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なぜ国内No1登山アプリの開発組織はコロナ禍でも成長を継続できたのか? スピード感を支える組織力をヤマップに学ぶ

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2021/07/19 11:00

目次

情報共有とフィードバックの文化がコロナ禍の混乱で生きた

 コロナ禍でリモートワークが推奨され、混乱が生じた組織は多いが、YAMAPの面々は比較的スムーズに新しい働き方に馴染んでいった。それというのも、もともと福岡と東京に拠点があり、外部のメンバーとのやりとりも多かったことから、コラボレーションに関するさまざまなツールを使っていく習慣があったからだ。

 「コロナ禍になる前から皆が『Slack』、エンジニアは『GitHub』などのツールを使っており、福岡と東京での会議も『Zoom』を使っていました。デザインについては『Figma』というWeb上でコラボレーションできるツールが便利です。デザインツールとしては『Sketch』も使われていたのですが、共同作業には向いていませんでした。Figmaでのコラボレーションは、スピードアップに寄与しています」(落石氏)

 ほかにも、オンラインホワイトボードツールの『Miro』なども活用しており、これらの下地があったためリモートワークへはスムーズに移行した。コロナ禍以前から積極的に社内で情報共有・フィードバックしていく文化があったことで各種ツールが揃っており、業務のスピードアップ化にもつながっている。大塩氏は「ただ闇雲にスピードを上げるのではなく、大事な意思決定プロセスは 守りながら、コミュニケーションで皆の目線をあわせて本質をとらえるようにしています。その結果として無駄が削減されることで、スピードが高まっていると思います」と説明した。

 ユーザーのフィードバックを得るためにも、早期のリリースを優先する考え方もわかるが、一方で新しい機能はユーザー体験や売上を損なうリスクもある。強いメンタルも必要となることが想像できるが、YAMAPには、失敗を恐れない文化もある。大塩氏は「経営層をはじめ、手戻りを恐れないという文化は浸透しています。データをもとに仮説を立て、一番効きそうなポイントを狙います。そのうえでうまくいかなかったらどうするか、という話は必要以上にしません。どんどん出して、足りない部分を補って改修していくという心意気があります」と語る。

 この背景には、創業当初からユーザーの意見や要望にくまなく目を通してきた歴史にある。何か新しい機能を考える際もユーザーの課題が中心にあり、皆が同じ視点で取り組めることから、結果的に失敗する確率が減っているのだ。Slackにはアプリのレビューやユーザーの問い合わせ、カスタマーサポートの内容や困っているユーザーの声などが共有されているため、開発者とユーザーとの意識のずれは少ない。なお、カスタマーサポートでは効率化のためのツールとして『Zendesk』を利用している。これによって、ユーザーからの問い合わせやフィードバック内容を集約し、時にはBIツールの『Looker』と連携して分析にも活用するなどの合理化がなされている。

 さらに、社内外でのユーザーテストも活発に行われている。落石氏は「テストでは、ユーザーの求める機能との齟齬が早期に発見できますので、不確実性の解消に役立っています」と述べた。何か新しい機能をリリースする際も、なるべくユーザーを混乱させないよう、ブログやユーザーコミュニティに向けた事前の連絡や情報発信を行っている。

YAMAP UX/Androidエンジニア 落石 浩一郎氏
YAMAP UX/Androidエンジニア 落石 浩一郎氏

専門分野に根ざした〝嗅覚〟を持つ面々によるチームワーク

 不確実性を解消するには、ユーザーに向き合うだけでなく、経験から嗅ぎ取る力も必要だと落石氏は言う。

 「自分は iOSでもAndroidでもアプリを作って、バックエンドのRuby on Railsも触ってきて、デザインにもこだわりがあります。そのような経験から、ある機能を作るときにどうしたらいいかという嗅覚はあると思います。たとえば、iOSアプリだったらAppleが提供しているHuman Interface Guidelinesや、AndroidであればMaterial Designなどの規約があります。それを読み込んでおくだけでも、表現の限界などがわかるため、さまざまな判断につながります」(落石氏)

 デザインを決める場合でもデザイナーに丸投げするのではなく、エンジニアも一緒になって、「ユーザーのペインを解決できるか」「どの方法が開発効率やメンテナンス性がよいか」などざまざまな視点で議論していくことで、何度も作り直すような無駄を省いている。さらに大塩氏は「プロジェクトの初期にいろんな職能を持った人たちが混在して話すときがあります。このときにそれぞれの嗅覚が発揮されますので、大きく踏み外すことを避けられていると思います」と説明した。

 現在YAMAPにはプロダクトマネージャーが3名いて、2021年からそれぞれにアプリエンジニア、バックエンドエンジニア、フロントエンドエンジニア、デザイナーと、ある機能を作るために必要な職能を持つメンバーが集まったチーム制度をとっている。それまでは、何かの開発プロジェクトが立ち上がるたびにメンバーが割り当てられ、プロジェクトが完了すると解散するという体制であったが、開発プロジェクトが増えるに従って、各メンバーのリソース管理が難しくなっていたのだ。

 チーム制度への移行によって、リソース管理がしやすくなり、いったんリリースした機能も継続して開発が可能となった。開発した機能に関する属人性も排除され、チーム内の結束力も高まるなど、多くの効果を得ている。

小さく転ぶことが、スピード開発への近道

 YAMAPのメンバーは、物事は不確実であるが、自分たちの裁量で変えられることを理解している。そのなかで、社内に議論がたくさん生まれることを尊ぶ文化が育まれている。コミュニケーションの土台がしっかりしているので、リモートワークへの移行も混乱はなかった。最後に両名に、同社がよい結果を得られている背景や心構えについて聞いた。

 「ベンチャー企業は、参加メンバーの気質がそろっている必要があると思っています。YAMAPは皆に不確実を楽しめる気質が備わっていて、覚悟をもって臨んでいます。そのうえで開発プロセスではレビューやフィードバック会など『転びやすい』場をいくつも用意しています。リスクを早めに確認しておく箇所があることが、スピードを出せる組織づくりにつながっています」(落石氏)

 「何がなんでもスピードっていう意識ではなく、本質にある価値としてのユーザーメリットを考えるマインドセットとして大事です。そして、開発プロセスにおけるレビューやフィードバックなどが拠り所となり、心理的な余白を持てることが、よい結果につながっています」(大塩氏)

 アジャイル開発には、「早めにうまく失敗する」といった考え方がある。YAMAPのメンバーは、お互いを信じ、ユーザーを中心に据えて議論する重要さを認識している。その土台の上に、適切なツール・体制をとり、うまく失敗を重ね、リスクを回避できる場を幾重にも用意している。不確実性という険しい山に登るために、心理的安全のための備えをしてくことが、YAMAPの成長につながっているのだ。



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著者プロフィール

  • 森 英信(モリ ヒデノブ)

    スマホアプリやWebサイト、出版物といったコンテンツの企画制作を手がける株式会社アンジーの代表。写真加工アプリ「MyHeartCamera」「PicoSweet」など、提供するアプリは1100万以上のインストールを獲得。2019年にはAR(拡張現実)プログラムに関する特許を取得。自身はIT関連の取材...

  • 小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

     2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

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