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ますます便利になるTypeScript! バージョン3からの変更点と総まとめ

TypeScriptに導入された新たな仕組みのデコレータ、その使い方と利便性とは?

ますます便利になるTypeScript! バージョン3からの変更点と総まとめ 第6回

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引数contextの働き

 ここまで、デコレータ関数の基本形を紹介してきました。ここまでの内容で、紹介していない引数があります。デコレータ関数の第2引数のcontextです。本節では、このcontextを掘り下げていきます。

デコレータが付与されたメソッドの情報が格納されたcontext

 これまでのサンプルコードでは、デコレータ関数の第2引数contextのデータ型としてanyを記述していました。実は、このデータ型は正しくはClassMethodDecoratorContextであり、デコレータが付与されたメソッドの情報が格納されたオブジェクトとなっています。具体的には、表1のプロパティが含まれており、それぞれの情報を取得できるようになっています。

表1: ClassMethodDecoratorContextのプロパティ
プロパティ名 データ型 内容
kind

文字列"method"

デコレータが付与された対象
name string|symbol メソッド名
static boolean staticメソッドかどうか
private boolean privateメソッドかどうか
access オブジェクト デコレータが付与されたオブジェクトの内部データにアクセスするためのオブジェクトを提供
addInitializer メソッド 初期化処理時の追加処理を設定

 例えば、リスト6の(1)の部分を、リスト9の(1)のように変更すると、コンソールへの表示内容は「メソッドshowが実行されました。」とそのメソッド名を表示できるようになります。

リスト9:contextを利用したデコレータ関数の例
function logging(originalMethod: any, context: ClassMethodDecoratorContext) {
  function replacementMethod(this: any, ...args: any[]) {
    console.log(`メソッド${String(context.name)}が実行されました。`);  // (1)
    const originalReturn = originalMethod.call(this, ...args);
    return originalReturn;
  }
  return replacementMethod;
}

 なお、context.nameは、表1のように、symbol型の場合もあります。そのため、表示する場合は、String()を記述して文字列への変換を行っておかないと、TypeScriptのエラーとなるので注意してください。

追加の初期化処理の設定

 ここから、さらに、contextオブジェクトのプロパティに関して、いくつか補足していきます。まずは、addInitializer()です。これは、メソッドとなっていますので、その引数に関数を渡すことで、デコレータが付与されたメソッドのクラス本体がnewされる際に、追加の処理を設定することができます。例えば、リスト10のようなコードです。この場合、SelfIntroクラスがnewされる際に、コンソールに「初期化!」と表示されます。

リスト10:addInitializerを利用したデコレータ関数の例
function logging(originalMethod: any, context: any) {
  context.addInitializer(function() {
    console.log("初期化!");
  });
  function replacementMethod(this: any, ...args: any[]) {
    :
  }
  return replacementMethod;
}

kindプロパティの役割とデコレータの対象

 表1のkindプロパティのデータ型が、「文字列"method"」となっているのを不思議に思った方もいるかもしれません。実は、このkindプロパティは、デコレータが付与された対象を表します。先述のように、デコレータは全てのクラスメンバ、および、クラス本体に付与できます。そして、何に付与されたのかに応じてこのkindプロパティの値は、classやmethodのように変わるようになっています。そして、実は、デコレータが付与された対象に応じて、contextオブジェクトのデータ型も変わってきます。この対応関係をまとめると、表2のようになります。

表2: デコレータの対象とkindプロパティとcontextのデータ型の関係
対象 kindの値 contextのデータ型
クラス本体 class ClassDecoratorContext
メソッド method ClassMethodDecoratorContext
ゲッタ getter ClassGetterDecoratorContext
セッタ setter ClassSetterDecoratorContext
フィールド field ClassFieldDecoratorContext
オートアクセサ accessor ClassAutoAccessorDecoratorContext

 このことから、例えば、ClassMethodDecoratorContext型のkindプロパティは、methodという値しかあり得ませんので、ユニット型(第4回参照)となっています。

各デコレータ関数の違いはcontextのデータ型

 実は、ここまでメソッドに付与するデコレータを題材に、デコレータを紹介してきましたが、その他のデコレータとの違いは、このcontextオブジェクトのデータ型が主な違いとなっています。とはいえ、そのプロパティ構成にはあまり差はありません。また、デコレータ関数の第1引数に関しても、メソッドに付与するデコレータの場合は、originalMethodという名称からわかるように、関数形式(メソッド)が渡されますが、これが、例えば、フィールドの場合は、フィールドに格納された値そのものがわかってきます。

 最後に、このような違いを、表3にまとめておきます。

表3: 各デコレータの違い
対象 デコレータ関数の第1引数 contextのプロパティ構成
クラス本体 関数 kind、name、addInitializer()のみ
メソッド 関数 ClassMethodDecoratorContextそのもの
ゲッタ 関数 ClassMethodDecoratorContextと同じ構成
セッタ 関数 ClassMethodDecoratorContextと同じ構成
フィールド フィールドの値(undefined型) ClassMethodDecoratorContextと同じ構成
オートアクセサ ゲッタとセッタが格納されたオブジェクト ClassMethodDecoratorContextと同じ構成

まとめ

 TypeScriptのバージョン5.2までに導入された新機能をテーマごとに紹介する本連載の第6回目はいかがでしたでしょうか。

 今回は、バージョン5で導入された新しいデコレータを紹介しました。そして、バージョン5.2までの新機能を紹介する本連載は、これで一区切りとなります。

 第1回を執筆した段階では、TypeScriptの最新バージョンは5.2でした。そのため、その最新である5.2までの新機能をまとめる連載としたわけですが、回を重ねる間にもTypeScriptはバージョンアップを行い、今回の原稿を執筆している時点では、5.4となっており、5.5がベータリリースとなっています。ますます機能が追加、改善され、便利になっていくものと思います。ある程度、新機能がまとまった段階で、本連載の続きとして紹介したいと思います。乞うご期待!

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この記事の著者

WINGSプロジェクト 齊藤 新三(サイトウ シンゾウ)

WINGSプロジェクトについて>有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表 山田祥寛)。主にWeb開発分野の書籍/記事執筆、翻訳、講演等を幅広く手がける。2018年11月時点での登録メンバは55名で、現在も執筆メンバを募集中。興味のある方は、どしどし応募頂きたい。著書記事多数。 RSS Twitter: @yyamada(公式)、@yyamada/wings(メンバーリスト) Facebook<個人紹介>WINGSプロジェクト所属のテクニカルライター。Web系製作会社のシステム部門、SI会社を経てフリーランスとして独立。屋号はSarva(サルヴァ)。HAL大阪の非常勤講師を兼務。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山田 祥寛(ヤマダ ヨシヒロ)

静岡県榛原町生まれ。一橋大学経済学部卒業後、NECにてシステム企画業務に携わるが、2003年4月に念願かなってフリーライターに転身。Microsoft MVP for Visual Studio and Development Technologies。執筆コミュニティ「WINGSプロジェクト」代表。主な著書に「独習シリーズ(Java・C#・Python・PHP・Ruby・JSP&サーブレットなど)」「速習シリーズ(ASP.NET Core・Vue.js・React・TypeScript・ECMAScript、Laravelなど)」「改訂3版JavaScript本格入門」「これからはじめるReact実践入門」「はじめてのAndroidアプリ開発 Kotlin編 」他、著書多数

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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