APIにすべてを賭けて、イタリアからサンフランシスコへ
──まずはご自身とKongについて紹介をお願いします。
Kongの共同創業者でCTOのMarco Palladinoです。共同創業者でCEOのAugusto Mariettiとともに、出身はイタリアで、後にアメリカのサンフランシスコに移住しました。
最初はAPIマーケットプレイス「Mashape」を立ち上げたのですが、アイデアの着想はよかったもののビジネスモデルがそぐわず、試行錯誤や辛抱が続きました。シリコンバレーでありがちな話です。今ではAPIはインターネットのトラフィックの85%を占めるほどですが、当時はまだそこまでではなく、時期尚早でした。
2015年ごろには資金がつきかけ、Mariettiと「APIマーケットプレイスを強靱化するために開発していた技術をオープンソース化しよう」と決断し、Kongを創業しました。すると、軽量化されていて処理が高速で低遅延、コンテナにも対応したAPIインフラという特徴が注目され、急速に導入されていきました。2013年にDockerがコンテナを導入し、続いてKubernetesが登場したので、オープンソース化するタイミングもよかったのでしょう。
当初はGatewayだけでしたが、今ではサービスメッシュ、API開発・デバッグやテスト自動化も網羅したAPIマネジメントプラットフォームを提供しており、世界中で300万もの組織に活用いただいています。
──APIに着目したのはなぜですか?
もともと私は12歳から独学でプログラミングを始め、そのころから起業を考えていました。そして、17歳で共同創業者のMariettiと出会いました。二人でMashapeを創業したのは、ちょうど世の中がSOAP APIからREST APIへ移るころでした。
このころ、RESTful APIでモバイルのスマホ利用が可能になりました。スティーブ・ジョブスが自らiPhoneを売り込んでいたころ、APIに火が点いたのです。その時に「もう時間の問題だ。APIはインターネットのインフラになる」と直感したのです。
ソフトウェアが工場で作られるとしたら、APIは部品のようなものです。アプリケーションを開発するにあたり、コンポーネントのようにAPIが組み立てられていく。そうであれば、APIのマーケットプレイスが必要になるだろうと考えたのです。
まだ2人とも21歳で、何よりもAPIに関連した会社を作って成功すると強く信じていたので、全てを賭けていました。資金集めのために、テクノロジーの中心地であるサンフランシスコに行こうと決めました。滞在予定は3カ月で帰国便もその予定で予約していましたが、資金がなく、手元には1週間分のホテル宿泊代だけを握りしめての渡航でした。
しかし、シリコンバレーは人のネットワークでできています。路上にベッドマットレスを敷くこともありましたが、Uber創業者のTravis Kalanickや起業前のAirbnbのCTO兼共同創設者 Nathan Blecharczykたちとの縁もあり、なんとか生き延びました。最終的にはエンジェル投資家より出資を受けることができ、間借りしなくてもよくなりました。
素早いプロダクトリリースのために、今APIに注目すべき理由
──事業価値の最大化や開発効率向上のために、APIをどのように活用することができるのでしょうか?
いまやインターネットトラフィックの85%がAPIです。モバイルアプリ、Webサイト、そしてAIに至るまでAPIが全てのデジタル企業の基幹ネットワークになっています。かつてはテクノロジーやソリューションを提供する組織だけがAPIに携わっていましたが、今では新しい市場に参入するにも、エンジニアの生産性を高めて新しいプロダクトを生むにも、全てのビジネス成果をけん引し、下支えする存在です。
APIを使いこなせるかどうかが、ビジネスの成否を決めています。世界ではエンジニアだけではなく、大企業の経営者がAPIの環境を確保しようとしています。例えば、欧米だと大手銀行や製造業、旅行業など、幅広い業界でKongが導入されています。日本ではLINEヤフー(旧Yahoo! JAPAN)にもご活用いただいています。
──事業価値の最大化や開発効率向上という観点ではChatGPT APIも注目されていますがいかがでしょう?
そうですね。昨今、OpenAI、Azure AI、Cohere、Anthropic、Mistral、Llamaといったさまざまなモデルが登場していますが、AIの活用は基本、APIを経由します。AIの利活用をしやすくするためのインフラという位置づけですね。
Kongでもこの2月にKong Gateway向けのプラグインである「AI Gateway」を発表しました。代表的な複数のLLMをサポートし、AI活用時のエンジニアの生産性向上と同時に、学習させるデータやAI利用のガバナンスを確保することを支援していきます。
──昔から今に至るまでの長い間、このようにAPIが使われ続けてきたのはなぜでしょう?
APIがあると企業は全てのプロダクトを連携させることで、プラットフォーム化が可能になります。そうでなければ、多くの製品や組織は縦割りになってしまいます。またAPIがあることで、アプリケーション上のさまざまなデータを他のチームと連携できるようになります。
かつてのモノリシックな仕組みだけでは、今ほど素早くサービスをリリースできないでしょう。スマホがこれほど浸透したのも、それぞれのサービスやデータがAPIで繋がってこそです。APIなしに世界は成り立ちません。もうAPIがない世界に戻ることはないでしょう。