メトリクスの数値を追うことが目的化してしまってはいけない
3つ目の施策としては、メトリクスの数値を向上させる意味と目的を広く共有するようにした。メトリクスを定義してその値を追うことは、改善活動を進める上で有効である半面、その運用が形骸化すると表面的な数値を上げること自体が目的化してしまい、そのメトリクスを設置した本来の目的が忘れられてしまいがちだ。
同社でもFour Keysメトリクスを導入した当初は、リードタイムの数値を上げることが目的化してしまった結果、「作業途中で中断した実装作業を、後に再開したときにPRをあらためて作り直して短いリードタイムを達成する」といったように、リードタイムの数値を上げることを完全に目的化とした運用がまかり通っていた。
そこで川津氏らは、同社でリードタイム短縮を目指す本来の目的を周知させるために、さまざまな場を借りて社内各所に説明して回った。
「弊社がリードタイム短縮を目指すのは、機能を限定したスモールリリースを繰り返すことで障害を減らし、かつリリースの複雑性を減らしたいからです。この目的に皆で立ち返れるよう、社内で何度も繰り返し説明しました」(川津氏)
ちなみに一般的には、このような品質向上活動は開発のスピードや効率と相反すると思われがちだが、例えば品質向上のために自動テストの仕組みを導入すれば結果として開発スピードも上がるように、むしろ「品質とスピードを表裏一体のものとしてとらえた方が良い」と川津氏は持論を述べる。
「Four Keysのような開発メトリクスを設けることで品質とスピードの関連性も見える化されますし、目標に対して今自分たちがどの地点にいるかを把握できることで改善活動全体を活性化できます。弊社でも『開発者が幸せを感じられる開発者体験』『高い開発者体験を提供できる組織』の実現に向けて、今後もメトリクスをベースにした改善活動を続けていきたいと考えています」(川津氏)