エンジニアは事業に関心を寄せるべき? APIで拡がるエンジニアのキャリア
──APIを活用するうえで、組織やアーキテクチャをどのように考えるべきか、ポイントがあれば教えてください。
組織の内外でデータとサービスをどう提供するか。強いAPIビジョンを持っている企業が成功しています。AmazonがEC企業で最も成功できたのも、ジェフ・ベゾスが「全てのやりとりはサービスインターフェース(API)を介してやること」と推し進めたからこそです。その時のAPIのビジョンを形にしたのがAWSで、素晴らしい価値を解き放つことができました。
エンジニアにとって最善のテクノロジーソリューションはモジュラーモノリスの場合もありますし、モノリシック、マイクロサービスかもしれません。しかしこの選択が全てではありません。世界のすう勢としてはビジネスのステークホルダーなしには、エンジニアだけでは正しい決定ができない時代になっています。然るべき決定をするにはビジネス目線が必要だと考えます。
──となると、エンジニアは経営やビジネスにもっと関心を寄せるべきでしょうか?
難しい問いですね。経営陣は戦略上の責任を担い、実行に移すのが職責です。エンジニアの職責ではありません。経営者でテクノロジーの嗅覚が非常に鋭い方がいれば、その方が率先して指導力を発揮すべきだと思います。
いま企業では、旧来の考え方を持つ方から、新しい先を見越した方へと新陳代謝が行われていると思います。あらゆる事業がテクノロジーでなされていますので、テクノロジーの全貌を把握できない方はリーダーにふさわしくありません。いずれ代替わりで、テクノロジーを把握できて企業をより早く成長できる経営陣へと刷新されていくでしょう。
元シスコ CEOのジョン・チェンバーズは「会社が死に絶えるのは、競争からではなく変革を拒むからだ」と言ったことがあります。時代に合わせて変化していくことが大事ということです。
──API活用の文脈において、リーダシップで重要なことは?
優れている企業はAPIを使うツボをきちんと押さえています。APIはプロダクトです。全てのプロダクトを通じてライフサイクル、戦略、ロードマップが必要です。数年後も見すえたうえで戦略的にAPIを作っていく必要があります。似たようなAPIを開発してしまうようでは非効率であり、APIの利活用ができていないことの表れです。いま成功している企業、例えば決済のStripe、コミュニケーションのTwilioなどはまさにAPIで成り立っています。
──エンジニアのキャリアという観点で考えると、APIにはどのような可能性がありますか?
APIの専門性を持つことで、さまざまな方向でキャリアを発展させることができると思います。APIはプロダクトなのでプロダクトのリーダーはもちろん、システムアーキテクチャのリーダーにもなれます。またAPIはあらゆるサイバー攻撃の入口になりかけていますので、セキュリティの担保も必要になるでしょう。先ほどの質問に絡めるなら、経営陣に加わる可能性もあるでしょう。
インターフェースも大事です。クリックで車を呼べるUberは世界の交通システムを革新しました。日本では出前で使われていますね。こうした変革の経験、コト消費はインターフェースによってもたらされています。アップルを見ると分かるように、素晴らしいプロダクトはインターフェースで決まります。実装がいかに素晴らしくても、インターフェースが悪いとプロダクトは成功しません。
ユーザーのニーズを理解して、それを簡単かつ便利に使えるインターフェースにどのように置き換えるか。そういうことを考えられるようになると優れた設計やAPIを開発できるようになるでしょう。
──日本の読者にメッセージをお願いします。
世界の中でも日本はとても進んだ国であることはよく知られています。インパクトもあります。新しいAPIの世界になっても、引き続き世界のリーダーたることを確保するためには色々なチャンスがあると考えています。
繰り返しになりますが、API活用はテクノロジーの課題ではなく、経営課題です。瞬く間に変化する世界にて企業が成長し続けるためには、APIの成功事例を集約し、主体的にAPIに関わっていく必要があるということを日本のユーザーさんたちも気づいていると感じています。
また、APIインフラを良好な状態にし、レベルを高めていくには何が必要か、エンジニアの皆さまからのフィードバックをいただきたいです。どのように知識を共有できるか、洞察も含めて、これから日本のエンジニアコミュニティに呼びかけていきたいと考えています。そして、日本のエンジニアのみならず、経営者の方ともいい関係を築いていきたいです。エンジニアと経営者、両者が世界に渡るAPIのチャンスを把握する必要があるからです。(プログラムだけではなく)人間のインターフェースも大事にしていきたいと考えています。