社内外でのプレゼンスを高めるために
藤倉氏はここまでの話を総括して「みなさんの話から、テックリードに求められるのは課題解決力であり、技術力はあくまでその手段であることがわかる。だからこそ、テックリードというポジションは、実のところ技術1本で食っていく仕事“ではない”のだと、あらためて理解できた」と述べた。そして最後に「テックリードやシニアエンジニアが社内外のプレゼンスを高めるための方法」について、スピーカーの方々へと問いかけていく。
小林氏は「社外の人たちに向けて話す機会をなるべく作る」と語り「自社の広報のためというより、開発していて『楽しかった』とか『苦労した』などの素直な気持ちや経験を話すという姿勢が大事」と言及。小森氏も「今回のイベントのような機会があれば積極的に登壇し、そして楽しむこと」と同意。「楽しんでいれば、その気持ちが他の人々にも伝わる。普段の仕事でも楽しんでいる姿を周りに見せていきたい」と続けた。
若山氏は建設業界における「ベテラン大工」を例として挙げ「熟練の大工は、現場の限られた情報だけを見て『この箇所が重要だ』と見極め、後輩の大工はそれを見て育つ。テックリードも仕事の要点を的確に見抜き、後進も育てていけるような人物になれば、自然とプレゼンスが向上するのではないか」と語った。
藤倉氏は「『技術力が誰よりも高い』という自信を持つことは難しい。だが、『自分は楽しく働いている』という自覚を持つことは誰しも可能だ。そうした前向きな姿勢で仕事と向き合っていれば、自ずと周囲からもポジティブに見られるようになり、プレゼンスが向上していくのではないか」と総論を述べた。
おわりに
エンジニアとして技術力を高め続けたい──。これは、テックリードを志す人の多くが、胸に抱く思いだろう。テックリードは技術を用いて開発組織をけん引する立場である以上、エンジニアリングのスキルを磨き続けることは当然ながら重要だ。しかし、本パネルディスカッションで浮き彫りになったのは、技術だけに閉じない、より本質的な“課題解決力”の重要性であったように思う。
開発プロジェクトでは大小さまざまな課題が発生する。パフォーマンスやセキュリティの課題といった技術的な内容もあれば、コミュニケーションミスや各種の考慮漏れ、社内環境や市場環境の変化といった非技術的な内容もあるだろう。それらの課題と真摯に向き合い、あらゆる手段を用いて「より良い状態へと変えていくこと」が、テックリードに求められる姿勢なのかもしれない。