日本人はハイコンテクスト、外国人はローコンテクストな文化――コミュニケーションのギャップをどう乗り越えていくか
先述した英語話者のチームとなるのが「Team Nikko」。将来の英語中心となる職場環境のパイロット版であり、先遣隊みたいなイメージだろうか。まずは英語話者のチームを結成し、ここで日本語話者チームとの連携も含めて課題を洗い出し、解決しながらノウハウを蓄積していくことを目指す。
チームメンバーは7カ国から約20名、年齢層は新卒から50代まで幅広い。うち日本人は6名。全員が英語堪能とは限らず、英語がほぼ話せない状態でチームに加わり、英語学習中のメンバーもいる(英語だけの環境に加わることで英語力が急上昇しているという)。実に多様なメンバー構成となっている。しかし英語を第一言語とする人は誰もいない。だからこそ前述したようにグロービッシュが重要になる。
日本人チームと比較すると、外国人で構成したチームは「メリットは専門性が高くなることで、デメリットは(チーム外との)コミュニケーションになります。日本人チームはその逆になるかな」と小牧氏は言う。
グローバル化への取り組みにおける課題と解決策について見ていこう。当然ながら言語の違いという課題がある。マネーフォワードではエンジニア外にGPP(Global People Partners)と呼ばれるチームがいる。グローバルメンバーの仕事をサポートするのがミッションで、翻訳や通訳を担う。例えば英語話者と日本語話者でミーティングする時にGPPから通訳をアサインすることができるようになっている。
伝達で特に難しいものとして小牧氏は「ビジネス要件」を挙げる。現時点ではマネーフォワードの市場は日本国内のため、ユーザーからのフィードバックは当然ながら日本語となる。どうすればプロダクトをブラッシュアップできるかをとりまとめてエンジニアに渡すプロセスがあり、抽象度の高いビジネス要件は日本語だけの条件でも難しい。英語と日本語が混じるなかでどう工夫するかがポイントとなる。
通訳がいれば解決するとは限らない。どのように情報を渡すのか、どこまでドキュメント化するか、どこから通訳を挟むのか。そうしたルールや工夫については、試行錯誤している段階だという。
なお開発の進め方については、外国人チームも日本人チームもスクラムの手続きにのっとって進めているため違いはほぼない。そのため「コミュニケーションの壁さえ超えたら、大丈夫だと思います」と言う。
ただしコミュニケーションの壁にはいくつかの段階がある。まずは基本的な英語力。学習すれば、ある程度話せるようになる。「大変なのはここから」と小牧氏。言葉が通じてもコミュニケーションの取り方には違いがある。
よく言われるのは、ハイコンテクストとローコンテクストの違いだ。日本人同士のコミュニケーションはハイコンテクストと言われており、互いに多くの共通認識がある状態で成立する。1つ言うだけで、相手に10個伝わるようなものだ。多くを察する必要があるため、聞き手側の努力が求められる。
日本ではハイコンテクストが常識で美徳のような状態だが、海外では必ずしもそうとは限らない。外国人とのコミュニケーションでは、聞き手側が察してくれる文化に馴染みがないこともある。1から10まで具体的に説明する必要があるなど、話し手側の努力が求められる。
海外のローコンテクスト状況における経験を積んだ小牧氏は「相手が本当に伝えたいことが分かるまで、我慢強く聞くことが大事」と話す。「極端な例ですが」と小牧氏は前置きしたうえで、シンガポールでのあるエピソードを話した。
重要な会議の日に遅刻してきた部下がいたので小牧氏が「なぜ遅刻したのか」と質問すると、「電車に乗り遅れたから」と返ってきた。それでは納得できないため小牧氏は「では、なぜ電車に乗り遅れたのか」と「なぜ」を何度か繰り返していくと、ようやく「子どもが熱を出した」という事情を知ることができた。
日本なら相手が何を知りたいのかを察して、素早く的確な回答にたどり着けることが多い。しかし文化圏によっては、言葉通りの解釈でしか会話が進まないこともある。多文化な環境では日本における「察して当然」という価値観を相手に求めないことも大事となりそうだ。
コミュニケーションに壁がある環境であることで、小牧氏は「ボトムアップに力を入れています」と言う。トップダウンで進めてしまうと、意図の伝達でコミュニケーションギャップが支障となりかねないためだ。自分たちで主体的に考えるボトムアップなら、コミュニケーションギャップのリスクは低くなる。
最後に今後の展望について。マネーフォワードでは日本の拠点で外国人エンジニアを多く採用するだけではなく、海外拠点の増設も検討している(現在ではベトナムに2カ所)。最終的には世界中のエンジニアがリモートワークを駆使して、1つの環境で働ける組織になることを目指している。
もともと小牧氏がマネーフォワードへの転職を決めた理由が、海外の経験で得た世界レベルでの労働環境や学習機会を日本にもたらすことだった。まずはマネーフォワードでグローバル化を実現し、「それができたら、他の企業にノウハウを展開してもいいと考えています。日本全体をより強くできれば、とても価値があると考えていますので」と小牧氏は自社だけではなく日本のエンジニア力向上を見すえている。

