練をトレーニングされたりしていますか?
井上 まず、プログラミングをやっている日本人は、ある程度ロジカルじゃないとダメだと思うので、論理的思考については、エンジニアは身についているのかなと思います。
ただ、まさに先ほど廣原さんが言った、海外カンファレンスを盛り上げるようなプレゼンテーションスキルは、自分も含めて、ほとんどの日本人がそのような教育を受けていないと思います。若い世代に頑張ってもらえると、少し変わるかもしれません。
五味 なるほど。廣原さんはいかがですか?
廣原 そうですね。まず、国籍によって差があるとは思っていなくて。できる人はできるし、できない人はできないし、いろんな人がいて、いろんな得意分野があると思います。ただ、当社の話でいうと、海外で採用されたエンジニアのほうが、入社時点のパフォーマンスは高いですね。
井上 採用のやり方が、だいぶ違うので。
廣原 海外は、ライブコーディングを通じてコンピュータサイエンスに特化した人材を主に採用していますが、日本人は約1か月間のインターンシップをするなど、もう少しいろいろな角度で見極めて採用しています。
聞いた話によると、海外だと、コンピュータサイエンスを学んでいる方の割合がかなり高いそうです。日本では、コンピュータサイエンスを学んでソフトウェア開発者になるという道が、海外に比べると割合が高くないのかなと。海外でコンピュータサイエンスのトップレベルの方は、大学で教育を受けて、しかるべき企業に入って、すごいソフトを作っています。日本にも、コンピュータサイエンスのすごいスキルをつけられる大学があるとまた違うのかなと。
井上 まつもとさんも同じ思いかもしれませんが、コンピュータサイエンスを学ぶ人や、エンジニアがかっこいいと思われる世の中にしたいなと思います。インドはかなりそうなっていて、トップの層がコンピュータサイエンスの道に進んでいます。日本は、まだ残念ながらそこまでには至っていないですね。
五味 まつもとさんはいかがですか? 広い世代のプログラマやエンジニアを見ていると思うんですが。
まつもと まあ、コンピュータサイエンスを出た学生の給料は安いですよね。そもそも日本のIT企業は、就職するときにコンピュータサイエンスの学位が求められないんですよね。でも、例えばGoogleに入ろうと思ったら、多分コンピュータサイエンスのマスター以上は必要だと思うので、そうすると、コンピュータサイエンスの学位、あるいはコンピュータサイエンスを学ぶことに対して、社会が思っている要求がだいぶ違う印象がありますね。
私はコンピュータサイエンスの学位を持っていますが、就職したとき、文系でプログラミング経験ゼロの人と給料は全く同じでした。マスターをとった人もいましたけど、年功序列で2年分給料が上乗せされだけで、つまりマスターで学んだことが評価されていないわけですね。それはもう20年以上前の話ですが、今になってもすごく変化したという話は聞かないですね。
五味 「IT業界が憧れの業界になってほしい」というのは、私たちも取材しながら常に思っていて、多分、まつもとさんのような世界で活躍するプログラマや、廣原さんや井上さんのようにスーパーエンジニアと言われる方のような、憧れられる人の存在がもう少し必要だなと思うんです。もし、自分の会社になかなか憧れられる方がいらっしゃらなかったとしても、それだったら今、自分が憧れられるような人材にぜひなってほしいなと思い、この3人の方に来ていただきました。最後、会場の皆さんに一言ずつメッセージをお願いできますか?
廣原 憧れられるところで言うと、すごいソフトウェアが出ることが大事だなと思っています。Rubyは、有名で誰もが知っているすごいプログラミング言語で、日本人が作ったから、まつもとさんが皆さんの憧れの的になっていると思っていて、僕たちもそれを目指してHUEという製品を、世界で有名なソフトにしたいと思っています。日本からたくさんの有名なソフトが出てくれば、エンジニアの評価も上がるし、当然憧れる存在も増えると思うので、いいものが出てきてほしいです。
井上 廣原さんがかっこいいことを言ってくれたので、逆にあまりかっこよくない話をします。プログラマやエンジニアが尊敬されたり、かっこよくなるには、実を言うとやっぱり給与が高いことだなと思います。つまり、お金がちゃんと回って、売れるソフトを作ることだと思うので。きれいなソースコードを書く気持ちと、売れるものを作る気持ち、両方あるといいのかなと思います。
まつもと プログラミングができるということは、コンピューターが持っているパワーを全部発揮できることだと思うんですね。プログラミングをしない人は、例えばパソコンやスマートフォンにインストールされているアプリが提供する選択肢から選ぶしかないんですけど、自分でソフトウェアを作るれる人は、コンピューターができることは何でもすることができる。プログラミングとは、そういう幅広い選択肢を自分で創造することができる力だと思います。
例えば、社会を変えることにも使える力だし、あるいは自分の環境を変えることもできますよね。それは、「誰かが僕のほしいソフトを作ってくれないかな」って口を開けて待っているんじゃなくて、自分で足を踏み出して作ることができる力なんです。その力を持っていることに自覚的になって、その力を発揮して、自分も周りも幸せになってほしいなと思います。
五味 まずはエンジニア自身が幸せになる。
まつもと そう。だからぜひ、エンジニアには稼いでいただきたいです。