小さな会議室から始まった「KDDIアジャイル開発センター」設立ストーリーとは?
KDDIアジャイル開発センターの前身は、2013年に設立されたKDDI内のアジャイル開発を推進する部門だ。迅速にビジネスが立ち上げられる中、開発組織の受発注関係の整理や内部のエンジニア育成が急務となっていたことが設立の背景にあるという。多くのアジャイル組織がそうであるように、当初は小さな組織からスタートした。岡澤氏は「小さな会議室を半分に区切ってのスタートだった。僕はその頃からスクラムマスターだったこともあって、アジャイル立ち上げに関与することになった」と振り返る。
アジャイル組織のテーマは「KDDIのソリューションサービスのコアとなる法人系の認証基盤開発」と「まったく新しいビジネスをリーンスタートで立ち上げること」の2つだった。エンタープライズテーマと新規事業テーマの2つを同時に追いかけたわけだ。
初期フェーズの開発プロセスについて、岡澤氏は「コア人材の育成が重要だった」と語る。2つのチームでエンジニアを専任化し、さらに両チーム共通で使う最低限のツールを選択した。そして最初に取り組んだのが「スクラムの守破離の“守”」だ。岡澤氏自身、以前独学でアジャイルを試みた時には失敗した経験があった。そのため、まずは地道にガイドラインやチェックリストのアジャイル向け調査・調整から開始した。そして、アジャイルコーチなど外部の力も積極的に活用し、アジャイル導入への推進力を高めていった。
2016年には組織の規模も大きくなり、対象となる事業領域を拡大するため「アジャイル開発センター」を発足した。さらにグループ会社でもアジャイルの展開を目指し、グループ会社のエンジニアが集まるコミュニティを作ってエンジニア同士の交流を深めていった。
そして、2019年頃には顧客企業から「アジャイル開発をやってほしい」「リーンスタートで新規事業を立ち上げたい」と依頼されるようになり、KDDIの一部門だった組織を「KDDIアジャイル開発センター」として2022年に会社化した。KDDI内部では、5G通信を軸にした「サテライトグロース戦略」の一環として、新たなDX事業の立ち上げが目標とされていたので、よりスピーディな事業開発が期待されていた。
岡澤氏が直面したチーム教育・運用におけるアジャイル組織の壁とは?
岡澤氏はこれまでの7年間を振り返り、「組織が初期から少し拡大し始めた頃に、チーム教育や運用に壁を感じることがたびたびあった」と語る。
その1つ「チーム教育」の壁には、以下のようなものがあった。
- 勉強会:最初は有意義だが、組織が大きくなってくると浸透しなかった。そこで、勉強会のコミュニティ化を進め、アジャイルに限らずAIやIoTなどさまざまなテーマを設定することで勉強会を活発化した。
- 技術スキル:DevOpsツールやIaCなどを固定化すると広がらないため、部門やグループごとに必要なスキルを見極め、必要なところに必要な分だけ広げていった。
- アジャイルの研修:テーマを固定して行っていたが、レイヤーによって考える目線が異なる。「経営層が考えるアジャイル」などレイヤーごとの研修を実施するようにした。
そして、もう1つが「チームの運用」の壁だ。
- メンバーローテーション:通常、メンバーは固定している方が望ましいが、チームが拡大していく中でメンバーをスプリットしてチームを拡大する必要がある。そのため、チーム間のエンジニア交流など推奨しチーム組成を推進した。また、ある程度組織が成熟したら一定期間チームを維持する運用へと変えていった。
- ツール:エンジニア主導でのツール選定を実現した。
- オフショア:途中から依頼するようになったが、依頼先のチームが外部にあるうちは上手くいかなかったため、アジャイルチーム内に入れ込んだ。
そして、岡澤氏の行動を大きく変えたのが採用活動だった。大きめの企業だと一般的にエンジニアが直接採用活動への提案などに関わることは少ない。しかし、岡澤氏は人事部へ積極的に協力し、採用フローや採用イベントを企画実施した。さらに評価にも関わるようになったという。
「スクラムマスターの視点がなければ、アジャイルの推進度合いは評価のしようがない。採用についても、人事はエンジニアをどう採用していいのかわからないので、積極的に関わることが大切。評価や人事の場に、エンジニアがどんどん顔を出すようにするべき」と岡澤氏は強調した。
佐藤氏も「チームが上手く作れていないと採用も外に任せたきりで、ミスマッチが起きやすくなる。しかし社内や人事との関係がうまくいっていると、社内からのリファラル採用がかなったり、通常の採用でもやりとりがスムーズになったりする」と語った。